2-2 街についた
「うわわわ!?」
しゃがんだ体勢で、急に前につんのめった。ビュゴウと音を立てて暴風が前から吹き付けてくる。頭から前転してカゴから転げ落ちそうになった僕は、咄嗟に手を伸ばしてカゴのへりに捕まった。
危なっ!と思いきや間髪入れずに逆向きにカゴが揺れる。風が突然後ろから吹くようになり、後ろにひっくり返りそうになった。バランスを崩して振り落とされそうになるのを、なんとかへりに掴まってこらえる。
図らずもジェットコースターの登りの時みたいな体勢になり、自然と天を仰いだ。
ワイバーンの翼の隙間から、雄大なブルーが見えた。
空が、雲が、すごい速さで流れていく。わお、きれいだ…
って、だめだ!平和ボケする前に僕は抗議の声を上げなきゃいけない。
「何やってんだメル!!!」
「え?ちょっと加速しようと思って」
「ちょっとじゃないわよ!感覚おかしいんじゃないの!?」
風の音に紛れて、ノエルちゃんの叫び声も耳に届いた。
揺れが凄まじくてとても見る余裕がないけど、ノエルちゃんも僕と似たような状態のようだ。
「ノ、ノエルちゃん、もし危なくなったら僕にしがみついてね…!」
「アンタだって余裕ないじゃないの!アンタに掴まって共倒れなんて最悪だからね!」
良かった、ノエルちゃんいつもの憎まれ口を叩けるくらい元気そうだ!
ひと安心して、今もどんどん速度と傾きを増すカゴに必死にしがみつく。まるでジェット機のような猛スピードで運ばれることしばらく。
顔が風でパサパサになり、握力が無くなって手がしびれてきたところで、メルから「ようし降りるよー!」という声が聞こえてきた。よっし、あとちょっとの辛抱だ…!
「さあ行くよ!それー!」
「「うわあああ!?」」
胃がふわっと浮いた瞬間、嫌な予感がした。
遊園地のフリーフォール張りの猛スピードで降りていく、というか落ちていく。
おいおいおい!シートベルト無しでこれとか無謀だろ!
手を離したらまじでやばいと、最後の力をふりしぼって耐えると、徐々に落ちるスピードがゆるやかになっていった。
少しずつカゴの傾きも落ち着き、垂直に落ち着いてくる。
そのままゆっくりと、カゴが地面についた。
ヘロヘロの身体でカゴを出て、大地を踏みしめてホッとした。
こっち来てからスリリングな体験するの何回目だよ……地面に足がつく幸せを噛みしめちゃうぜ。
「あっぶなかった……っておい!メル!」
「アンタ正気!?ワイバーン車で風の魔法なんて命知らずもいいとこよ!」
ぷんすか怒りながら、ノエルちゃんもカゴから出てくる。
怒ってるけど、その顔はちょっと疲れてる。
満身創痍の僕らに対して、ピカピカの笑顔でカゴから降りてくるメル。なんでお前はそんなに元気なんだよ…!
「あー楽しかった!これだけ早く着いたんだからいいじゃん!ほら、見て見て!フラルの街だよ!」
楽しかった!?正気か!?
ご機嫌な様子で「見て!」とメルが指さす方向に、しぶしぶ顔を向ける。
そこには、木製の大きな橋と、橋の向こうに僕の背丈の2倍くらいはありそうな門があった。
門の横にはレンガの壁が築かれていて、中に背の高い建物の屋根のさきっちょがちょっと見えている。
うお、思ったよりでかい。
ゲーム中で訪れたことはある街だけど、入り口にはあんまり見覚えが無い。中に入ったら知ってる建物とか場所があるだろうか?
「さ、無茶な移動で早く着いたんだし、こっちもサクっと用事すませましょ」
疲れた顔からすぐにリカバリーして、涼しい顔で門の方へ歩いていくノエルちゃん。
僕も置いて行かれないように、その後を追った。
橋の下は深い堀になっていた。橋がギイギイ鳴るのでちょっとへっぴり腰になりつつ、なんとか無事に渡り切る。
門の前には、ひげをたくわえた年配の男と、塩顔の若い男が、槍を持って立っていた。門番なのだろう。
「すみません、街に入りたいんですけど」
メルはそう言うと、ごそごそとカバンから宝石が付いたペンダントを出した。
それを見るなり、門番たちの目が丸くなる。
「なんと、せ、聖女様…!?」
「あ、そうですこんにちは!」
「フラルの街に来てくださってありがとうございます!」
門番2人は感激したように笑顔になると、腰を折ってぺこぺことお辞儀をした。
すげえ、水戸黄門みたいだ。あんまり見たことないけど、水戸黄門。
あのペンダントが聖女の証みたいなものなのか?メルは大切そうに、その宝石がきらめくペンダントをカバンにしまった。
すぐにも門を開けようと動き出す2人に、メルが質問する。
「あの、メルたち契約の精霊を探しにここまで来たんですけど、この街のどこにいるかって分かりますか?」
門番の動きが、ぴたりと止まった。
そして、さっきまでの浮き足立った嬉しげな表情から一転、引きつった顔で2人は顔を見合わせる。
「あ、えっと……少々お待ちくださいね」
そう言うと、若い門番はいそいそと勝手口から街の中に入っていった。
残った年配の門番は、ぎこちなく笑いながら、手でしきりにひげを撫で始めた。
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