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講和交渉

4月7日 ミスタニア王国 首都ジェムデルト 会議場


 この日、ノーザロイア5王国の1つである「ミスタニア王国」の首都ジェムデルトにて、日本国代表団とセーレン王国臨時政府代表団の会談が行われていた。議題はシオン市に建設された自衛隊基地の扱いと協定についてである。日本=アルティーア戦争が終結した今、基地は設置に至った本来の役割を終えたため、戦前に両国間で締結された協定に基づき、基地の今後の扱い、また協定に明記されていた“王国奪還の見返り”についての協議の場を設けることになったのだ。


「日本政府としてはシオンの基地を海上貿易、及び周辺海域の治安維持拠点として、今後も残したい考えです」


 両者はミスタニア王国政府が提供した会議場にて、長テーブルを介して向かい合っている。その周りにはミスタニア王国軍の兵士たちが立っており、会議の動向を見守っていた。そして日本代表団団長を勤める外務大臣の峰岸孝介が日本政府の意向を説明する。


「我が国としては貴国に多大な恩義があることは重々承知しており、それは感謝してもしきれない程です。また、ニホン軍基地に属する兵士の皆様が落としてくださった資金によって、首都セレニア以上にシオンの復興が進んだのも承知しております」


 セーレン王国の奪還と復興は日本国の恩恵を受けて成り立っていた。ヘレナスはその純然たる事実に感謝の意を示す。


「・・・しかし、政府の中には他国の軍隊を国内に駐留させることに対して不安を唱える者も、少数ですが存在することも事実なのです」


 セーレン王国の政府内には、王国奪還戦において圧倒的暴力を示した日本に対して警戒心を抱く者が少なくなく、彼らは基地排斥論を声高々に唱えていた。ヘレナスは基地の残留が決まった場合、彼らがどのような行動を取るかを不安視していたのである。


「・・・分かりました。とりあえず基地の行く末については後で決めましょう。我々にとってもう1つ重要なのは、此度のセーレン奪還戦の “見返り”です。貴国との協定にて決まっていることですが、我が国の請求に従ってそれなりの対価をお支払い頂けるということでよろしいですかな?」


 セーレン王国は日本国と取り交わした協定の中で、“国土奪還の見返りとして、日本政府の意向も考慮に含め、日本国に対して何らかの対価を提出する”という条項を認めていた。


「はい、協定を反故にする様なことは致しません」


 峰岸の問いかけにヘレナスはきっぱりと答える。


「では松尾くん・・・資料を」


 セーレン側の意思を確認した峰岸は1人の外務官僚の名を呼んだ。名を呼ばれた男は足下に置いていた鞄から書類を取り出す。


「我が国が貴国へ求める請求についてですが・・・こちらになります」


 外務官僚の松尾勇気は取り出した書類をセーレン代表団の1人1人に手渡した。それには以下の様なことが書かれていた。


「我々が命を賭けてこの国を取り戻した対価として、このセーレン国内全土に渡る、“新規鉱山の調査・採掘権”を認めて頂きたい」


「・・・! 全土の地下資源ですか!?」


 ヘレナスは峰岸の言葉を聞き返す。日本政府はセーレン国内における資源採掘権を要求して来た。


「しかし、それでは我が国の鉱業が・・・」


 鉱物資源の採掘権を奪われては、自国の産業が成り立たなくなってしまう。そのことを危惧したヘレナスは困惑した表情を浮かべる。


「早合点しないで頂きたい。我々は“まだ発見されていない”鉱床と資源が欲しいと言っているだけです。勿論、すでに貴方方が開発されている鉱山には手は出しません」


 峰岸はすでにセーレン王国が開発している鉱山を奪うようなことはせず、あくまで節度はわきまえているということを伝える。


「また今までと同じく、セーレン国内における日本軍とその軍属の“治外法権”を、加えて今後行われるセーレン王国と日本国との交易においては、関税を含めて商いに関わるあらゆる税を免除する“免税特権”を認めて頂きたい」


「・・・!」


 更なる要求にセーレン代表団は驚愕する。峰岸は治外法権に加えて、いずれセーレン王国内で活動する様になるであろう日本人商人に対する免税特権を求めてきたのだ。しかし“奪還戦の対価の供出”を協定で認めていた以上、反論しようにもその足がかりが掴めない。


