14.そしてこうなる
ガドウィ様がお帰りになると、入れ違いのようにエーリクがやってきて言った。
「ちっ、ぼそぼそ二人で話しやがって。全然聞こえなかったじゃないか。フロレンス、殿下に何か言われたか?」
ほんとそういうところ、どうにかなりませんかね?
「今までのことは誤解だとわかっていただけたと思う。迷惑をかけてすまなかったと言ってくださったから。エリザベス様ともお話をしてくださるみたいよ?」
きっと誤解は解けた。そんな気がして私はほっとしていた。
「そうか。ならあっちはあっちで任せられるかな。これから先は二人の問題だろう。エリザベスも正念場だな。まあ根性あるから大丈夫だろ、きっと」
「ん? ちょっと……? 何でエリザベス様のことが呼び捨てなの? そんなに親しかった?」
食いつくところはそこじゃあないとわかってはいるけれど、でも気になってしまったのよ。なんでそんな親しげなの。そしてなんで性格までそんなによく知っているの?
「あ? ああ、親同士が知り合いだから昔から交流があったんだよ。同じ侯爵家同士だし。お互い小っちゃいころから知ってるからな」
「ふうん?」
「なに、妬いてる?」
目を輝かせてこっちを見るな。
「いやあ……えっと、ちょっと気になっただけ?」
「おお? 妬いてるのか? 初めてだなその反応」
「気になっただけだってば! 全然知らなかったから!」
「へえ? でも初めて知ろうとしたもんな? そうか気になったかーよしよし」
そう言って嬉しそうにエーリクが私の頭をポンポンしてくるものだから、なんだか落ち着かない気分になってしまったではないか。
なんかこの人、最近馴れ馴れしく触ってくることが増えたのよね。そしてその度に意味不明の動悸がしてしまうというのは、本当に困ったことだ……。
結局私はその後、予定通り田舎の領地へ帰った。
ガドウィ様の誤解は解けたとはいえ、どうせ今後パーティーや他の社交を続けても今度は私が「ガドウィ様に飽きられて捨てられた女」として噂の的になるだろうというのは容易に想像が出来た。そんな状態で社交なんて嫌すぎる。それくらいなら体調を崩してチャンスを棒に振ったと思われた方がましだった。なんなら王子が嫌で逃げたと思ってもらってもかまわない。
それに貴族の令嬢が社交界にデビューするそもそもの目的である結婚相手探しも気付いたら終わっていたような状態だったし。
なのでもう今年はこのまま田舎でのんびりしてもいいかなと思っている。私はもともとそんなに社交大好きと言うわけではなかったし、元々のガドウィ様崇拝もちょっと今はもうお腹いっぱいでしばらくはいいかなーと。でもそうすると、がんばってパーティーに繰り出す理由がね……もう無いのよね……。
だけれどエーリクがとっとと結婚式しちゃおうぜ、と言うのは今はお願いして、少し待ってもらっているのだった。
急いで結婚する理由がなくなった今、もう少しゆっくりと準備とか、心構えとか、やっぱりしたいと思ってしまって。それに衣装とか嫁入り道具とかのお式の準備を、せっかく普段は内気な母様が張り切って準備したいというのを一人娘としては無下にもできないというのもあって。なのであと半年は、久しぶりに会った父様とも一緒に懐かしい領地の我が家で過ごす予定だ。
そんな事情で私は最近、田舎らしいのんびりした日々を過ごしていた。
ただ、のんびりしていたらリリアナから怒濤の勢いで手紙が送られてくるようになったけれど。
その手紙の内容をだいたい要約すると、
「ガドウィ様があなたに振られたっていう噂だけど、一体何があったの!? だいたい何も言わずにさっさと田舎に行っちゃうのはずるくない? 友達なら一言先に教えてくれてもいいんじゃないの? そして説明しなさい!」
というものだった。
どうやらガドウィ様は私の悪評が広まらないように、自分が悪者になってくださったようだった。
そしてリリアナからの続報によると、エリザベス様ともまた交流を始めたらしいとのこと。
きっとお二人で話が出来たのではないかと思う。心から良かったと思った。
近い将来、並び立つ美しいお二人の姿を拝めるように、ぜひなってほしい。
お二人の絵姿が売り出されたら、私は真っ先に買うんだ……!
でもさすがにそんなガドウィ様の詳しい話をうっかり手紙に書いて他の人に読まれたら困るので、今度会ったときに話すと返事をしたんだけれど、そうしたらなんと、まだシーズンは終わっていないというのに彼女は馬車を飛ばして彼女のお姉様と一緒に田舎の我が家にまで飛んできたから驚いた。
ちょっと、リリアナはわかるけど、お姉様は目的が違いそうですが? たしかエーリクに憧れているって言っていたよね!?
「フロレンスちゃん、あなたが田舎に引っ込んでいるあいだにガドウィ様がエリザベス様とよりを戻そうとしているわよ? いいの? ほっといて。え? いいの? あらまあせっかくお妃さまになれるところだったのにもったいない。わたしだったらガドウィ様の熱が冷めない間にさっさと結婚に持ち込んじゃうのに。じゃあ、エーリク様と結婚するの? 本当に? あらあ……そう……」
って、とっても残念そうに言われたからやっぱり目的はそっちだったんだよね?
でも渡さないからね? なんなら戦うよ?
だけどもなんだか溌剌と人生を楽しんでいる感じの楽しいお姉様なので嫌いにはなれず。二人が来てくれて、田舎の我が家が一気に賑やかになって楽しくもあり。
しばらくして自分の領地に帰っていたエーリクが、なぜかうちの兄様と一緒に私の家に現れた時にはリリアナのお姉様の気合いが俄然アップしてちょっとハラハラしたのだけれど、結局、みんなであちこちに観光に行ったりピクニックに行ったりして楽しく仲の良い友人として過ごしていた。
ら。
リリアナから、
「フロレンス、実は言いにくいんだけど、どうやら姉がエーリク様を諦めたみたいなのよね。まあエーリク様はあなたばっかり見つめているから、さすがに思い知ったんだろうと思うのよ。あんなに『フロレンス、早く式挙げようぜ。準備長えよ』なんて言うのを聞いていたらさすがにね。でもね。そうしたら、今度はあなたのお兄様が素敵って言い出してね……ちょっと聞くけどアルバート様は決まった方はいらっしゃる? 好きな人は? アルバート様に私、警告した方がいいかしら……?」
と真剣な顔で相談されたのだった。
お姉様……つよいわ…………。
ええと、がんばって……?
最後までお読みいただきありがとうございました。
直前まで出すかどうか迷った作品ではありますが、もしお一人でも楽しんでいただける方がいたらいいなと思って投稿することにした作品でした。思っていたよりもブクマ、評価ともにいただけてとても嬉しいです。ありがとうございました。
最後に、ご感想がわりに↓から評価をしていただけたら、全私が泣いて天に感謝の祈りを捧げます。
どうぞよろしくお願いいたします(平伏)