1-10 ついに切りかかった
視界いっぱいのまばゆい光が消えていき、次に見えたのは慣れ親しんだ場所。
やっと、僕のホーム、ノエル・フォルジュ戦のフィールドに帰ってきた。
そして目の前にはいつもの如く僕の推し。
って、あれ?ノエルちゃんは?
きょろきょろと見回すと、崖の縁にその姿を見つけた。
膝を地面に付いて何してるんだろう…って危ない!そんなに身を乗り出したら崖に落ちちゃうって!
って、もしかして、落ちた僕のこと心配して崖の様子見てたり……?
「ノエルぅぅぅ!覚悟おお―――!!」
ドキッと甘酸っぱい余韻をぶち壊す隣のメルの大声。ダッシュしてそのまま元気にノエルちゃんの元へ突っ込んでいった。
おい!いきなり大きな声出して、ノエルちゃんがびっくりして崖から落ちちゃったらどうするんだよ!その場合は僕もまた崖に飛び込むからな?メルもちゃんと助けに落ちて来いよ?
ノエルちゃんはメルの声で僕らに気付いたようで、やっぱり肩をびくっと震わせた。
「ちょ、ちょっとアンタたち!いつの間に!」
良かった、落ちたりはしなかった。
慌ててるよ。取り繕ってるその感じ、やっぱり僕のこと心配してくれてたから……?
というか、照れてるのはもちろん最高だけど、ツンデレで普段クールな子の驚くリアクションってかわいいよなぁ……
普段は高嶺の花みたいな孤高のオーラ出てるのに、びっくりした瞬間だけは無防備になっちゃうわけ。等身大の素直な反応っていうかさ、彼女の素を垣間見ちゃう感じ?一種のギャップ萌えとも言えると思うんだよ僕は。
ゲームだとやっぱり演出の限界なのか、ここまでリアルなびっくり反応とかは表現されないわけなんだけど、実物だとこういうとこまで見れちゃうんだよな……すごいな3次元。
メルはノエルちゃんに襲い掛かると、そのままビタンと倒して身動きを封じた。
「ハルト!お願い!」
おっと忘れるとこだった。
よし。任せろメル。
両手に大剣、エクスカリバーを構える。
「なっ、それ……!エクスカリバー!?」
ノエルちゃんの驚く声。
ちらりと2人に目をやると、ノエルちゃんの顔に焦りが浮かんでいた。魔法を撃とうと咄嗟に羽根ペンを取ろうとした右手を、メルの左手がガシッと掴む。
「なっ!」
「メルがおさえてるの!今のうちに!ハルト!」
メルからの信頼を感じる……
僕は両手を握り直し、自分の斬るべき対象を見つめた。
向かう先はラスボスディオンへとつながっている、前回通れなかった入口。
よし。
僕は、グッと地面を蹴り全速力で走り出した。
ぐんぐん距離が縮まっていき、前回僕らが阻まれた位置が近づいてくる。
あそこを突破できればディオンまで一直線だ。
目の前に来た。
よし!ここだ!
僕は、透明の壁があるだろう場所にエクスカリバーを振るった。
シュパンッ!
光る刀身が、輝く一閃の残像を生み出す。
よし!
僕は、持てる全ての力を込めて――
「うらああああああああああああああああ!」
と、威勢だけは良く、そろりと右手を前に出す。
トン、と指先に触れる壁の感触。
うん、やっぱりそうだよね。良かった勢いに任せて突っ込まなくて。
「やっぱりだめなのー!?」
メルはぱたぱたとこちらに駆け寄ってきた。
上に乗っかっていたメルがいなくなり自由になったノエルちゃんは、一時ポカンとした後、慌てて髪をかきあげながら颯爽と歩いてきた。
「ふ、ふん。やっぱりエクスカリバーとかなんとかいう剣でもダメなようね」
整った顔がツンと勝ち誇る。
さっきまであんなに焦ってたのによく言うぜ。
まあ、やっぱり想像通り、エクスカリバーとかで物理的に攻撃するんじゃこの壁は壊せないってことだ。ラルクの剣を取り戻すっていうミッション的にはOKだったけど、ディオンを倒すためには別の策を考えなきゃいけない。
「ほら、諦めなさい。ディオン様を倒すなんて百億年早いのよ」
「嫌だ!それじゃあラルクが帰って来ないよ!」
バンバン壁を叩くメルは、僕に向かって「ねえハルト!他にラルクが帰ってくる方法はないの!?」って泣きそうな顔で聞いてくる。そうだよな……心が痛い。
「……えっと……ごめん、すぐにパッとは思いつかない……」
「そんなぁ……」
メルは、そのまま膝から崩れ落ちてしまった。
この入り口からずっと奥まで行った先に、ディオンは待っている。他に抜け道は、ない……
ゲームで攻略する分には1本道で楽だったけど、それが仇になるとは……
どうすべきか頭を悩ませていると、突然「そうだ!」とメルが手を叩いた。
「分かった。ノエルはこの壁通れるでしょ?ここまでディオン伯爵連れてきて!ここで倒そう」
なるほど?そうか。
僕らが通れないなら来てもらえばいいんだ。
期待を込めて、ノエルちゃんの顔を見る。
「そんなの、私が許すわけないでしょ?」
が、まあ、そうなるよね……
ここに来て八方塞がりだ。
ノエルちゃんは倒したくない。
でも、ノエルちゃんを倒さないとディオンのところまで行けない。
倒さない限り、ラルクも帰って来ない……
やっぱり、ノエルちゃんを倒すしかないのか?
しかも、僕の手で?
…………………………
…………………………
……………………嫌だ、そんなの。
何か方法はないか、探したい。キミにちゃんと、言葉を伝えたい。
できることを諦めたくない。
「……ノエルちゃん、ごめん、キミにとっての大切な人を悪く言って本当にごめん。でも、でも、あいつは本当にキミを騙してるんだよ……キミには絶対、今度こそ絶対、幸せになってもらわきゃいけないんだよ……」
ぽつりぽつりと出てくる言葉を、心を込めて紡いでいく。
「ただただキミが、大好きなだけなん」「え?ディオン伯爵ってノエルのこと裏切ってるの?」
僕の渾身の愛の言葉に空気の読めない間抜けなトーンで被せてくるメル。
お、お前……!今僕めちゃめちゃかっこつけてたんだけど……!
でもそうか、ディオンの正体はメルが目を覚ます前に話したんだっけ?
僕は、告白の腰を折られたことなんて1ミリも根に持たず、寛大な心でディオンの正体を逐一丁寧に真心込めて説明してあげた。かくかくしかじかチクチクトゲトゲ。
「ディオン伯爵がサタン復活を計画していた……だから最近魔物が増えてるの?全部ディオン伯爵のせいなの?」
「ディオン様のこと悪く言わないで!こいつの言ってることが嘘かもしれないじゃない!」
「でも、本当だったら?」
「それでも、私は最後までディオン様の味方をするわ」
「ふーん……でも、ディオン伯爵って、本当にサタンを蘇らせて幸せなの?」
え?
「だって、この世界を乗っ取るって言ったってサタンと一緒にでしょ?それ、サタンにうまいことそそのかされてるだけなんじゃないの?蘇らせても結局サタンに殺されるなりなんなりされちゃうんじゃないの?」
………確かに?
メルのツッコミに、その場はシーンと静まり返った。
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