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1-3 推しの前で倒れた


***

 

 私、ノエル・フォルジュは困惑していた。


 目の前で倒れたこの男。

 キモい!なんなのストーカー!?


 どういうこと?今まではずっとラルクって名乗ってて、ガールフレンドのメルと仲良くつるんでディオン様の邪魔ばっかりして。私のことだって嫌ってたじゃない。

 それが、急に神の使いが憑依した?意味わかんない。

 本気で言っているの?何かの罠?


 でも、私の攻撃をかわしたあの身のこなし。あれだけできるなら私に勝つのなんて簡単なはずなのに、反撃するどころか剣を投げて捨てるなんて。罠にかけたいと思う人間のすることだろうか?


 あの剣、たしか『エクスカリバー』とかいう結構レアな剣なんでしょ?

『この剣さえあれば、もうアンタらに好き勝手させないんだから!』って、ラルクの腕に絡みついたメルに憎まれ口を叩かれたのは、まだ記憶に新しいんだけど。


 今までのラルクはどこに行ったの?そもそも、今までのラルクが演技?

 それか、本当に神の使いが、破滅するらしい私を助けに来たの?


 いや、でも。

 あれが神の使い…?

 私は、さっきまでのあの男の姿を思い返して、思いっきりかぶりを振った。


 ウソウソ!完っ全にストーカーじゃない!


 なんでディオ君のこととか知ってるわけ?いつ知ったのよ、どこかで覗かれてた?変質者!

 しかも、好きとか。ほんとに意味わかんない。変態。キモい。


 でも、なんか。

 よく分かんないけど、必死だった。

 私を救いたい?

 こいつ、何なのよ。何考えてるの……?


 ぐるぐる、色んな感情が行き交ってはぐちゃぐちゃと混ざり、考えても埒が明かない。

 もう!とイライラして倒れた男に目を向けると、みるみる顔が白く、青く、悪くなっていて。生気がなくなっていくようで。


 ………ああああもう、なんなのよ!

 私は、もうよく分からず半ばやけくそで杖を振り、ヒールと唱えた。



 ***



 意識が覚醒する。が、頭が干からびたようにクラクラする。

 めまいを感じながら薄く目をあけると、高いところに暗い天井が見えた。僕の部屋の白い天井ではない。黒い、岩のような石のような、ごつごつしたものが見える。ピチャンと、辺りに水滴が落ちる音が響く。


 どこだここ。

 まあいいや。もう1回寝よう


「寝るんじゃないわよ!」


 ぺシンと何かに頬をぶたれる。いたっ!


「ってうわああああノエルちゃん!!」

「どうすんのよアンタ!咄嗟に敵を治しちゃったじゃないの!!」


 さらに頬をぺしんぺしんと殴られる。いたいいたいいたい!

 慌てて起き上がると、貧血でくらっとよろめき倒れた。助けてくれるかなとちらっと見上げたけど、ノエルちゃんは助けてくれなかった。


 倒れたまま、徐々に覚醒する頭で今の状況を思い出す。


 そうだ、気付いたらラスト・ファンタジアの世界に居たんだ。こんなの現実であるワケがない。

 でも、あり得ない痛みと、気を失って目を覚ましてもまだ僕がここに居る事実。手をわきわきと動かしても、顔を触ってもつねっても、やっぱり感覚が妙にリアルなんだ。

 やっぱり、夢じゃないんじゃないか?

 となると僕は?この身体は?ラルクの身体を借りてるのか?


 は、そうだ肩は、と思ってケガをした患部に視線を向ける。見事に傷はふさがっていた。


「あ、ありがとう……!治してくれたんだ」


 ノエルちゃんは、笑顔でお礼を言った僕をジトっとした目で見ると、腕を組んで話し始めた。


「ねえ、アンタ本気で言ってるの?その、未来が分かるとか、神の使いだ、とか…」

「あ、ああ……そう、僕はキミの未来が分かる」


 僕はゆっくりと身体を起こし、いかにも不審者を見るような目でこちらを伺うノエルちゃんに向かって話し始めた。


「ディオンは『君のために幸せな世界を作ってみせる』とか言っているだろう?でも違う、本当は100年前に封印された魔王サタンを蘇らせ、この世界を自分のものにしようとしているんだ」

