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おばあさんは話し始めましたが、本当は話すつもりは無かったのでしょう。表情には驚きが表れていました。
「あの子は、私の実験台なのさ。ある日、即効性の毒を飲ませたら、なぜか死なずに髪が赤くなったんだ……どうしてライリーの髪が赤いのを知っている」
「尋ねているのは僕なのですが……いいでしょう。
彼女に会ったのですよ。森の中でね。彼女と目線を合わせるためにかがんだとき、ずきんからはみ出していたのです。同じ色のずきんで隠してはいるようでしたがね。
では、次の質問です。彼女のずきんにところどころ血が付いていたのはどうしてですか? 血の状態から、どうやらつい最近に付いたようですが」
ルボの質問を聞いたおばあさんは、いきなり、大声で笑い出しました。
「知らないよ、予想はつくけどね。あの子は母親のことが嫌いなのさ。
えっと、血の話だったねえ。その血は私のせいじゃないよ。ルッソでの実験をするときはいつもあの子を裸にするからね」
抵抗しても無駄だと知ったおばあさんは、抗うことなく言葉を紡いでいきます。
「そうですか……では、次の質問です。
外れ物のくせに、このような人気の無いところに一人きりで住むとは珍しいですね。本来ならば大勢の外れ物が居るところに住んで、外れ物が情報を交換し合うという集会などにも行くでしょうに、なぜですか?」
「別に、一人って訳じゃないさ。でも、大勢は嫌いだからね。二人も居れば十分――」
コンコンコン……
おばあさんはルボの質問に答えようとしましたが、ノックの音に遮られてしまいました。
「誰だい?」
おばあさんが問いかけます。
「私よ。ライリーよ」
「そうかい。扉は開いているから、入っておいで」
家の中に入ってきたライリーは、首を傾げました。
「どうしてルボさんとトートさんがここに居るの?」
「ちょっと、ね。君のおばあさんに用があったんだ」
ベッドに座ったまま、ルボは優しげに言いました。
「ふん。よく言うよ――ライリー、何を持ってきてくれたんだい」
「おかあさんから頼まれたワインを」
そう言いながらライリーは、かごをおばあさんに渡しました。
ルボは問題無いと思ったのか、見ているだけです。
「おや、このパンケーキはなんだい?」
おばあさんは、ワインの入ったかごをそばのテーブルに置くと、かごの中に一つだけ入っていたパンケーキを掴みました。
「おかあさんが、お腹が空いたときのために。って作ってくれたの」
トートが目を見開いて、いきなりおばあさんの元へ駆け出しました。
「そうかい。――じゃあ、ライリー。あんたは明日からもう、来なくて良いよ」
おばあさんは、ライリーに向けて微笑みました。そして、ルボを睨みます。
「あんたの思い通りにはさせないよ」