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開戦「日本=アルティーア戦争」

12月29日 午後7時 日本国 東京都千代田区 首相官邸


 アルティーア帝国に派遣されていた使節団によって、彼の国が日本国へ宣戦布告を下したという知らせが日本政府へと届けられた。この事態を受けて、泉川首相は首相官邸の会議室に閣僚や統合幕僚長を召集して「緊急事態大臣会合」を開催、彼らと共にこの凶事に対して如何に対処すべきか話しあっていた。


「ロバーニア海戦に参加した以上、こうなることは覚悟していたとは言え、動きが速すぎる・・・。不祥事ですね、まさか使節団が襲撃され、外交官1名が命を落とすとは」


 首相の泉川は悲痛な表情を浮かべながら、頭を抱えていた。


「敵方の動きが早いのは、一重にあの報道の所為でしょう。『世界魔法逓信社』・・・まさかAP通信やロイターの様な、国際報道機関がすでに存在しているとはね。あの『信念貝』とかいう通信機もあなどれない・・・」


 財務大臣兼副総理である浅野太吉は、この世界の通信体系について言及する。

 彼が述べた「世界魔法逓信社」とは、この世界で唯一無二の国際報道機関であり、「中央世界」のある国に位置する総本部を中心として、世界各国に40以上の支部と200以上の派出所を有する世界最大の組織なのだ。

 何れの政治権力にも属さない彼らは、“中立不可侵の報道”を社訓としており、この機関が発表する情報は国の政府が流布するものよりも正確とさえ言われているのである。


「まあ・・・敵方の動きはともかく、今は我々がどう動くかを考えるべきです。すでに自衛隊の出動準備は整っていますし、それに前回のロバーニア海戦の時とは違い、アルティーア帝国は明確に我が国を名指しし、宣戦布告しました。これは個別的自衛権の適応案件となり、防衛省としては徹底的な防衛の為の攻撃を提言したいと思いますが」


 防衛大臣の安中洋介は、敵となった列強を容赦無く叩き潰すことを提案する。ロバーニア王国沖海戦に参戦することを決定した時点で、こうなることを予測していた防衛省は、既に自衛隊の出動準備をほとんど整えていた。


「当然そのつもりですよね、総理? 向こう側から宣戦してくれたこの状況は、我々にとって願っても無い(・・・・・・)状況なのですから。彼らの国内に存在するという巨大な鉄鉱山、“ウレスティーオ鉱山”の獲得の為に・・・」


 外務大臣の峰岸孝介は、日本政府がこの戦争で密かに狙っている“あるもの”の名を口にした。それはアルティーア帝国のヤワ半島と呼ばれる場所に位置し、同国が使用している鉄の大半を産出しているという鉄鉱山の名前だった。


「しかし、外交官の殉職については野党から・・・特に『民生党』からは吊るし上げられるでしょうね」


 首相の泉川は、1つの懸念材料を思い浮かべる。それは、外交官1人を殉職させてしまった挙げ句、列強国との全面戦争を招いた責任を問うて来るであろう野党の存在だった。


「確かに・・・しばらく国会は荒れるでしょう。ですが、戦って平伏させれば良いんですよ、旭光の下に。さすれば国民は納得しますから」


 安中は再度、泉川に決断を迫る。若き首相は深いため息をつくと、彼の言葉に対して深く頷いた。


「分かっています。血塗られた道ですが・・・行くしかありません。内閣総理大臣の権限によって、個別的自衛権に基づく『防衛出動』を発令します。敵は悪辣非道な覇権主義国家・・・容赦は不要です」


 決断を済ませた泉川首相の口から、ロバーニア王国沖海戦に続き、この世界に転移して2度目となる「防衛出動」命令が発せられた。会議に参加していた閣僚たちや自衛隊幹部たちは、防衛出動への準備に向けて各々の職場へと連絡を入れる。

 その後、この防衛出動は召集中であった臨時国会にて過半数の承認を受け、国民に向けて正式に発表されることとなった。


・・・


同日・夜 首相官邸 会見室


 政府から本格的な戦争の火蓋が切られたという一報と、緊急記者会見が行われるという知らせを受けて、会見室には数多の報道陣が詰めかけていた。春日善雄官房長官が立っている会見台には数多のカメラとフラッシュライトが向けられている。