「“治外法権”と”免税特権”の内容の詳細については後に協議致しましょう。しかし、これら2つを認めて頂けなければ、“資源の調査採掘権”に制限がかかり、我々にとってあまり意味の無いものになります故・・・」


 関税自主権の喪失や治外法権など、日本国が提示した要求はセーレン王国にとってかなり片務的なものだった。その内容はかつて明治政府を苦慮させた不平等条約そのものであった。


「もし・・・我々がそれを拒否したら?」


 ヘレナスは峰岸の顔色をうかがうようにして尋ねる。


「さあ・・・?」


 不敵な笑みを浮かべて峰岸は答えた。実際には戦費の納入が遅れたからと言って、日本政府が懲罰攻撃に出る可能性はほぼ無いが、そういう含みを持たせることで、日本代表団は彼らに圧力をかける。


(選択肢は無し・・・か)


 セーレン代表団の1人である宰相のアイアス=ポスティアリアは、日本の条件を飲むしか道は残されていないことを悟る。


「・・・しかし、金銀銅や鉄は我が国にとっても貴重な地下資源です。まだ見つかっていないからと言って、おいそれと採掘を認める訳には・・・」


 金銀銅や鉄は貨幣や武器の製造に欠かせない資源であり、尚且つセーレン島におけるこれらの埋蔵量は乏しい。故にこれらを獲られる訳にはいかない為、ヘレナスは尚も反論を続けようとした。日本側もそういった相手側の反応は予想しており、峰岸は資源採掘権の認可に“ある条件”を付加することを提案する。


「では・・・貨幣に使用する金属と鉄以外の全てということではどうでしょうか? 例えば・・・ボーキサイトやカリといったもので」


 日本政府は戦時中にセーレン島を調査し、この島に豊富なボーキサイトとカリ鉱石の鉱床が存在することを発見していた。日本政府が資源採掘権を求めたのは、元より此方の方が目的だったのだ。


「ボーキサイト・・・? カリ・・・?」


 ヘレナスは峰岸が告げた聞き慣れない単語に首を傾げる。ボーキサイトやカリ鉱石の本格的な利用が始まるのは地球でも19世紀以降の話であり、セーレン王国を含めたこの「東方世界」の人々は、それらの有用性どころか存在すらも把握していなかった。


「そう言ったものすら知らない様ですね・・・知らないのなら無いのと同じことです。それとも、まだ何か反論がありますか?」


 カリウムはリンと並んで農作物の育成に欠かせない元素であり、尚且つ日本からは出土しない。故にこれの確保は日本政府にとって死活問題であった。だが、カリの重要性がまだ知られていないこの世界において、ヘレナスたちがその事実に気付く筈が無かった。峰岸はさっさと言質を取ろうと、ヘレナスに決断を急がせる。


「分かりました・・・それならば良いでしょう。貨幣に使う金属と鉄以外・・・その全ての採掘権を認めます」


 ヘレナスは“貨幣に使う金属と鉄以外”という条件付きで、日本国のセーレン島における地下資源の調査・採掘権を認める決断を下した。最大の目的を達成した日本国の代表団は、間髪入れずに話を進める。


「では、資源採掘権についてはその様に・・・。それと、先程議題に上がったシオンの日本軍基地についてですが、我々としてはやはり治外法権も含めてこのまま残して頂きたいし、免税特権も頂きたい。その上でどうでしょう・・・あなた方は日本国にセーレン国内における日本軍の駐留と治外法権、さらに免税特権、及び資源採掘権を認める。その代わり、我々日本国はその対価として、基地の戦力を以てセーレン王国防衛の義務を負うというのは?」


「・・・!?」


 峰岸はセーレン王国に対して事実上の不平等条約を課す代わりとして、ヘレナスに片務的な安全保障条約の締結を提案した。それを聞いたヘレナスたちは驚きの表情を浮かべる。

 この世界でも安全保障条約という同盟形態は存在するが、一国がもう一方の国の防衛義務を負うという片務的内容なものは希で、それによって他国に国防を依存している国家などは相当な小国家であり、日本を除けば、かつて東方世界最強の島国であったセーレン王国がその様な条約を結ぶなど、第3国やヘレナス自身から見ても想像し得ぬことだった。


