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対日宣戦

12月25日 ロバーニア王国沖 アルティーア帝国艦隊


 皇帝の書簡を拒絶し、特使を強制的に国外退去させるという無礼を働いた極東洋の蛮族を懲罰する為、324隻の帆走軍艦と110騎の竜騎がアルティーア帝国からロバーニア王国へと派遣された。

 そして各艦の“竜騎格納庫”では、指揮官から発せられた竜騎隊の発進命令を遂行する為、出撃する竜騎兵と竜騎のメンテナンスを行う整備兵たちが奔走している。この艦「アシュール」でも、1人の竜騎兵が大空へ飛び立とうとしていた。


「急げ! 竜騎を飛ばすんだ!」


 整備長の指示が格納庫の中に響き渡る。整備兵たちによって、竜騎の発進準備が迅速に整えられていた。


「甲冑良し、固定良し、準備完了! いつでも飛べるよ、ドルサ!」


「ああ! 悪いな、ランバル! お前は手際が良くて助かる!」


 竜騎兵の1人であるドルサ=ラティシマスは、幼なじみの整備兵であるランバル=エンラージメントに礼を言うと、竜騎用軽式甲冑の兜を頭にかぶせる。準備を完了したドルサは竜の口元から伸びる手綱を握り、竜の頭を格納庫の扉へと向けた。


「飛行口を開け!」


 整備兵4人の力によって、船体の右舷後部に設置された竜騎兵の飛行口が開かれる。その向こうは今にも戦場となろうとしている敵の海域であり、艦隊が向かっている水平線には灰色の巨大艦の群れが鎮座していた。


「行け行け行け!」


 整備長の号令とともに、軍艦「アシュール」に乗せられていた竜騎5騎が次々と飛行口から飛び上がって行く。そして最後の1騎であるドルサが飛び上がって行くのを、ランバルは誇らしげな笑みで見つめていた。


 この世界に生まれた男児ならば誰しもが必ず一度は憧れる「竜騎兵」、その例に漏れず、幼い頃から空を自由に翔る彼らの姿に憧れていたドルサとランバルの2人は、4年前に難関と言われるアルティーア帝国竜騎隊の初等入隊試験を通過し、それからは実戦に配備される日に向けて訓練に明け暮れていた。

 だがランバルはその途中、熱病が原因で視力を大きく落としてしまい、志半ばで訓練兵を辞することになってしまう。彼の悔しさが痛い程に分かっていたドルサは、夢を諦めることになった親友の無念を晴らす為、何時か来る初陣となる戦いで1番の手柄を立てることを約束していたのである。

 彼の思いを受け取ったランバルは、整備兵に転向して竜騎兵を支える道を選ぶこととなる。そして今日、ドルサにとって初陣となる日が遂にやって来たのだ。


(俺の分も、暴れて来いよ・・・! 夢を見させてくれ!)


 大きな翼を翻しながら、既に高空を飛んでいた仲間たちと合流する親友の勇姿が、ランバルの目に焼き付けられる。天空の支配者とでも評すべき110の竜騎兵たちは、憎き蛮族の棲む島へと向かって行った。




12月28日 小笠原諸島海域 護衛艦「いずも」 医療区画


 無機質な白い空間に、数多の病床が並べられている。白衣を纏った者たちが忙しなく行き交い、病床の上に横たえられた負傷者たちの治療に当たっていた。負傷者はいずれも、ロバーニア王国沖海戦にて艦から海に投げ飛ばされながらも何とか生き残った、アルティーア帝国軍の捕虜たちである。その中にはあの若き整備兵の姿もあった。


「・・・!!」


 瞼の裏で大空を翔る親友を見送っていたランバルは、突如目を覚ます。状況が飲み込めないまま辺りを見渡すと、いつの間にか青い色をしたベッドの上に寝かされていることに気づいた。体を見ると包帯の様な白い布が至る所に巻かれている。


「先生、23番の患者が目を覚ましました」


 横から誰かを呼びつける様な声がする。ランバルが声のした方を見ると、そこには純白の衣装を身に纏った若い女性の姿があった。その女性は黒目黒髪という、東方世界ではあまり見慣れない顔立ちをしている。


