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ロバーニア王国沖海戦 壱

F−3やコブラの後継機、多機能護衛艦など、朧気だった部分の設定を詰めました。

12月10日 極東洋 ロバーニア王国 首都オーバメン


 日本国にて、自衛隊の防衛出動が国会承認されてから2日後、ロバーニア王国駐箚大使である前田晶は、再び王の宮を訪れていた。

 王に仕える侍従に案内されて、応接間へ通された彼を、この国の王であるアメキハ=カナコクアが迎え入れる。前田は国王に対して深く一礼した後、日本政府から預かった言伝を伝える。


「日本政府より出兵の可否について連絡がありました。政府は正式に貴国への軍事支援を行うことを決定致しました」


「・・・オオッ! それは真か!?」


 大使の言葉を聞いたアメキハは歓喜の声を上げた。喜びの色を見せる彼らに、前田はある書類を差し出す。それには現地語でいくつかの文章が書かれていた。


「軍事支援に当たって、我が国より貴国に求める要望と条件です。国王陛下にはこちらをご了承頂きたく存じます」


 アメキハ、そして彼の背後に控えていた宰相のアトトは、前田から手渡された書類に目を通す。それには、以下の様な事が記されていた。


・アルティーア帝国軍が実際に進軍してきた場合、その排除は日本軍が優先して行う。

・ロバーニア王国はアルティーア帝国軍の排除の為、同国内に日本軍が駐留することを認める。

・ついては、ロバーニア王国は日本国に軍の駐留地となる土地を貸与する。出来れば無人の海岸部が望ましい。


 日本国から要求された3箇条を確認したアメキハとアトトは、互いに目を合わせて頷く。アメキハは前田の方を向いて口を開く。


「いずれも問題ない。軍を派遣する以上、当然の要件だな」


「ありがとうございます。では本国に至急連絡させて頂きます」


 国王の了承を得ることに成功した前田は、そう言って深く一礼すると、椅子から立ち上がって応接間を退出して行った。

 彼の後ろ姿を見送ったアメキハは、テーブルの下から1枚の紙と日本製の羽根ペンを取り出すと、それに短い一文と署名を記した。


「アルティーア帝国の特使はまだこの都に滞在しているな。そやつにこれを届けよ」


 アメキハはそう言うと、先程自筆で書いた書簡を折りたたんでアトトに渡す。それにはアメキハのサイン付きで「貴国の要求を断る。貴公は即刻この国を去れ」という一言だけが書かれていた。

 その後、その書簡は王の宮に仕える文官によって、首都の宿に滞在中のアルティーア帝国特使に届けられた。その内容を見た特使は激怒し、書簡を届けた文官に罵詈雑言を浴びせたが、彼は聞く耳を持たずに王の宮へと帰還した。


・・・


首都オーバメン 港


 国王アメキハより国外退去命令を下された、アルティーア帝国特使のグラハム=スティールは、首都オーバメンの港を出航する船の甲板から、怒りに充ち満ちた目で王の宮を見つめていた。


「ふざけるなよ、蛮族の酋長風情が」


 グラハムはそう言うと、懐から1つの「貝」を取り出した。彼はその貝の中に向かってあるコードを唱える。すると数秒後、貝の中から人の声が聞こえてきたのである。


『・・・こちら外交局大臣室』


 貝の中から聞こえる声は、ロバーニア王国から遠く離れたアルティーア帝国の首都クステファイから届けられているものだった。

 彼が使っているこの魔法道具の名は「信念貝」、貝の形をしているが「遠隔地間音信魔法」を使うことが出来る携帯電話の様な代物であり、中近世の世界観を基軸とするこの世界において、20世紀並の情報伝達速度を可能にしている魔法道具なのだ。


「グラハムです、ロバーニア国王は我々の要求を拒否しました! さらに早くも各連合国に戦争準備と軍の集結を呼びかけています!」


 アルティーア帝国特使であるグラハムは、本国の外交大臣に交渉決裂を報告する。


『なんと愚かなことだ。セーレンの惨状を見てなお帝国に抵抗の意志を示すか。正気の沙汰とは思えんな。まあ良い、これで我ら帝国の版図はさらに広がる・・・』


 アルティーア帝国外交大臣のカブラム=クレニアは、貝の向こうでほくそ笑んでいた。


『皇帝陛下にお伝えせねばならないな。ロバーニア王国は我々に敵意ありと! ロバーニアを攻め滅ぼすため、軍派遣の許可をと・・・!』


「・・・はい!」


 程なくして音信が切れる。外交大臣の言葉を聞いて、グラハムは胸がすく思いをしていた。その後、アルティーア帝国皇帝ウヴァーリト4世の決定により、ロバーニア王国への派兵が正式に決まり、「極東海洋諸国連合」と「アルティーア帝国」の開戦は決定的なものとなったのである。


