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地縛霊は役に立つ  作者: 古新野まーち
6/7

不可解な夢と山田肇

山田肇は自分がいま人の形をしていことに気がついた。感覚だけがあってそれ以外はない。自分は風なのかもしれない。自分は光なのかもしれない。自分は熱なのかもしれない。そのどれでもないのかもしれない。


I just believe in me という歌詞を思い出したが、そのmeが消失しているのなにをbelieveするんだ? と彼は頭を抱える感覚があった。

転がるようだと肇は感じた。運動会の大玉転がしだと彼は納得した。なら自分を押す存在があるはずだ。


――肇くん頑張ってね


――僕が何を頑張るって?


彼はいつのまにか石畳の上にいた。石畳には血の筋があった。しかし、行き交う人々はこれを無視する。そもそも認識すらしていないのだ。


ヒールの女性は、爪先で血だまりを踏みつけたのに平然としている。スニーカーの青年も、パンプスの女子高生も、デッキシューズの老人も、誰も気がつかない。


『たすけてくださいっ』


声をかけられた。肇は、返事をしようとしたが、返事をするということがどういうことかすら分からなかった。

『大丈夫ですか』

『すごく痛い、すごく寒い、すごく、すごく地獄にいるようなんです』

『ここはコンビニですよ』

女たちが会話している。平然としている方の女を、肇は美しいと感じた。もう一人の女は頭から血を流し続けている。この血だまりは彼女のものだったのだ。


『痛い、なにもかも痛い、足が、腹が頭が』

『どうやら飲酒運転の車にぶつかって亡くなったようですね、あなたは』

『違います。ここで救急車を待っているんです。誰かが呼んでいます。これだけ人がいるんです。たまに手を伸ばして助けてとも言っていますし、いつか救急車が来るはずなんです』

『いえ、あなたは既にコンビニの地縛霊なんて呼ばれてますよ』

――どこかで聞いたことあるなぁ、と肇はぼんやりと考えた。

美しい女が生真面目な声で言った。

『いいところがあります。そこの住人の見張りをするだけです。そうすればあなたを助けてくれる何かがきっと現れますよ』

『本当ですか?』

肇は胡散臭いやり取りに眠気がした。

――あれ、喉が渇いてる?

肇は自分が乾燥していくような感覚におそわれた。

不意に自分が活性炭のような、ミイラのような、隙間だらけの存在になった。

そして頭から血を流し続けている女に向かって放り投げられた。

すると女は肇の体内に浸透していく。


『さぁ行きましょうか』と美しい女は肇を握りしめて歩き始めた。そのままどこかのアパートのどこかの部屋に入り込んだ。

見覚えのある明るい茶髪の女が眠っていた。その枕元に肇を放り投げた。すると美しい女は何かを唱えた。


肇の存在に空いていた穴からガスのようなものが放出されると、それを寝ている女が鼻から吸い込んだ。女は胸を押さえて咳き込む。明らかに寝苦しそうだ。アァ、アァ、と喘ぐ。

美しい女はその耳元にひっそりと囁いている。ただの塊である肇には何もできなかった。

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