「・・・?」


 竜騎兵たちを見送った後、空に響き渡った爆発音、そして軍艦「アシュール」を襲った衝撃音、彼にはその先の記憶が無かった。落ち着いて再度周りを見てみると、負傷した帝国兵たちが同じようなベッドに寝かされている。

 ランバルがしばらく呆然としていると、白く長いコートの様なものを着た男が現れた。


「・・・ここは?」


 彼は白装束の男に現在地を尋ねる。海上自衛隊に所属する医官の柴田友和一等海尉/大尉は、カルテを眺めながらランバルの質問に答えた。


「・・・日本海軍の艦『いずも』の中だよ。早速だが心音と肺の音を診させてくれ」


 柴田一尉はそう言うと、両耳に聴診器を装着する。


「ニホン・・・の艦? ・・・ニホン!?」


 日本・・・ランバルはその国名に聞き覚えがあった。海戦の場で突如現れた、けたたましい音を立てる“巨大な羽虫(ヘリコプター)”が、その国の名を名乗っていた筈だ。その後、羽虫の警告を無視して進軍を続けた帝国艦隊は、訳も分からない内に壊滅した。即ち彼らは今、敵の艦の中に囚われているということになる。


「・・・て、帝国軍は!?」


「アルティーア帝国の艦隊なら殲滅された。覚えてはいないか? 君たちは有り体に言えば捕虜って訳だ」


 敵軍の軍医から艦隊が全滅したことを淡々と聞かされ、ランバルの顔色は一気に悪くなる。


「全滅・・・それじゃあ、竜騎隊は!?」


 彼は空へ飛び立った後に、謎の爆発に襲われた竜騎兵たちの姿を思い出す。その中には恐らく、親友であるドルサも含まれていた筈だ。


「飛んで来た竜は110騎全て、戦闘機の餌食になったよ。ミサイルをまともに食らったんだ。まず生きてはいないね」


 柴田一尉は淡々と答える。空を翔る勇士たちの無残な最期を呆気なく聞かされ、ランバルは一瞬にして顔色を変えた。


「よくも・・・ドルサを!!」


 初陣を飾る筈だった親友の死、それを思い知らされたランバルは、心の底から沸き上がる激情のまま、柴田に飛びかかろうと上体を起き上がらせる。しかし負傷により体力を失っていたためか、柴田に軽くおでこを押されると、力なくベッドに押し返されてしまった。


「うっ!」


「寝てろ、まだ回復も不十分だ」


「くそ!」


 満足な力も出ないランバルは悔しさと怒りのあまり、拳を握りしめる。彼の目線は恨みの感情を込めて柴田に向けられていた。その様子を見た柴田は深いため息をつくと、興奮するランバルを諭すように口を開く。


「・・・君は今さぞかし我々を恨んでいるんだろうが、それは逆恨みって言うもんだ。そもそも、君たちは剣や大砲や武装した竜を引き連れてここへ何しに来た? 観光旅行でもしに来たのか?」


「!? ・・・何だと・・・!」


 帝国軍を侮辱するような柴田一尉の言葉に、ランバルはさらに憤りを深める。だがそんな彼を余所に、柴田は言葉を続ける。


「そうだよ。違うよなあ、戦争しに来たんだろう!」


「!?」


 柴田の声は尻上がりで大きくなっていく。真意を解りかねているような顔をしているランバルに、彼は「東亜戦争」で経験した“悲惨な思い出”を頭に過ぎらせながら、“戦い”というものについての持論を述べ始めた。


「戦争とは自らが属する陣営の目的を達するために敵を殺すものさ。それに、今回の戦いで戦端を開いたのは君たちの帝国の方だろう。先に剣を抜き、相手を殺しにかかるときには、自分たちも死ぬ覚悟を伴うのが筋じゃないのか? 碌な覚悟も無しに自分より弱いと見下していた相手に戦をふっかけて、情けなく負けたらその相手を恨むなんて、随分身勝手だと俺は思うがね」