「我々の世界では、国際秩序の安寧の為に多国間の相互防衛が非常に重視されており、安全保障条約を結んだ庇護対象の国家に自国の軍隊を駐留させるということは普通に行われていました。それに国防を我が国に一任すれば、軍の再建に必要な軍事費を他の復興費に回すことも出来ましょう。貴方方にとっても悪くない話では?」


 峰岸は“世界の警察”である「アメリカ合衆国」が、「日米安全保障条約」や「米韓相互防衛条約」などに基づいて、自らの陣営に属す国々に自国軍を設置していたことを語る。


「これも1つの新しい同盟の形と思って頂きたい」


「・・・成る程」


 ヘレナスは日本国の提案に肯定的な姿勢を見せる。強大な列強の力に蹂躙された祖国が、その列強を遙かに凌駕する軍事力で護られることは確かに心強かった。

 その後、結論としては日本側の要求と提案が全て通されることとなり、日本とセーレン王国の会談は終了した。


〜〜〜〜〜


4月21日 アルティーア帝国 首都クステファイ 「いせ」艦内 多目的区画


 サヴィーアとシトスによるクーデタによって「ドルシャルケン監獄」に軟禁されていた皇族貴族の議員・閣僚たちは、暫定政府と総督府による捜査の後、公職を追放される者と処罰が保留される者に選別された。徹底抗戦や抗日を叫んでいた者は公職から堕とされ、加えて財産の多くを没収されるという憂き目に遭い、その富と力を容赦無く削ぎ落とされた。

 そして彼らの失脚により空いた数々のポストには、処罰を免れた穏健派の議員や、議員となるほどの地位に居なかった者、また各局の局員の中から、暫定政府によって選ばれた者たちが就くことになった。その後、新生アルティーア帝国政府と総督府の間で初めて話し合いの場が設けられたのだ。


「今後の政策の要項が完成しました」


 双方の参加者たちが長机を挟んで見つめ合う中、“総督”である防衛事務次官の後藤が口を開く。彼が部下に配布させた資料には次のことが記載されていた。


1,奴隷制の廃止

2,属領・属国の独立

3,既存の軍隊の発展的解消(必要最低限の国防能力を有する)

4,賠償支払い

5,民主的・人道的な法律の制定

6,皇室の存続

7,上流階級の子女を対象とした教育改革

8,日本国との友好


「!?」


 アルティーア帝国側の参加者は目を疑う。要項2、3、4はすでに共同宣言の中で提示されていた内容だが、初見の要項1を実施すれば労働力が不足し、国力を維持出来無くなってしまう。


「属国・属領の放棄に加え、奴隷制の廃止ですか・・・。今後、一体どのようにして労働力を確保しろと?」


 暫定政府宰相のマイスナー=コーパスクルは、日本が提示した要項を全く理解出来なかった。


「賃金を払って正式な労働者として雇えば良いでしょう。我が国では奴隷は御法度です。故に、要項5に関連する内容ですが、法の改正を行う際に“奴隷的拘束と苦役の禁止”を盛り込んで頂きます」


 後藤率いる総督府は、アルティーア帝国に日本国憲法に刻まれた価値観を取り入れさせようと画策していた。この世界では“奴隷”と呼称される者たちの売買は普通に行われている行為であり、日本政府はアルティーア帝国を“奴隷制廃止”のモデルケースにしようとしていたのだ。


「しかし、奴隷は国家所有のものだけで無く、ほとんど全ての皇族貴族、または豪商が農奴として、または身の回りの世話をさせるため、個人財産としての奴隷を保有しております・・・。その様な法を作っては国内全ての皇族貴族を捕らえねばならなくなりますが・・・」


 サヴィーアは奴隷制禁止が施行された場合の不安点を述べる。


「遡及裁判は我が国では御法度です。故に、この“遡及の禁止”も法に取り入れて頂き、新たな法を公布する前に、個人所有の奴隷については放棄するか、正式に使用人や労働者などとして雇い直すか、それともルームシェアの同居人とするか・・・等々、新たな法に抵触しない形をとるように国民に通告して下さい。奴隷制廃止が施行される時には、国であれ個人であれ、全ての奴隷の所有権は無効となり、違反する者は刑罰対象となります」


