1-11 ついに、みんなで出発した
ディオンも実は、サタンにそそのかされている?
ノエルちゃんの仇は絶対倒すのが僕のモットーだから、今まで一度もディオンに負けたことはない。だから、ディオンがサタン復活に成功した未来は想像するしかないけど、まぁサタンって魔王だし、ディオンなんか簡単にひねりつぶされるような気はするよな……
僕がぼうっと考えていると、メルが「というか!」と抗議の声を上げた。
「魔物が増えた原因がディオン伯爵だなんて!あの人のせいでメルもラルクもずっと苦労してたの!もう絶対許さない!サタン復活は阻止するし、それを邪魔するディオンも倒す。そしてラルクも取り戻す!」
ああ、そうか。聖女のメルがラルクと旅を始めたそもそもの目的が、サタン復活を阻止することだっけ。ずっと自分たちの使命を誰かに邪魔されてきて、その正体が今やっとディオンだと明らかになったんだ。そりゃ、闘志メラメラになるだろう。
そんなメルの姿を見て、僕も気を締めなおす。
ノエルちゃんの目を真正面からまっすぐ捉えた。
「………そうだよ、ノエルちゃん。サタンが復活したらこの世界の人たちはおろか、ディオン自身もサタンに殺されるかもしれない。だから、止める意味でもディオンをここに連れてきてほしい。この通りだ」
もう、尽くせる限りの誠意を尽くそう。
この世界に土下座の文化があるかは分からないけど関係ない、僕は三つ指をついて土下座をした。僕なりの精一杯が伝わりますように。
頼む、届いてくれ………!
「………でも、これも全部このストーカー男の嘘かもしれないじゃない。こうやって情に訴えかけて騙す。詐欺師のよくやる手法だわ」
頭上から、ノエルちゃんの頑なな声が降ってくる。
くそ……!ぎり、と奥歯を噛みしめる。
すると、「メルはハルトのこと信じれるよ!」と、よく通る高い声が洞窟に響いた。
「だって、ラルクのエクスカリバーだって、ちゃんと取り戻してくれた。襲われそうになったメルを助けて先に逃がしてくれた。それに、大好きな人を守りたい、この気持ちの同志だよ。ラルク大好きなメルなら分かる。ハルトはノエルのこと本当に大好きだよ!」
メル……
頭を下げたまま、拳をぎゅっと握りしめる。指先と爪が、地面をガリっとこすった。
ここが踏ん張りどころだ。諦めるな僕!
「………信じてほしい、ノエルちゃん。君を助けたいんだ!」
………
再びの沈黙。
たっぷりと時間が経った後、ノエルちゃんが口を開いた。
「……何か、証拠はないの」
!
思わず伏せていた顔を上げた。展開が変わった。証拠を見たいと。これで示すことができれば風向きを変えられるかもしれない!
僕を見下ろすノエルちゃんの顔を見ながら、頭をフル回転させる。
何だ、何があるか。ディオンがサタン復活にかかわっている証拠。サタンの種子を埋めたのがディオンだって証明する?どうやって。あるいはディオンとサタンが契約した証拠とかを見せられれば。ってこれもどうやって!
って、ん?契約?
「あ!!!」
僕はメルの、その斜めに書けたカバンを人差し指でさした。
「契約!その、さっき見つけた古い本!あれ見てた時、『契約を司る精霊』とか言ってなかったっけ!?ディオンとサタンの契約状況をその精霊が証人になって話してくれたりしない?」
「あっ!待っててハルト!」
メルは急いで本を開き、序盤のページに目を走らせる。目次で該当するページを見つけたのか、ばらららっと後半の方までページをめくった。文字を指でなぞって探していくと、「あった!」と声を上げる。
「『契約を司る精霊。契約の締結、履行、破棄など、契約に関わる全てを監督し、把握する存在』だって!この精霊に会えばできるかもしれない!」
「よっしゃ来たァ!」
僕は改めて、ノエルちゃんを強い意志を持って見つめる。
「僕らはこの精霊を探して君に証拠を見せる。これでディオンが悪い奴だってことを証明してみせる!」
「…………………」
目をぱちぱちさせるノエルちゃん。
またも言葉が途切れ、次に口を開いた時、怪訝な顔で彼女はこう言った。
「………精霊?とか、その本は?とか、色々ツッコミどころはあるけど、まあなんでもいいわ。ふん、どうせ嘘よ。好きにしなさい」
ぶっきらぼうに、ノエルちゃんはそう告げた。
よっっっっっっっっっっっっしゃ!!!