「な、何を!」


 自身が抱いている感情を身勝手と看破されて更に憤るランバルに対して、柴田は口を挟ませないように言葉を続ける。


「それに君のドルサという友は、前線で戦う竜騎兵だったのだろう、彼は戦場においてそういった覚悟がないヤツだったのか?」


 柴田はドルサの兵士としての覚悟を問うような質問を投げかける。


「そ、それはちがう! 彼は死を恐れない誇り高い騎士だった!」


「・・・そうかい」


 ランバルは首を左右に振りながら、柴田の言葉を否定する。少しの沈黙が流れた後、再び柴田が語り出した。


「今述べたのはあくまで俺個人の考え方さ。別に深く考えなくて良い。・・・ただ、今何かを恨むのなら、先に剣を抜きながら力及ばずに負けた自分たちを恨めよ。俺たちは自分たちに降りかかって来た火の粉を払っただけなのだから」


「・・・」


「話は終わりだ。心音を聞かせてくれ」


 話を終えた柴田は、ランバルの診察を始める。彼の言葉は、若き整備兵の心に大きな楔を残すことになった。


〜〜〜〜〜


12月28日・夜 アルティーア帝国


 日本政府は「ロバーニア王国沖海戦」への参戦を正式決定した12月10日に、アルティーア帝国に派遣していた使節団に対して、安全確保の為に同国からの国外退去を通告していた。

 しかし、アルティーア帝国は首都における防衛や貿易統制の観点から、他国の船が首都クステファイに停泊することを禁止するという海禁政策を執っており、その為、日本国使節団が乗って来た艦である護衛艦「いなづま」は、陸路では350kmほど首都から離れている帝国第二の都市「ノスペディ市」沖合に停泊していたのである。

 また帝国国内の移動は現地で雇った馬車を使用していたため、首都入りしていた使節団が12月12日に国外退去命令を受け取り、再びノスペディに到着したのはその16日後の28日の夜のことだった。


「やっと日本に帰れる。こんなおごり高ぶった連中との交渉なんて金輪際ごめんだね!」


「外務省も外務省だ。上役ったら『この国との交渉は不可能』と再三報告しているのに、『なんとかして来い』の一点張りだもんな」


「あいつらそもそも日本を極東の未開国としか認識してないのに、この世界の外交常識から考えて、対等な立場での国交開設なんて応じる訳がないんだよ」


 アルティーア帝国に派遣された外交官、嶋信司と川口伸行は馬車の中で愚痴をこぼす。わずか5日の間だったが、その間に彼らが首都クステファイで行って来た帝国政府の担当者との交渉は、彼らにとってとても屈辱的なものだった。

 国力の差で国を差別することを良しとするこの世界において、極東の新興未開国家としか見なされていない日本の使者に対し、アルティーア帝国側がまともな対応をする訳が無く、国交樹立交渉は難航を極めたのである。川口と嶋の2人は幾度と無く爆発しかけた怒りを抑えつつ、穏便に交渉を行っていたが、そんな最中、遂に本国から帰還命令が届けられ、彼らは歓喜に沸いたのである。


 その後、2人の外交官と彼らの護衛として付いていた3人の陸上自衛隊員を乗せた馬車は、夜の海の上に浮かぶノスペディの港へ辿り着く。5人は馬車から降り、代表者である川口は御者に代金を手渡した。


「ひい、ふう、みい・・・はい確かに。では旦那、あたしゃこれで」


「ああ、長距離ごくろうさん」


 数えた金貨を懐にしまう御者に、川口は労いの言葉を掛けた。

 その後、雇い馬車の主人と別れた使節団の5人は、夜の港に向かって歩き出す。


「船はこちらです」


 佐藤明弘陸士長/兵長の先導で、使節団は「いなづま」へ向かう小型船が停留している桟橋へと歩く。夜の冷たい海風を感じながら、一行は港を歩いていた。時間が時間故に辺りには人は居らず、さざ波の音だけが響き渡っている。