 日本側の参加者の1人、法務官僚の赤樫がその対応について説明する。法が施行される前に奴隷を奴隷では無くすれば、刑罰の対象にならないという訳だ。


「ただ、もちろんそうなった場合、奴隷という“所有物としての人間”は無くなりますから、暴力を振るう、売りに出す等の行為は厳禁となりますがね」


 赤樫が注意点について補足した後、サヴィーアはさらなる不安点を口にする。


「しかし、放棄された元奴隷が浮浪者として大量に流出する可能性が・・・」


「我々もそれについては対処を考えております。それについてはまず賠償金についての説明をせねばなりません・・・壱川くん」


「はい」


 後藤に名を呼ばれた外務官僚の壱川が、クリアファイルの中から書類を取り出す。


「こちらが、我が国が求める賠償金になります・・・」


 壱川は金額が書かれた書類をサヴィーアや他の代表者たちに渡す。突如議題を変えたことを不審がりながら、アルティーア側の面々はその書類に目を通す。


「じゅっ・・・14億7981万デフール!!?」


 暫定政府の参加者たちは法外な提示額に腰を抜かしていた。「デフール」はアルティーア帝国内において鋳造される最高額の貨幣である。総重量20g・金含有率70%の良質な金貨で、金相場を1g4,600円前後と仮定すれば1枚で64,000円を超える額になる代物だ。一般的な商取引に使用されることはあまり無く、主に貯蓄や巨大な商取引に使用される。すなわち14億7981万デフールを出せ、とは2万トンを超える量の金を用意せよという意味なのだ。

 ちなみに一般的に使用される貨幣で最高額のものはデフールの下位の「デルテール」で、総重量10g、金含有量60%の金貨である。同様に計算すれば日本円にして27,000〜28,000円くらいの代物ということになる。勿論これらは、アルティーア帝国の金貨を「お金」ではなく「金品」として日本国内で売却した場合に算出される値だ。実際の為替レートを計算すれば、より違った値になると考えられるが、アルティーア帝国と日本の間には現在正式な貿易関係が存在しないため、このような算出方法を採るしかなかったのだ。


「そ、そんな! 大陸中をかき集めても、そんな大量の金を用意することなんて出来ません! それに奴隷制を廃止してはそもそも金鉱が掘れなくなります!」


「それは先程も申した様に、元奴隷を正式に雇い直せば良いでしょう」


 動揺する財務局大臣のパイニール=サーカディアンに、後藤は冷たく言い切った。


「・・・この世界での戦争の例を参考にして、我が国の金相場に合わせて計算したのです。もっとも年間国家予算の数倍という破格ではなく、同じ程度の額ですがね」


「!?」


 金・2万トンに相当する金額が一国家の年間予算と同じ・・・騒然とするアルティーア帝国の参加者たちに、後藤はさりげなく日本とアルティーア帝国の間の、隔絶された経済力の格差を誇示する。


「しかし・・・この額は・・・とても用意出来るものでは・・・」


「まあ、そうでしょうね・・・。」


 宰相のマイスナーは弱々しく述べる。予想通りといった表情を浮かべる後藤は次の提案を示す。


「もし、我々の提示する条件を飲んで頂ければ、減額の措置を採る用意があります。その場合は我々が請求する賠償額は、貴国の通貨にして4657万デフール、日本円にして約3兆円になります。今回の戦争で日本政府が拠出した戦費だけでこの額です。これくらいは出して貰わねば日本国民も納得しない」


 この場合、用意するべき金は650トンになるが、それでも多いと言わざるを得ない。しかし2万トンの金を用意するよりはずっとマシである。


「して、その条件とは!?」


 サヴィーアが後藤に問いかける。他の参加者たちも彼の言葉に一様に耳を傾ける。


「・・・賠償額減額の条件は“ヤワ半島の割譲”とその他アルティーア帝国本土領域の“すでに開発されているものを除く地下資源の調査・採掘権”を日本国に対して認めることです」


「!」


 静かに口を開いた後藤から発せられた条件は、また彼らにとってとんでもない要求だった。


「我が国で使用する鉄の4割はヤワ半島で生産されているものなのですよ! それに属領とそこに存在する権益を放棄する事が決定している今、ヤワ半島は我々にとって手放せるものではありません!」