「以上をもちまして、これまで積み重ねた外交努力も空しく、日本はこの世界の強国、アルティーア帝国より宣戦布告を受けました。この帝国の愚行に対して日本政府は徹底的な防衛戦を決定致しました」


 記者会見の場において春日官房長官が発した言葉に、その場にいた全員、またテレビ・ラジオの前にいた国民は騒然とする。


「前回の軍事支援がきっかけとなったのではないのですか!?」

「この世界でも戦争を招いた責任を自国党はどう取るつもりですか?」


 質問やヤジが左系のマスコミから次々と飛んだ。しかし、春日は冷静に口を開く。


「・・・ロバーニアへの軍事支援は、国民の皆様を護る為に必要なことでした。確かにそれが直接の切っ掛けになりましたが、日本政府は自ら望んで戦争をもたらす様な行いをしていない、それは断固たる事実として国民の皆様に保障します。ですが、この世界の外交常識に、我々の平和主義は通用しなかった。平和的対話を望む我々の申し出に、彼らが応えることは無く、戦争という最悪の事態に突入してしまったのです」


 記者の質問攻めに対して、春日は予め考えていた通りの言葉を述べる。実際にはロバーニア王国への軍事支援を決めた時点で戦争は避けられないと断定し、アルティーア帝国に派遣していた使節にはすぐに彼の国から逃げ出す様に指示を出していたこと、外交官が襲撃されたのは、逃げ遅れた結果に過ぎないことなどは、余計な突っ込みを招く為にあえて説明しなかった。


「それに、我々はあの・・・『東亜戦争』を乗り越えたではないですか。あの国難を乗り越えた今、この世界で“近世レベル”の軍隊が攻めてくるということに何の恐怖を抱く必要がありましょうか。

ご心配せずとも、近世レベルの兵器や軍隊など自衛隊の現代兵器の前には吹けば飛ぶ紙切れのようなものです! それは前回の軍事支援で証明されています!」


 春日はまるで開き直ったか様に、今回の戦争における勝利を確信している様な言葉を発する。


「約束致します。日本政府は国民誰1人の命も奪わせたりしません! 彼らの刃がこの日本列島に及ぶことはありません! どうか安心して頂きたい!」


ザワッ・・・!