 だが、港を少し進んだ時、彼らの目の前に居ない筈の人影が何処からか現れたのだ。


「・・・何だ、お前は!?」


 黒いフードをかぶった不審な男が、いきなり彼らの前に立ちはだかる。見るからに怪しげな風貌に、5人は本能的に警戒心を強める。


「貴殿らを、ニホン国使節の方々とお見受けする」


「・・・ええ、そうですが、何かご用ですか?」


 フードの男は彼らの身の上を知っている。いよいよ怪しいと感じた嶋は、男の素性を尋ねようと少し前に出た。


「嶋さん、前に出ないで! 危ない!」


「・・・え?」


 異変を察知した佐藤陸士長は、咄嗟に警告を発する。しかし時既に遅く、佐藤の警告と同時にフードの男は剣を振り下ろし、嶋の左前腕をはね飛ばしたのだ。


「ぐっ・・・! うわあああ!」


 はね飛ばされた嶋の腕は、そのまま地面の上に落下した。切断面からは大量の血が噴き出しており、その余りの激痛に嶋は倒れ込み、うずくまってしまう。


「嶋! ・・・貴様一体何を!?」


「・・・」


 川口が叫んだ。だが男は何も答えない。そして彼は、嶋に止めをさそうと剣を思いっきり振り上げた。


バキューン!!


「ぐはっ!?」


 間一髪、佐藤は持っていた拳銃で素早く男を射殺した。正確に心臓を撃ち抜かれた男は、力無く地面の上に倒れ込む。だが、事態はそれで終わりでは無かった。川口や佐藤たちが周りを見渡すと、自分たちに敵意を持っていると思われる集団に、いつの間にか取り囲まれていたのである。


「何なんだ、お前たちは!」


 佐藤は敵の正体を探る為、自分たちを取り囲む集団に向かって大声で問いかける。すると、集団のリーダーと思しき人物がフードを脱ぎ、彼の問いかけに答えた。


「我々はアルティーア帝国軍だ。貴様らの国は極東洋にて帝国への敵意を表明した。皇帝陛下の命により貴様らを殺し、その首をさらすことでニホンへの宣戦布告とするのだ」


「!!」


 川口や佐藤、他の2人の自衛隊員は血の引く様な感覚に囚われる。目の前に立っているアルティーア帝国軍の男は、明確に自分たちの命を獲りに来たと告げたのだ。驚愕する彼らに対して、帝国軍の下士官であるノデュール=ヴァーミスは言葉を続ける。


「愚かな蛮国だ、自らその死期を早めるとは。首都での貴様らとの交渉の場では、常識をわきまえぬ貴様らニホンに帝国はこの上ない慈悲を与えたというのに」


「・・・何が慈悲だ!」


 ノデュールの傲慢な発言に、佐藤は怒りをあらわにする。帝国との外交交渉は日本使節団にとっては侮辱の連続であり、日本人として耐え難い屈辱的なものだったからだ。


「城、山本・・・、敵中を突破し『いなづま』へ帰還するぞ」


「・・・!」


 この絶望的とも言える状況を打開する為、敵中突破を決意した佐藤陸士長は、部下である城清治郎と山本仁の2人に小声で命令を出す。名前を呼ばれた2人の一等陸士/一等兵は黙って頷いた。


「発砲!!」


 佐藤の号令と共に、彼と城、山本の3人は、所持していた拳銃を帝国軍に向かって乱射する。9mm拳銃から放たれた銃弾の雨は、容赦無く帝国兵たちに襲いかかった。


「ぐはっ!」


 銃弾を受けた10人ほどの帝国兵がなす術も無く倒れていく。予想外の出来事に恐れを成した彼らは、堪らず脚を怯ませた。


「これは銃か! なぜ蛮国の一兵卒ごときが銃を持っている!?」


 その様子を目の当たりにした下士官のノデュールは、拳銃を手にしている3人を睨みつける。

 持ち運びの出来る小型の火砲である「銃」は、彼らにとっては「とある大国」によって近年開発された最新兵器であった。アルティーア帝国にとっても、その銃を輸入から自国生産に切り替えることができたのは最近の話であり、その最新兵器を極東の未開国がすでに実用化、さらには小型化しているなど、想像すら出来ないことだったのだ。


「今だ!! 走れ!!」


 そんなことはつゆ知らず、この一瞬の隙を好機と見た佐藤は、他の3人に向かって号令を発した。川口、城、山本の3人は彼の言葉を合図に、こじ開けられた退路に向かってくぐり抜けるように走り出す。

 佐藤は倒れていた嶋の左腕をハンカチで縛って止血した後、落ちていた腕を拾って彼を抱きかかえ、3人の後を追って全速力で走り出した。5人の目的地は同一、小型船が停泊している桟橋だ。


