13.ガドウィ様
麗しい銀髪をさらさらと掻き上げながら私を見るその碧い瞳は、真剣な中にも迷いがあるようだった。
ああ麗しい天使のかんばせ。容姿は完璧。でもだからこそ、その天使の隣には女神のごとく美しい女性が似合うと思う。私はそれを眺めていたい。そして願わくば、その二人が幸せでありますように。
「本当です。エリザベス様はガドウィ様のことをそれは大切に想われていらっしゃいます。きっと誰よりもガドウィ様のことが大切だと思っていらっしゃるのではと私は思っております。ですから僭越ながら私はエリザベス様に、そのお気持ちをぜひガドウィ様にお伝えするべきだと申し上げました。ガドウィ様、ぜひエリザベス様とお話をして、エリザベス様のお気持ちを聞いていただければ嬉しいです」
「エリザベスは君を邪険にしていたのではないのか?」
「いいえ。私は昨日まで、そもそもエリザベス様とお話ししたこともほとんどありませんでした」
ガドウィ様が驚いたようにちょっと目を見張った。
そういえば、こういう話をガドウィ様としたことは無かったわね。なにしろガドウィ様と一緒の時というのは今までは常にパーティー会場だったから、周囲の耳目のあるところでそんな個人的な話は出来なかったのだ。
パーティーでのガドウィ様と私は、周りに注目されて舞台に立つ俳優と女優のようだったとふと思った。
「そうか……。では私の誤解だったのだな。あともう一つ聞きたい。君は……」
そこまで言ってガドウィ様は言うか言わないか迷っているような様子になった。
しばらく迷って、そして思い切ったように口を開く。
「君は何年も前から私がふと見ると、いつもうっとりと私を見つめてくれていた。でも最近はそうではない時もあることにも気付いている。たまに憂いているような顔をする時もある。それは私の知らないところでエリザベスやエーリクやもしかしたら他のものたちが意地悪でも言っているのかと思っていたのだが、そうではなかったのか?」
ガドウィ様が私のことを全然見ていないようで、実はよく見てくださっていたということが、この言葉からは感じられた。
きっとそこまで悪い人ではないのだろう、根は。ちょっと思い込みが激しいだけで。
そしてその地位のせいで、たとえ思い込みで暴走したとしても今までそれを諫めてくれる人がいなかったのだろうな、とも思った。それこそエリザベス様以外は。思い返せばどこのパーティーに行っても誰も彼もがガドウィ様の言いなりで、その言動に異を唱えるような人は誰もいなかった。私を含めて。誰も。
「申し訳ありません。わたしのそのうっとりは、もちろん本当にうっとりしていたのですが、でもそれは愛とか恋とかいうものとは少し違った、子供が抱くような素敵な王子様への憧れだったのではないかと今は思っております。そしてエリザベス様にもエーリクにも他の誰にも、私は何も意地悪はされておりませんでした」
誠意というのは、何でも正直に言うことではないのかもしれない。でも、今私に出来ることは、嘘を言わず、でも期待もさせず、正直に説明することなのではないかと思ったから。
「そうか……恋ではなかったか」
ガドウィ様が寂しそうにつぶやいた。
「誤解を招くような行動をして申し訳ありませんでした」
私は頭を下げる。軽率な行動でガドウィ様に誤解をさせてしまったそもそもの原因が、私の今までの行動なのは間違いなかったから。
うん、もっとこっそりやるんだった。
あんなに派手に友達を巻き込んでキャーキャー言って、周りがどう見るのかを考えていなかった私は配慮が足り無かったのだ。
これからはこっそりやろう……。
「君は、エーリクには恋をしているのか?」
「えっ?」
恋? ……ええと……そんなはっきり聞かれてしまうと、ちょっと困るのですが……。
だってまだ晴れやかに「はい」と言うほどには確信がないというか恥ずかしいというか、むにゃむにゃ。なにしろ自覚したのも昨晩で……しかも絶対昨日みたいにエーリクがドアの外で聞いているだろうから……。
でもそんな目を泳がせて言葉に詰まる私の様子を見ていたガドウィ様は、
「ああ、なるほど……。では私は迷惑をかけたね。誤解していて、すまなかった」
そう、残念そうに言ったのだった。
え、何を読み取ったのかしら、ガドウィ様。
しかも王族に謝られてしまった……!
「いえそんな……私もちゃんとお話しできませんでしたし……」
これは私は土下座しないといけないかしら?
まさか王族に謝罪をされるとは思っていなかったから。
土下座するならそのテーブルを避けてあそこがいいかしらなどと近くの床を凝視していたら、ガドウィ様が座り直した気配がした。思わず見上げてみてみると。
「そうか……誤解か。なら、エリザベスにも謝らないといけないな」
ガドウィ様はそう言いながら真剣な顔で空を見つめていた。
「おそれながらエリザベス様は賢明でお優しい方だと思いました。ぜひお話を聞いて差し上げてください」
そして、エリザベス様の愛を知って欲しい。そして出来たら、ガドウィ様もその気持ちに応えて欲しいと私は切に願ったのだった。