 大げさな身振り手振りを交えながら、強気な発言をする官房長官の態度に、記者たちはざわつく。その後、いくつかの質疑応答を経て緊急記者会見は終了した。


~~~~~


12月30日 首相官邸 国家安全保障会議 緊急事態大臣会合


 防衛出動が国会で承認された翌日、今後の具体的な方針について討議する為、議長たる泉川首相、議員たる安中防衛相や峰岸外務相などの閣僚、及び議長により関係者として出席が許された原田統合幕僚長や防衛省官僚たちが集まっていた。


「今回、アルティーア帝国に対して徹底的防衛戦を行うにあたり、実際にどのように戦闘を行うかについて我が省が立てた方針ですが・・・短期決戦で行きます」


 参加者たちの手元には資料が配付されており、防衛大臣である安中洋介はその資料の内容に沿って、防衛省が立てた今後のプランについて説明を始める。


「短期決戦?」


 泉川が言葉の真意を問う。短期決戦ということはこちらから積極的に攻撃をしかけ、相手を追い込むということだろう。専守防衛を国防の基軸として来た現代日本にとってはある意味で初の試みとなる。


「もちろん、専守防衛を堅守して敵さんがこちらへお見えになるのを根気良く待ち、領海内で迎え討つのも選択肢の1つですが、その場合、敵船団が付近の海域に跋扈することになりますから、周辺国との貿易や近海での漁業に影響が出ます。

それ故、宣戦布告をしてきた敵国という存在に対してこちらから積極的に行動し、日本国民の生活と生命に一刻も早い安らぎを与える。これが、防衛省が考える“徹底的防衛戦”の解釈です。個別的自衛権という観点からは、何も矛盾することは無いと判断しております。それに戦況を不必要に長期化させることは、現在の不安定なこの国にとっては悪手以外の何者でもありません」


 今回、防衛省が短期決戦という方針に固めた背景には、異世界の国からの不安定な輸入に頼らざるを得ない切実な食糧事情と、長期戦が出来ない現在の自衛隊の供給事情がある。その如何ともしがたい事実を安中は述べていた。


「では詳しい作戦内容について説明します・・・西島くん」


「はい」


 導入となる説明を終えた安中は、部屋の壁際で待機していた防衛官僚の名前を呼ぶ。名前を呼ばれたその官僚は、安中と交代で閣僚たちの前に立つと、彼らに向かって深く一礼した。


「防衛省防衛政策局次長の西島佳紀と申します。早速ですが、今回防衛省が立案しました戦闘計画の詳しい内容について説明させて頂きます。では、まずこちらをご覧になって下さい」


 西島はそう言うと、プロジェクターに写し出された地図のとある島をポインターで示した。


「このノーザロイア島とウィレニア大陸の間にある本州ほどの大きさの島、これが『セーレン王国』です。此処は1ヶ月ほど前よりアルティーア帝国の占領下にあり、同国の軍勢が駐留している様です。そしてこの島は、日本から帝国へ向かう最短航路の途中にあり、アルティーア本土へ進軍するに当たって、此処に駐留している部隊との戦闘は避けられません。

故にまず、セーレン王国から寄せられている軍事支援を承諾した上で、此処を占領しているアルティーア帝国軍を殲滅します」


 その後、彼が説明した内容を簡潔にまとめると以下の通りである。


 「セーレン王国」は日本とアルティーア帝国主要部(大陸東北部)との最短航路上にある島国である。ここは帝国の占領下にあり、事実上日本に最も近い敵軍事拠点である。ここを攻撃するために海上自衛隊の護衛艦隊、及び在日米海軍の艦船による合同艦隊を組織する。

 合同艦隊は、セーレン王国の「シオン」という港町の沿岸に存在するアルティーア帝国の基地を攻撃、殲滅する。その後、建築機材、追加の弾薬・燃料、施設科隊員などを乗せた輸送隊をセーレン王国に派遣し、主に艦隊と本土との通信(モールス信号)を仲介し、航空機を発進する為の基地を建設する。その間、敵軍が日本へ向かう素振りを見せる、またはセーレン島奪還の為に攻撃して来た場合にはこれを順次迎え撃ち、ここより東側に存在する民間船貿易路への侵入を阻止する。

 その後、基地が完成したところで大陸北東部のヘムレイ湾(帝国主要部)に侵入し、ヘムレイ湾内の北部沿岸に存在する、アルティーア帝国主要都市の1つである「マックテーユ」を占領、ここにも拠点を設置する。そして、マックテーユを第2の拠点として帝国首都を攻撃開始する。


「・・・と、首都上陸までの流れはこの様な予定です。何か質問はございますか?」


 ここまで説明したところで、西島は質問の有無を議員たちに尋ねた。


「少しいいですか」


 国土交通大臣の石川良信が手を挙げる。


「はい、どうぞ」


「首都攻撃の詳しい内容とは、どのようなものですか?」


「その時の状況にも依りますが、現在想定しているものとしては、まず戦闘機と護衛艦によって、首都の防衛を担う海上、及び航空戦力を破壊した後に上陸による首都占領、及び要人確保といった流れになっております。