「くそ、逃がすな! 皆殺しにせよとの命令だ!」


 ノデュールは彼らを取り逃がすまいと、自らが率いている隊の兵士たちに使節団の後を追わせた。


「矢を放て!」


 ノデュールの命令を受け、帝国兵たちは一斉に矢を放つ。その中の一本が、嶋の身体を担いでいる佐藤の右ももに突き刺さった。


「ぐっ・・・!」


 佐藤は堪らずその場に倒れ込み、彼に担がれていた嶋は前方へ投げ出された。佐藤の右ももに深く刺さった矢は動脈を傷つけてしまったのか、傷口からは勢い良く出血している。

 佐藤が嶋の方へ目をやると、不完全な止血しか出来ない左腕からの出血の為、血色がどんどん悪くなっているのが目に見えて確認できる程であった。事態は一刻を争う。止血の応急措置として自らの右ももをネクタイで締め上げた佐藤は、嶋を再び担ぎ上げる為に彼の下へ駆け寄った。


「お前ら・・・早く行け! 俺にかまうな・・!」


 自分の身体を担ぎ上げようとしている佐藤に、嶋は自分を見捨てるように指示する。自分と同じく怪我をしてしまった佐藤では、自分を抱えてこの場を逃げることは不可能だと感じていたのだ。

 それならば、2人とも逃げ遅れて殺されてしまうよりも、1人でも多く生き残った方が良い、嶋はそう考えていた。


「そんな! 置いては行けません!」


 佐藤は悲痛な声色で叫ぶ。その間にも、帝国兵が放った矢が嶋と佐藤の周りを飛んでいた。後方の異常事態を察した城一士と山本一士は、すかさず拳銃で帝国兵へ向かって射撃を行い、帝国兵たちを怯ませてその動きを止める。


「血を流し過ぎた・・・。俺はもう助からない・・・ここまでだ」


「そんな! 輸血すればまだ助かります!」


「無理だ・・・!」


「嶋さん! 諦めては駄目です!」


 自らの死期を悟る様な嶋の発言を、佐藤は命一杯否定する。嶋は悲痛な表情を浮かべる佐藤の肩に残った右手を置くと、諭すように口を開いた。


「早く本国に伝え・・るんだ・・! アルティーア帝国は日本に宣戦を布告した! 行け!!」


 列強国よりもたらされた日本への宣戦布告、故郷を戦火に巻き込まんとする邪悪な意志の存在を一刻も早く日本政府に伝える為、嶋は自分を見捨てる様に強く訴える。

 だがその時、後ろから嶋を叱責する怒鳴り声が聞こえてきた。


「・・・何を格好つけている! 見捨てて行け、なんて言葉に従えるか!」


「・・・!?」


 佐藤と嶋が振り返ると、そこには先に逃げていたはずの川口が立っていた。彼の後ろには拳銃を構える城と山本の姿もある。


「城、山本! 佐藤陸士長が負傷した! 代わりに嶋を運んでくれ!」


「了解!」


 川口の指示を受けた2人の一等陸士は、すぐに嶋を担ぎ上げる。足を負傷した佐藤は川口の肩を借りることで再び走り出す。その後、追走する帝国軍を射撃によって牽制しながら、5人は夜の闇に紛れ、何とか目的の桟橋に到達したのである。

 使節団を乗せた小型船のエンジンがかけられ、彼らは港を離れて行く。小型船は「いなづま」によって助け出され、彼らは帝国の対日宣戦を日本政府へと伝えた。その後、佐藤と嶋は艦内にて医官による治療を受けたが、すでに多くの血を失い、出血性ショックによる昏睡状態に入っていた嶋は、輸血の甲斐無く臓器不全により死亡してしまう。

 彼らからの報告を受けた日本政府は、国家安全保障会議の緊急事態大臣会合を召集、閣僚たちはこの非道な行いと彼の国からの宣戦布告に対してどう対処すべきか、緊急に話しあうこととなった。


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― 新着の感想 ―
[一言] そして後半部分、戦争中であろうと普通は外交官を攻撃しないのにアルティーア帝国は違うらしいw。
[一言] 2000人は乗船している第二次世界大戦時の戦艦がたとえ轟沈しても10人くらいは助かるのに1隻に50~100人くらいは乗っているであろう木造船を321隻沈めて救助できたのが100人はいささか少…
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