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うっそうと茂る森の中を、二人の男が歩いていました。
葉の隙間から差した日光が、所々男たちの足元を照らします。
「今回の任務の内容を覚えていますか?」
右側を歩いている男が、隣を歩いている男に尋ねました。尋ねた男は、左耳に耳飾りを一つつけています。耳飾りには細かい装飾がなされており、埋め込まれている赤い石は、まるで血のようでした。
「確か……『森の奥に住んでいるおばあさんが、外れ物である可能性が高いから確認して来い』でしたよね」
答えた男のほうが、耳飾りをつけた男より、ほんの少し若いようです。髪は明るい茶色で、瞳は濃い茶色です。
外れ物とは、人とは違う稀有な能力を持っていたり、手に入れたりした人――特にその能力を悪用する人のことを言います。人道に外れ、畜生に成り下がったという意味で、外れ「物」と呼ばれているのです。
耳飾りの男は、茶髪の男の言葉に満足そうに頷くと、茶髪の男の言葉に付け足しました。
「そうです。そして、外れ物なら情報を聞き出さなくてはなりません」
「やっぱり、殺すんですか?」
茶髪の男が、おずおずと尋ねました。男にとって、今日は初めての任務なのです。
「そうですね。抵抗するのであれば、そういうことになりますね――出来れば殺したくは無いのですが」
そう言いながらも、耳飾りの男の表情は変わりません。
「……そういえば、君の名前は?」
少しして、耳飾りの男が言いました。
「狼ですが」
茶髪の男が答えます。それを聞いて、耳飾りの男は少し笑った後に言いました。
「それを言うなら、僕も狼ですよ。さすがにこれから行く先で、二人ともが狼と名乗るわけには行かないでしょう」
二人の名前が同じなのは、何も偶然ではありません。彼らが所属している部隊の名前が「狼」なのです。「狼」に所属している者は全て、「狼」を名乗らなければなりません。しかし、今回のように二人以上が行動するときは、特別に偽名を使います。普段から偽名を使わないのは、個人を識別出来ないようにする為です。
「特に候補が無いのなら、ルボとトートでいきましょうか。どちらがいいですか?」
耳飾りの男が言いました。ルボもトートも、異国の言葉で狼という意味です。
「じゃあ、トートがいいです」
茶髪の男――トートが遠慮がちに言いました。
ルボがつけている耳飾りは、「狼」の中でも特に手練れの狼に贈られるものです。その耳飾りをつけているルボと組むことになったトートは、内心、とても緊張していました。
「じゃあ、僕はルボですね」
耳飾りの男――ルボが、トートの緊張をよそに言いました。
「ところで今、俺たちは森のどの辺りにいるんですか?」
トートが尋ねました。たまたま、前にルボと組んでいた先輩の狼からルボが極度の方向音痴だと聞いたのを、今思い出したからです。
「さあ? トートが知っているのではなかったのですか?」
案の定、二人は道に迷ってしまいました。




