2-4 チャラ男にあった
反射的に音と声がした右手を向くと、路地からスラっと背の高い男が現れた。
青地に赤いハイビスカスが乱れ咲くアロハシャツに、短パン、目にはサングラスをかけている。うわ、チャラい。
訝しがる僕らとは対照的に、男はあっけらかんと言葉を続けた。
「最近、この街も人が増えて盗みをする奴も増えてきたからねぇ。いやぁ、鮮やかな魔法劇、見事だった。……って!」
チャラ男は、そこで息を呑んだ。
メルの顔をじっと見る。そしてノエルちゃんの顔も見た。次は僕に視線が、と思いきやまたもメルとノエルちゃんに戻る。
「こんなところで出会うなんて……」
ぼそっと呟いたのを、僕の耳が確かに捉えた。
なんだ?
サングラスで表情が読み取れない。黙ったまま、メルとノエルちゃんの間を視線が行ったり来たりする。
こいつ、何か知ってるのか?
聖女のメルを狙ってる?それか、ノエルちゃんに危害を加えるつもりか。
僕はヒヤッとして、念のため背中のエクスカリバーに手を伸ばした。
沈黙が続き、緊張感が漂う。
その時はふいに訪れた。
男は突然動き、軽い身のこなしでメルとノエルちゃんとの距離を詰めた。咄嗟にエクスカリバーの柄を握りしめ刀身を抜きかける。
「なんて素晴らしい出会いだ!こんなにかわいいお嬢さんが2人も!俺とデートしませんか?」
そう言って、うやうやしく一礼した。
なんだよ!ナンパかよ!!!
「あ、いや、今メルたち急いでるので……」
「メル?かわいらしい名前だ!それにこんなに分厚い本を読むのかい?聡明なオーラがあふれ出ているのは読書家だからかな?」
「あの、今メルたち契約の精霊を探してるんですけど、お兄さん知りませんか?」
「鮮やかなスルー、嫌いじゃないよ。精霊かぁ、分からないなぁ……ね、それよりデートしよ?」
男は、その整った眉をいたずらっぽく寄せた。
メルは「結構です」と断る。
「釣れないなぁ…そっちの彼女は?精霊探しなんて大変そーなことやめて、俺と一緒に遊びに行こうよ?」
男がノエルちゃんに手を差し伸べた。
慣れ慣れしくノエルちゃんに接するので眉をひそめたけど、ノエルちゃんはその手を見ることも無く、もちろん取ることもせず、「嫌」と涼しい声で言いのけた。いいぞ!もっとやれノエルちゃん!
「おっと!なんというクールガール…!素晴らしい。ツンデレだね?」
そういうと、無駄の無い動きでノエルちゃんの右手を取り、跪いた。そのままノエルちゃんの手の甲にチャラ男の顔が近づい……て?
は?こいつノエルちゃんの手にキスとかしようとしてんの!?な、なな、、ななああああ!?!?!?
「お前!!!ノエルちゃんに何してるんだよ!おい失礼だろ!はなせ!」
何がなんでも引きはがす、コンマ1秒でも早く引きはがす意思で割り込み、口が触れそうな直前にギリギリでチャラ男の肩をぐいっと押した。あぶねえ!
ノエルちゃんの前に立ち、持てる恨みを全て込めてチャラ男を睨みつける。
こいつ、なんてことしようとしやがる…!
このキザ男が!!
「この子は生憎こんなチャラい男釣り合わないんで。ナンパなら他を当たってください」
「……まあアンタも、不審者具合はあんまり変わんないけどね」
と、僕の後ろからポロっと辛口な返しが来る。
うっ……いつになったら僕の気持ちが本気だって、ノエルちゃんに伝わるのかなぁ……
悲しくなりながらも、ナンパに舐められてはいけない。
心がへにょりそうになるのをグッとこらえた。
「とにかく、僕ら忙しいんで。行こうメル、ノエルちゃん」
2人に声をかけ、最後にもう一度チャラ男に、キッとダメ押しのひと睨みを利かせた。
二度と来んな。
僕らはそのまま、ずんずん大通りを歩き出した。
全く、油断も隙もない。
泥棒も危険だ。それにナンパも危険だ。なんて街だ。なんで契約の精霊なんてお堅い精霊が澄む街なのにこんなに治安が悪いんだ。
とにかく、魅力的すぎるノエルちゃんをこのまま街に野放しにするのは危ない。メルも聖女だし、重要人物だ。ラルクの身体を借りてる分、きちんと守ってあげないとだめだろ。
と、自分の中で方針を決め、僕は2人を先導することにした。変な虫が寄ってこないよう、神経を張りキョロキョロと辺りを見回しながら進む。さらに、基本的には人に話しかける時は僕が話すようにした。
大通りにて老若男女、10人くらいに話を聞いただろうか。
頑張ったが、結局かんばしい成果は得られずだった。
「だめだな……よし、こうなったら大図書館にも行ってみよう。あそこって今開いてるのかな?」
「行ってみる価値はありそうね。メル、図書館の場所って分かる?」
「どこだったっけ……あ!あそこに地図があるよ!あれで確認しよ!」
メルが指さした先には、街の掲示板があった。
そこには、今の現在地を含めたフラルの地図が貼られていた。
商店街が終わる場所まで歩いた先に、こじんまりとした噴水と花壇がある広場がある。
その広場の右手の階段を上った先にあるのが、フラル大図書館のようだった。
よし、そこまで行こうと僕は2人を先導して歩き始めた。