「サタンを復活……?」


 ポカンとしている。無理もない、ノエルちゃんは最初から最後まで、ディオンのサタン復活計画のことは伏せられていた。


 ラスト・ファンタジアの世界、ドーレディニア大陸は、100年前、闇の底から現れた魔王サタンによって滅亡の危機にさらされた。

 魔物で溢れ大陸はカオスと化したが、どこからともなく現れた大聖女がサタンを封印したことでドーレディニアは救われた。

 時を経て大聖女が亡くなった今も、継承者が封印を維持している。にもかかわらず、昨今魔物の発見数が増えていることがこの世界の問題になっていた。


「ここ最近、魔物が増えてるだろう?あれはディオンが裏でサタン復活を進めているからなんだよ」


 ディオンは、人でなしの根性曲がりクソ野郎なんだよ。

 あいつは外面だけはよくて、貴族には珍しく平民からも支持が厚いし、その上魔法の腕も立ち頭も良い。


 でもその姿だって、バレないようにサタンの種子をこの世界に埋め込み、復活を進めるためのフェイクなんだよ。

 ノエルちゃんの好意にだって気付いてるくせに、それを利用して色んなことをさせて、最後は用無しになったからって主人公たちを倒す捨て駒としてダンジョンに送り込む。


 ラスボス戦でこれが明かされた時は、コントローラーをぶん投げてしまった。

 戦闘をしかけてくる直前の、ディオンの欲にまみれた歪んだ顔。心底愉快そうな顔で『ノエルも可哀そうなやつだ』と笑った時、こいつは極刑に付すことを決めた。


 終始ディオンの言葉を信じて、ディオンのために死んでしまうノエルちゃん。

 そんなこと絶対にあっちゃいけない。君は幸せにならなきゃいけないんだ。


 だから、どうか。


 僕は、僕の持てる全力と祈りを込めて、目の前の瞳をまっすぐに捉えた。


 けれど、その紅い瞳は困惑したように揺れていた。


「そんなこと、ディオン様がするわけないでしょ。だって、ディオン様は私みたいな孤児も見捨てないで、優しく養子として迎え入れてくれた」

「ちがう、あいつは本当は自分の都合の良い未来しか考えていない。君は早くディオンから逃げなきゃだめなんだ。あんなクズなんか置いておいて、君はもっともっと幸せにならなきゃいけないんだ!」

「クズ………?何よ、何も知らないくせに」


 あ……

 ノエルちゃんは目を伏せた。声が少し、低くくぐもる。


「いきなり現れたアンタと、10年も一緒にいるディオン様。どっちを信じるかなんて、明白でしょう」

「で、でも、僕だって君のことはずっと前から見守っていたんだ!僕は君が大好きだ!嘘をついているのはあいつなんだよ!本当だ!君を助けたいんだ!」


 顔を上げないノエルちゃんの手を、僕は咄嗟につかんだ。


「僕と一緒にあんなやつ倒そう!そして、君を救いたい!」


 なんとしても分かってもらわなきゃいけない。

 絶対に救わなきゃいけない。

 僕は、彼女のために訴え、顔を覗き込んだ。


 が、ノエルちゃんは目を合わせてくれず、次第にわなわなと震え出した。


「……………アンタ、もう、なんなのよ………!」


 キッと上げた顔の目は、怒りに燃えていた。


「ラルクなんだか神の使いなんだか知らないけど、私の大切な人を侮辱するのもいい加減にしなさいよ!なんなの?もし万が一、ディオン様が私のことを愛していなかったとしても、ディオン様が私のことを救ってくれたのは本当だもの!生まれた時から独りぼっちで、呪われた子だって孤児院でも迫害されて!そんな私をディオン様が養子として迎え入れて、救ってくれた事実は変わらない!裏で何を考えていても、私は最後までディオン様の役に立ちたい。ディオン様を裏切るくらいなら死んだ方がマシよ!」


 そう言うと、僕の手を払いのけた。

 勢いで辺りに氷の粒子が飛び散る。小さなつららのような形をしたそれは、棘のようにグサグサと地面に突き刺さった。


 冷たい怒りが、彼女の周りを痛いほどひりつかせる。


 しんと静まり返る洞窟。


 どうして……

 僕は、君の幸せを願っているだけだ。

 でも、届かない。僕の言葉じゃ届かない。


 愕然とした。

 ノエルちゃんがディオンのことを慕っているのは知っていた。でも、裏切られると分かったとしてもそれでもディオンの側につくと……?

 やっぱりノエルちゃんを倒すという、このシナリオは覆らないのか?


 かける言葉が見つからず、その場が凍ること幾ばくか。

 喉がひりついて、口の中が渇いていく。


 何か、言わないと。

 でも何を?何を言ったら伝わる?


 固まる僕らの沈黙を破ったのは、視界の端でむくっと起き上がった何かだった。


「なーーーーーー!!メルのラルクに色目使わないで!!」


 甲高くてよく通る声が洞窟に響く。

 ぎょっとすると、桃色の長い髪を揺らし、ものすごい剣幕で女の子が走ってきた。


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