思わず、心の中でガッツポーズをキメる。
なんとか1歩、チャンスをつかんだ。
あとは証明するだけだ!よし!
ノエルちゃんの気が変わらない内に出発しようと急いで立ち上がる。「メル、早速行くぞ!」とメルと共に出て行こうとした瞬間、「でもその代わり!」とノエルちゃんが声を張り上げた。
「私も一緒に行くわ」
………………………ん?
………え?
え?今、ノエルちゃんなんて言った?
「何?間抜けな顔して。私も一緒に行くと言ったの。ここまでディオン様を侮辱したアンタが逃げないよう、見張ってあげる」
え、え?
ま…………まじ……?
僕は、突然の展開にどうリアクションを取ってよいか分からず、メルはメルでどういうことだ?と頭にはてなマークを浮かべている。
「勘違いしないで。アンタたちを信じたり、気になるわけじゃないわ。私が今回ディオン様から言いつかった任務は『ラルクとメルを止めること』なの。だから、任務の遂行を考えても、ここで下手に逃げられないよう近くで見張っててあげる」
……
ノエルちゃんに見張られるとか幸せでしかないな。
「安心して、アンタたちが証明できるまで殺さないから。でも嘘だと分かった瞬間、手加減しないから。私の大切な方を侮辱した罪、甘んじて受けてもらうわよ」
「まあ、しょうがないの。それで話が早いならそうするの。ハルトは?」
「えっと、あの、えっと嫌も何も……僕はもちろん、ノエルちゃんと一緒に行けるのは大歓迎というか……え、むしろ、よろしくお願いします……?」
「ふん、交渉成立ね」
こうして、ノエルちゃんは、僕らの隣にやってきた。
え?
何やらすごいことがしれっと決まってしまった気がする。
………僕。もしかして。
ついに、ずっとずっと前から、ラスト・ファンタジアでノエルちゃんというキャラが登場することが分かった時から、ずっっっっっっっっと描き続けてきた夢が、今叶った?
『ノエルちゃんが勇者のパーティーに加わって一緒に旅をする』が、叶ってしまった?
え?いいの?こんなあっさり?
降って湧いた大チャンスも、あまりに唐突でどう受け止めたものやら。飛び跳ねたいけど本当に喜んでいいのか?嘘じゃないよな?
一歩歩くと、ノエルちゃんが付いてくる。
立ち止まると、ノエルちゃんも立ち止まる。
やべえ。
ノエルちゃんと目が合うと、うっと眉を寄せられた。やべ、なんか頬がでれでれになってる感じがする、また嫌われるぞ僕!スマイルスマイル……!
努めて厳かな顔になり、キリっとして僕はこう言った。
「これからよろしく、ノエルちゃん」
「キモ」
思いっきり不愉快そうな顔でそう返された。
こうして、ゲームの主人公に憑依した高校生と、メインヒロインと、敵キャラの3人の歪なパーティーは、共に精霊を探す旅路に1歩を踏み出した。
「まずは、この精霊が祀られてるこの街を目指すの」
「了解!」
「ふん。早く歩いて頂戴」
薄暗い洞窟を出て、僕らは外の世界へ足を踏み入れた――
***
時を同じくして、ある場所にて。
「あー、もう我慢の限界!」
きゅぽ、とペンを取り、紙に書く。
「『探さないでください』っと。よし!」
男は、その整った口をニッと持ち上げ、その紙を残して長年暮らしたその場所から旅立った。
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