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1−6

 トートが、おばあさんが持つパンケーキに手を伸ばします。しかしおばあさんはトートの手をかいくぐり、パンケーキを飲み込みました。

 ライリーとルボが唖然としている前で、おばあさんは血を吐いて倒れてしまいます。

「しまった!」

 ルボが慌てておばあさんのそばに駆け寄りますが、もう、手遅れでした。

 ライリーの目は虚ろです。

「どうしたんですか!」

 開けっ放しになっていた扉から、男が入ってきました。男は、森の反対側の村に住んでいる狩人でした。

 狩人は、おばあさんを見て一瞬眉をひそめましたが、ライリーを見た次の瞬間、目を見開きました。

「カリーノ! もしかしてカリーノじゃないか?」

 狩人が呼んだその名は、もうほとんど使われていなかったライリーの本当の名前でした。カリーノとは「かわいらしい」と言う意味です。

「失礼ですが、あなたは?」

 ルボが尋ねます。

「この子の父親です。以前は妻と暮らしていたのですが、ある日突然妻と共に居なくなってしまって」

「そうですか。――ところであなたはこちらの方をご存知ですか? 石自体には興味が無いので、お知り合いでしたら埋葬などはそちらに」

「石……?」

「ああ、すいません。どうしても回りくどい話し方をする癖がありまして。錬金術では身体を象徴するのが石でして」

 ルボが話を進めていきます。その傍らでライリーは、おばあさんの死体をじっと見つめていました。

 トートは、おばあさんの目を閉じさせると、身体の向きを変えてライリーを――ずきんを見つめました。トートが始め模様だと思っていたそれは、ルボの言ったとおり、血痕でした。

「ああ、なるほど。しかし、初めて見た方です。……ところで、あなたは錬金術師なんでしょうか。それに、状況も教えていただきたいのですが」

 狩人が困惑した表情で尋ねました。

「あなたの疑問ももっともです。しかし、申し訳ないながらお教えするわけにはいきません。ただ、教皇様のご意思とだけ……」

 その返答を聞いた狩人は、深く頷きました。この国の人々にとって、教皇の意思は絶対なのです。

「分かりました。では、その方のご遺体は」

「ええ、こちらが責任を持って埋葬させていただきます。ただ、問題はその子ですね。引き取られますか? この森を西に行った村に、母親も居るそうですが」

 ルボと狩人の視線がライリーに向けられます。

 トートが口を開きました。

「どうする? おとうさんと一緒に住むか? それともおかあさんのほうが良いなら――」

「おとうさんと一緒に住む」

 トートの言葉をさえぎって、ライリーが言いました。それまでとは打って変わって、きっぱりとした口調でした。

 そして、ライリーは狩人を見上げ付け足しました。

「だって、おかあさんは死んじゃったもの」

 ライリーの顔には、笑顔が浮かんでいました。

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