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「教皇直属外れ物専門部隊、狼の一員、ルボと申します。こちらはトートです」
ルボに続いて、トートもお辞儀をします。
トートとルボが所属している「狼」は、街の教会を通さない、教皇直属の部隊になっています。「狼」に命令できるのは、国中にある教会全ての最高責任者である教皇だけです。教会を中心に成り立っているこの国では、教皇の力は時に、国王の力をも上回ります。
「――もう会うことはないでしょうから、覚えなくても結構ですよ」
ルボの顔に浮かんだ笑みは、先ほどライリーに見せた優しげなものと正反対の、冷たい笑みでした。
トートはルボの邪魔にならないように、扉のそばに立っています。
「外れ物専門部隊……狼?」
おばあさんにはルボの言葉の意味が分からなかったのでしょう。眉をひそめておばあさんは呟きました。
「知りませんか?――それではスコールとハティと言う二匹の狼のお話はご存知ですか?」
「太陽と月を追い続ける兄弟の狼だろう。それくらいは、知ってるさ。私も外れ物の端くれだからね」
おばあさんは警戒しながら答えました。
「おや、自分が外れ物であることを肯定しましたか……それはさておき、話の続きをしましょう。
あなたのおっしゃるとおり、スコールは太陽を、ハティは月を追いかけています。世界が終わるときには、二匹は太陽と月に追いついて飲み込んでしまうと言いますが、さて、この太陽と月は一体何を象徴しているのでしょうか」
「そんなの知らないね」
おばあさんの警戒は、未だ解けませんが、ルボは構わずに話し続けました。
「そうですか。まあ、これは錬金術の分野ですし、知らないのも無理は無いでしょう。
太陽と月は錬金術において、精神と魂を象徴しているのです。――ここまで言えば、僕がどうしてあなたの前に現れたのか、お分かりになると思いますが」
「私を殺しに来たのかい」
「それだと少し、語弊がありますね。言ったでしょう? 僕はあなたの『肉体』を食べに来たわけじゃない。具体的に言うと『知識』をもらいにきたのですよ」
「つまり、知識を蓄えているのが精神と魂と言うわけかい」
「まあ、そんなところです。この後、あなたは僕に教会に連れて行かれます。そこで異端裁判にかけられるわけですが、間違いなく有罪になるでしょう。特にあなたは、先ほど自分で自分が外れ物だと認めましたからね。ですが、『外れ物は殺したいが、外れ物の知識は欲しい』と言うのが協会の考えなのでしょう。あなたたち――外れ物の持っている知識を聞き出し、持ち帰ることが、僕たち狼の役目なのですよ。まあ、詳しいことは知りません。僕も命が惜しいもので。
――と言うことで、あなたにはいくつか質問しますが、答えてもらえますよね?」
おばあさんは、はっ。と小さく吐き捨てると続けました。
「そう言われて、おとなしく教えると思うかい」
しかし、ルボは微笑を浮かべたまま言い返しました。
「なぜ、僕がわざわざこんな長い話をしたと思いますか? 僕は、生まれながらにおかしな能力を持っていましてね。自分が外れ物と言われないように、『狩られる側』ではなく『狩る側』の『狼』に所属しているのですが――」
そこでルボは、右側の壁際にあるおばあさんのベッドに腰掛けました。
「僕と相対している人が、僕の話を聞いて、これから自分の身に起こることを理解したときに限り、僕はその行動のみを起こさせることが出来るのですよ。試しに一つ、質問してみましょうか。
――赤いずきんを被っている少女の髪が、血のように赤いのはなぜですか?」