2-8 続・フラストレーションった
「で、まあ、ハルトがじっとしてるわけないよねぇ…」
ベンチの影から身体がはみ出ないよう、首と腰をグッと身体の内に入れた僕の隣で、同じく丸まったメルからくぐもった声が聞こえる。
「尾行しないなんて無理だろ!あいつ、ノエルちゃんに何するかわかんねえよ!」
「ノエルが心配なのは分かるけど、リチュエルの機嫌を損ねないようにね?なんとしても、サタンの契約のことはノエルに証明しなきゃいけないんだよ?」
「分かってる……だからここまで徹底して……ってああ脚が…!つった…!」
くううう…!ベンチからはみ出ないように身体をねじりながら、ふくらはぎをなんとか伸ばす。い、痛い、痛い…
「も~、危なっかしいなぁ。あ、リチュエル戻ってきたよ!」
木製のベンチの板の隙間からノエルちゃんとリチュエルを見るメルが、2人の状況をリポートしてくれる。
なんとかアキレス腱を伸ばし終えて僕も向こうを見ると、少し離れた位置でベンチに座っていたノエルちゃんの横に、ソフトクリームを両手にもったリチュエルが腰かけた。
ノエルちゃんとリチュエルがやって来たのは、小型の遊園地だった。
覚えてる、ゲームの時も来たことがある。ゲーム終盤に解放される場所で、色んなミニゲームやカジノが遊べる場所だ。メインシナリオに直接関係は少ないけど、やり込み要素として数々のプレイヤーがゲームプレイ時間を割く場所になっている。
懐かしいなぁ……特定のキャラとの親愛度が高いと、そのキャラと色んな乗り物に乗れるデートイベントがあったっけ……僕もノエルちゃんとコーヒーカップとかジェットコースターとか観覧車とかお化け屋敷とか、「はい、ポップコーン買ってきたよ。一緒に食べよ♡」とか、すんげー夢見てたなぁ……ノエルちゃんとの遊園地イベントがゲームには実装されてないってことが分かってからは、神絵師さんが供給して下さった薄い本とか買い漁ったりしてな……?
そんな悲願のイベントが。今なら僕でも実現できそうなのに。
なんで相手が僕じゃなくてあんなチャラ男なんだよ……
「ハルト、ハルト~。歯ぎしりの音うるさいの。落ち着いて。ステイクールなの」
うるせえ!そんな犬のしつけみたいに「待て」って手振りすんなメル!
あああ、リチュエルがノエルちゃんにソフトクリームを1個渡して、2人で仲良く食べてる……
ああっ、ノエルちゃん、ソフトクリームが垂れてる垂れてる…!
……ソフトクリーム食べてるの見るのってなんか背徳感あるよな……
ってああくそッ!リチュエル!ニヤニヤしながらノエルちゃんのほっぺについたソフトクリームを指さすな!ああでも照れたノエルちゃんかわいい……それを至近距離で見るあいつマジブッコロ……!
………メルが隣でステイクールってやってくるから、アツくなるのを我慢する。うん。
「あっ、ノエルちゃん移動した!」
2人は立ち上がると、リチュエルを先頭に歩き出した。建物の角を曲がったのを見届けて、僕らもその後を追う。見つからないように気を付けつつ、見失わないように素早く動く。
「はぁ……僕、これ向いてないかも……見てるとすぐカッとなる……」
「分かるよ、メルもあれをラルクが他の女の子とやってたらって思ったらはらわた引きずり出したくなっちゃう」
かわいらしくガッツポーズに免じて、物騒な言葉はスルーする。
「でもこれも、ノエルちゃんが危険な目に会わないよう守るため…!がんばれ僕!」
「何が守るためよ。さっきからちらちら姿が見えてバレバレなのよ」
!!!
角を曲がると、そこには仁王立ちのノエルちゃんがいた。
「え、ノ、ノエルちゃん……」
「はぁ。なんでついて来てるの?」
「言ったよね?ついてくるな~って」
ノエルちゃんの隣から、ひょいっとリチュエルが前に出てくる。
「俺ら今デート中だから、邪魔しないでほしいなぁ~。次はないよ?次もし尾行してること突き止めたら、もう絶対ディオン伯爵の契約のことは教えないから。よろしく?」
そう言うと、チャラリチュエルはノエルちゃんに「行こう」と告げた。
歩き出すと、リチュエルはちらりと僕の方を向き、口に手を当てて肩を震わせた。
あいつ笑ってやがる!
くそ、ものすごくムカつく……ムカつくけど、ノエルちゃんの視線が痛い……ここで喚いたって、ノエルちゃんの邪魔をするだけだ……
はーーーー。
ステイクール、僕。
たっぷり3回、お腹の底から深呼吸して、顔を引きつらせながら誓った。
「メル。決めた。もう尾行はしない。憂さ晴らしに行く」
「ハルト、目がすわってるの……大丈夫……?」
メルが走ってついてくるのをしり目に、僕はヤケである場所へ向かった。