尚、これは暫定的な計画内容であって相手の出方によっては変更される可能性も大きいということをご理解ください。計画内容の変更については、相手の出方を見たあとでその都度判断しますので、その時改めて説明致します」


 簡潔な説明を済ませた後、西島は最後に、参加者全員がもっとも不安視している最重要事項を述べる。


「尚、予算については3兆円ほどと見込んでおります」


 彼のその言葉をもって、この日の緊急事態大臣会合は終了した。参加していた各大臣は各々の省庁へと戻り、戦いに向けた準備に取りかかる。


・・・


同日夕方(現地時間) ノーザロイア島 サファント王国 首都ポートレイ


 サファント王国駐箚特命全権大使である富田和重は、外務省からの指示を受けて、セーレン王国亡命政府を再び訪れていた。亡命政府から日本政府へ送られていた軍事支援要請について、その返答を伝える為である。

 応接間にて、第一王女であるヘレナス=ミュケーナイ、そして王国近衛師団長であるシモフ=ラクリマルと向かい合う様にして座る富田は、日本政府から送られて来たメッセージを伝える。


「昨日、日本政府は貴国を奪還する為、軍を派遣することを決定致しました」


「・・・ほ、本当ですか!?」


 富田の言葉を聞いて、ヘレナスの表情が明るくなる。その一方で、シモフは怪訝な表情を浮かべていた。


「いきなり主張を一転させるとは、どういう風の吹き回しだ?」


「・・・」


 助けてもらう立場であるにも関わらず、相変わらず見下す態度で接してくるシモフの様子を見て、富田は内心で呆れていた。セーレン人はほぼ全員が金髪碧眼という見目麗しい外見をしているのだが、その歪んだ心の底を目の当たりにすると、その美しさも霞んでしまう。


「黙りなさい、シモフ・・・此度の貴国の決断、亡命政府の総意として感謝致します」


 主君であるヘレナスは客人への無礼を働く家臣をたしなめると、感謝を意を表す証として富田に頭を下げた。

 セーレン王国はアルティーア帝国の首都クステファイから、日本への最短ルート上に位置している。その為、日本政府はセーレンに存在する帝国軍基地が日本侵攻軍の中継・補給に使用される可能性が大きいこと、そしてこの地に自軍の中継基地を作る為に、彼の国を占領しているアルティーア帝国軍、及びその基地を殲滅することを決定したのである。


「早速ですが、こちらがセーレン王国奪回に日本軍を派遣するにあたって、日本政府が求める要件です」


 富田は鞄の中からウィレニア大陸の言語で書かれた一枚の書類を取り出すと、それをヘレナスに手渡す。その書類には次の事が書かれていた。


・ セーレン王国政府は王国奪回の為、日本軍がセーレン国内に進駐することを認める。

・ セーレン王国政府はその政権を回復した後、日本国と対等な国交を開設する。

・ セーレン王国政府は日本軍がアルティーア帝国軍をセーレン国内から駆逐した後、同国内にアルティーア帝国本土を攻撃する為の基地を建設し、駐屯することを認める。

・ 日本軍及びそれに協力する日本国民は、セーレン国内の基地設備とそれに属する戦力を、セーレン王国政府の意向に関わらず自由に使用できるものとする。

・ 基地敷地内は日本国の法制下に置かれるものとする。また基地に属する日本軍兵士及び日本国民は治外法権の下に置かれる。

・セーレン王国政府は日本軍による国土奪還の見返りとして、日本政府の意向も考慮に含め、日本国に対して何らかの対価を提出する。

・ 日本と帝国との戦争が終結した後の基地の扱いについては、その時両者の間に改めて協議の場を設ける。


「・・・問題ありません。セーレン王国をアルティーア帝国の手から取り戻せれば、我々としては、文句はありません」


 ヘレナスは書類に書かれた文書に一通り目を通すと、2つ返事でOKを出した。そもそも彼女らに選択肢は無く、断れる筈は無かった。


「ありがとうございます。ではまた後日、お会いしましょう」


 富田はそう言って一礼すると、応接間を退出していく。彼が扉から出て行くのを見送った後、書類の内容を見たシモフは愕然とした表情を浮かべていた。


「正気ですか、ヘレナス殿下! このような条件を飲むなど・・・奴ら確実にセーレン王国に居座る気ですよ! 蛮人どもに租借地を与えるようなものです!」


 日本側が提示した条件には、セーレン国内に日本軍の基地の設置を認める、基地内は治外法権下に置かれる、そして対アルティーア帝国戦後における基地の扱いについては、後日に協議して決定すると書かれている。

 すなわち、戦後に行われるという協議の結果によっては、セーレン王国は永久に日本軍の駐留を認めなければならなくなる可能性があるのだ。


「こうしている間にもセーレン(故郷)では国民や同胞たちが地獄を見ている。我々には手段を選んでいる暇は無いはずですよ」


 ヘレナスは毅然と諭した。