「今後は日本の企業が作った鉄鋼を輸入すれば良いでしょう? 我々の製鉄技術は貴方方のそれを大きく凌駕している。今後はより高品質の鉄が手に入りますよ」


 熱くなるマイスナーに、後藤は再び冷静に切り返す。


「し、しかし・・・鉄はそれで良いとして・・・属領を失う上に本土全域の資源採掘権とは、ちょっと・・・」


 後藤の提案にサヴィーアも苦言を呈する。


「今後、我々が新たに見つけたものに限り、日本に所有権があるというだけですよ。もちろん我が国の政府や企業が派遣する資源調査団については、アルティーア帝国内を自由に動き回れる権利を持つものとします」


「では割譲するヤワ半島を除き、すでに我が国が開発している鉱山には手は出さないということですか・・・」


「ご名答。その通りでございます」


 サヴィーアの問いかけに後藤はうなずく。この内容はセーレン王国に求めたものとほぼ同様の要求だった。


「日本によって開発される新規の鉱床については、現地人を雇用する計画になっております。また今後、アルティーア帝国に商業領域を拡げるであろう日本企業によっても、あらゆる雇用が生み出される故、確かに路頭に迷う解放奴隷が激増する可能性はありますが、それは一時的なものになるかと・・・」


 元奴隷として大量に出現する格安の労働力は、日本企業にとってはとても魅力的な存在だ。すでに日本企業の中にはアルティーア帝国に進出する計画を立て、早くもその準備を行っているところもある。具体的には、戦争の終結後に主戦派から没収された土地、もしくは新たに開拓された農地にて日本向けに輸出する農作物を育てる、政府同様新たな鉱山を見つけ、日本向けの鉱石を採掘する等々、それらには多くの労働力が必要になるし、また都市で商業活動を行う際にも労働力は必要となる。


「・・・」


 一部の領土と、まだ見つかってもいない様な地下資源を差し出せば、賠償金の97%を免除し、尚且つ敗戦によって疲弊し、また奴隷制の廃止によって混乱するであろうアルティーア帝国の経済に数多くの雇用を生み出してあげますよ、後藤ら総督府は暫定政府にそう言っているのだ。


「・・・承知しました。その条件を受け入れます」


 力無き彼女らには他に選択肢は無かった。サヴィーアの言葉に他の参加者たちも何か異を唱える様子は見せない。


「ご理解頂けたようで幸いです。日本企業が進出した折りに必要と思われる、各租税についての協議はまた後日行いましょう。さて次に、要項6についてですが・・・」


 後藤は他の要項について議題を移す。


「皇室については、サヴィーア殿下に正式に皇位に就いて頂き、今後も存続とします。但し、国家の主権は公選による議会にあるものとし、皇帝の権限については制限を敷きます。また先程も述べた通り、要項5の”法の制定”、また要項7の”教育改革”については、今後総督府の監督の元に行って頂きます」


 後藤は他の要項についてその概要を告げる。その後、この日の会談は閉幕し、アルティーア帝国暫定政府は総督府の監督の元、新たな国家的事業に漸次着手していくこととなる。


・・・


<講和条約 草案>

・アルティーア帝国は日本国に対して、賠償金4657万デフールを支払う。

・アルティーア帝国は独立を希望する属国・属領の独立を承認し、それらに対する全ての権利、及び請求権を放棄する。

・アルティーア帝国の安全に寄与し、並びに東方世界における平和及び安全の維持に寄与するため、日本国は、その陸軍、空軍及び海軍がアルティーア帝国において施設及び区域を使用することを許される。

・アルティーア帝国は賠償として、ヤワ半島の割譲、及び領土内における新規鉱山の調査・開発権を日本国に認める。尚、これは帝国政府による国土開発を妨げるものではない。

・アルティーア帝国は日本人による帝国内での商売の自由と旅行の自由を保障する。加えて、アルティーア帝国は日本国との交易における関税の税率について、日本国の同意を得た上で制定しなければならない。

・日本人がアルティーア帝国内で犯罪を犯した場合、現地の治安機関が容疑者の逮捕権を持ち、日本国の官憲が捜査に参画する。容疑者の裁判権は日本国が有する。

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