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1−3

「……どうして花畑へ向かわせたんですか?」

 ライリーの背中を見守っていたルボに、トートが問いかけます。

「あそこにある赤い花は、魔の花です。ルボさんならご存知でしょう? 大人でさえ誘惑に勝てないのに、ましてやあんな子供が正気を保っていられるとは思えません」

 トートには、なぜルボがライリーを花畑へ向かわせたのか分かりませんでした。魔の花には、人を眠らせたり幻覚を見せたりする効果があるのです。

「彼女はどこへ向かうと言っていましたか?」

 振り向いたルボが逆に問いかけました。

「おばあさんの家に。と」

 トートは、いきなりの質問に困惑しながらも答えました。

「そうです。そのおばあさんと、僕たちが探しているおばあさんが同一人物では無いと言い切れますか?」

 トートは言葉を紡げませんでした。

「こんな森の中です。むしろ同一人物である可能性のほうが高いでしょう。……君は、彼女に僕たちの仕事を見せるつもりですか? 少しの間、少しの間でいいのです。僕たちが仕事をしている間だけ寝てくれていれば。子供の身だからこそ、狂って幻覚を見る前に眠る可能性のほうが高いでしょう。あとは、帰り際に僕たちが起こしてあげればいいんです。早めに眠れば、身体への影響は少ない。何日も放っておいたらさすがに別ですが、半日経つ前に起こせば大丈夫でしょう」

 トートは恥ずかしくなりました。自分がどれだけ深く考えていなかったのかを知ったからです。同時に、ルボが丁寧に話してくれたことに感動していました。失礼な物言いを無言で切り捨てられても仕方が無いのに、ルボはわざわざ教えてくれたのです。

「……すいませんでした」

 やっとの思いでトートは、呟きました。

「いいんですよ。初めは分からないことだらけです。その時その時に、学んでいけばいいんですよ」

 そう言ってルボは歩き始めました。

「――ルボさん」

「はい?」

「そっちは逆方向です」

 ルボは目的地と反対の方向に、足を踏み出していました。


             ◆◇◆


 トートとルボがライリーと分かれてから、しばらくたった後。二人はなんとか、目的地であるおばあさんの家に辿り着きました。

「ここからは僕の領域です。君は黙って見ていてくださいね」

 ルボの言葉に頷いて、トートは家の戸を叩きました。

 コンコンコン……

「ライリーかい? 戸は開いているから早く入っておいで」

 中から聞こえたおばあさんの声に、トートとルボは顔を見合わせ、戸を開けました。

 トートとルボから見て、正面の壁にある暖炉の前に老婆は立っています。どうやら、暖炉にかけた大きな鍋をかき混ぜているようです。

 暖炉を向いたままのおばあさんは、戸に背を向けている形になるので、入ってきた人が誰かは分かりません。

「新しい薬が出来たからね。また、飲んでもらいたいんだよ」

 トートは、おばあさんの背中から少し視線をずらすと、無言のまま顔をしかめました。トートの視線の先、暖炉のそばの壁には、かえるの足の干物や、瓶詰めにされたウサギの肝などが置いてあります。

 おばあさんは鍋の中の液体をカップに注ぎ、振り返ると同時に言いました。

「誰だい、あんたたちは!」

 見知らぬ男が二人いたことに驚いたおばあさんは、カップを取り落としてしまいました。家に、カップが割れる音が響き渡ります。紫色の液体が触れた場所は、不気味な音を立てながら煙を上げ、腐敗していきました。

 ルボが、一歩踏み出し、優雅にお辞儀をしました。

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