~~~~~


12月31日 日本国 東京都千代田区 首相官邸


 日本国内には、日本領土内でありながら日本政府が手出しできない場所が存在する。その代表的なものが「在日米軍」の軍用地、そして各国の「大使館」である。日本国の転移によって祖国を失った彼らは現在、日本政府に対して、新たな国家建設の為の支援を要請していた。

 だが、日本政府の立場から言えば、自国の存立の危機だという状況において他国民の要請を聞き入れている余裕など有る筈が無く、彼らの要請については黙殺を貫いていた。

 しかしその一方で、日本政府は転移が起こった後の早期から、各国の大使館の中で最大規模を誇るアメリカ大使館と幾度にも渡る協議を重ねていた。在日米軍の位置づけや処遇について明確にする為である。

 日本側は最初、米兵とその軍属全てに日本国籍を付与し、在日米軍を自衛隊の一部隊として吸収合併することを提案したが、アメリカ大使と在日米軍司令官はそれを断固拒否し、この世界で新しい「アメリカ合衆国」を建国する為に「夢幻諸島」の一部地域を供与する様に求めていたのである。


 日本側としては、この国家的非常時において、政府の統制下に無い軍人が自国内に1万5千人近く存在する今の状況は望ましく無い。最悪の想定として、クーデタを起こされる危険性をはらんでいるからだ。一方、アメリカ側としては、武器の使用規則に厳しい日本の法に、在日米軍ががんじがらめにされてしまうのは避けたい上、何と言っても「星(Stars)(and)旗」(Stripes)を捨てることが我慢ならなかったのだ。


 そしてこの日、駐日アメリカ合衆国大使であるキャルロス=ケーシーと、在日アメリカ軍司令官を兼任する第5空軍司令官のロベルト=ジェファソン空軍中将が首相官邸へ招へいされていた。総理執務室では、上記2人の他に泉川首相と峰岸外務大臣が席に着いている。


「では新たなアメリカ合衆国建国の為に援助をしてくれると?」


 大使のキャルロス=ケーシーは、峰岸外務大臣が発した言葉を神妙な表情で聞き返す。


「はい、日本政府はこの惑星に新たなアメリカ合衆国を建国する支援を行うことを決定致しました」


 彼女の問いかけに峰岸は淡々と答える。長らく日本政府へ求めてきた要請が叶ったことを知り、ケーシーは笑顔を漏らす。


「・・・条件は何ですか?」


 そんな彼女とは対照的に、ロベルト=ジェファソン中将は冷静な面持ちで、建国の対価が何なのかを尋ねる。今まではぐらかされ続けてきた要望をいきなり叶えてあげると言われれば、そこに何らかの条件があると考えるのは当然であった。


「先日・・・日本はこの世界での強国、アルティーア帝国から宣戦布告を受けました。これについてはご存じですか?」


 峰岸は言葉を選びながら口を開く。


「はい、ニュースで見ましたよ」


 アルティーア帝国との開戦を伝えるニュースについては、此処に居る2人にとっても既に知るところとなっている。峰岸の言葉を聞いたケーシー大使とジェファソン中将は、何を求められるのかを察していた。


「ならば話は早いですね。『日米安全保障条約』に基づき、この戦争での勝利の為に在日米軍が自衛隊に協力すること、それが建国支援の条件です」


「・・・」


 泉川首相から正式に在日米軍の動員を求められ、2人は難しい表情を浮かべた。本国との連絡が絶たれているとは言え、たかが大使館の独断で勝手に軍を動かして良いものだろうか。


「・・・そうすれば、我々の要望をかなえてくれるのですね?」


 悩んだ末、結論に達したケーシー大使は日本側の意志を確かめる。


「ええ、戦勝した暁には、彼の国より獲得する領土に新たなアメリカ合衆国の建国を約束しましょう」


 泉川はきっぱりと答える。最早何も聞くことが無くなったケーシー大使は、ゆっくりと頷いた。


「わかりました。日本の勝利のため、我々は全面的に協力します」


 遂にアメリカの協力を取り付けることに成功し、泉川と峰岸は心の中で歓喜する。


「ありがとうございます」


「いえ、こちらこそ・・・日本政府の決定に感謝します」


 対アルティーア帝国戦における相互協力を確認し合った泉川首相とケーシー大使は、椅子から立ち上がると、互いに固い握手を交わす。

 斯くして、日本=アルティーア戦争に向けた準備は着々と進行していたのであった。

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