〜〜〜〜〜


12月12日 日本国 首都東京・千代田区 首相官邸


 この日も首相官邸にある会議室に、首相以下十数名の閣僚たちが集まっていた。彼らは今、アルティーア帝国との開戦が決まってしまったロバーニア王国に対する軍事支援について、統合幕僚長である原田大伍陸将から説明を受けていた。


「今回の防衛出動における派遣計画についてですが、まず海上戦力については、『第1護衛隊』と『第6護衛隊』から成る2個護衛隊の護衛艦8隻、及び『第41航空群』を搭載した『第1遊撃隊』空母1隻を派遣、また第1護衛隊の『いずも』には対戦車ヘリコプターである『ヴァイパー(AH-1Z)』を搭載、これらの戦力によって敵の艦隊に対処致します。加えて、万が一これらによる防衛網を突破された場合に備え、首都オーバメンの郊外に大隊規模の陸上自衛隊による防御線を展開します。

陸上戦力における車輌は輸送艦にて運搬します。補給艦は航海距離から必要ないとの判断を致しました」


 原田はロバーニア島の大まかな地図が映し出されたスライドを交えて、今回の防衛出動の概要について説明する。

 因みに彼が述べた「第41航空群」とは、日本版空母航空団として新たに設置された海上自衛隊の航空群であり、主に「ライトニングⅡ・F-35C戦闘機」と早期警戒機「ホークアイ(E-2D)」などから成っている。東アジアでの戦乱を経て、自衛隊の在り方と戦力は大きな変貌を遂げていた。


 F−X選定の遅れによって長らく酷使されていた航空自衛隊の戦闘機「ファントムⅡ・F−4EJ改」の後継機として、2017年より国内配備が開始された第5世代ジェット戦闘機である「ライトニングⅡ・F−35A」42機が納入されつつあった2019年、日本政府は「イーグル・F−15J/DJ」の前期生産型である「Pre−MSIP機」約100機についても新規の機体で代替することを決定し、その後継機としてF−35Aの追加調達を決定していた。

 だが、ほぼ時同じくして「日中尖閣諸島沖軍事衝突」が勃発。人民解放軍には空母の出撃はなかったものの、海上自衛隊に少なくない被害を受け、更に石垣島に艦対地ミサイルが発射されて民間人犠牲者を出すなど、決して軽視出来ない被害を被った。この事態を重く受け取った日本政府は、先制攻撃能力、制空能力、制海能力、遠隔地攻撃能力の強化を行うため、31・32DD計画を大幅に改訂し、第2次世界大戦後初の「航空母艦」の保有に動くことになった。

 政府は艦載機の調達の為に追加注文していたF−35Aを艦載機型の「F−35C」に変更、加えてもっと後年に起工が予定されていた「多目的輸送艦(強襲揚陸艦)」の建造計画を前倒しにすることにした。さらに巡航ミサイルの発射能力を備えた「新型ミサイル護衛艦」の建造を発表し、陸上戦力についても、長らく不透明だった対戦車ヘリコプター「コブラ・AH−1S」の後継機がようやく「ヴァイパー・AH−1Z」に決定したのである。

 防衛費は対GDP比率の2%以上に跳ね上がり、急激に右傾化する世論の高まりも相まって、2019年以降の日本は正に“戦時体制”とも言うべき状態になっていた。


 その代償として、2018年より建造されていた「多機能護衛艦」については、当初に予定されていた建造数の累減を余儀なくされ、それに応じて、本来ならば退役させるべき護衛艦の就役期間が延長されることとなった。

 また日英共同開発が決まり、「F−2戦闘機」、あわよくばPre−MSIP機の後継機とすることを見越し、2030年以降の就役を目標にして開発が進められていた「F−3戦闘機」については、転移によってイギリスとの連携が絶たれたことで開発事業の中断が余儀なくされており、その再開については不透明なままである。


「・・・説明はこれにて終わりです。何かご質問はありますか?」


 説明を終えた原田はそう言うと、会議室全体を見渡した。挙手する人物が居ないことを確認し、彼は閣僚たちに向かって頭を下げる。


「では、此度の戦闘に関する説明を終わります」


 防衛出動に関する説明を受けた閣僚たちは、それぞれの職務へと戻る為に首相官邸を後にする。そして3日後、危機が迫る友好国を救済する為、「ロバーニア王国支援艦隊」が日本各地の港から出航したのである。


〜〜〜〜〜


12月21日 ロバーニア王国 首都オーバメン 港


 日本を出航した支援艦隊は、それから5日後にロバーニア王国の首都オーバメンの港に到着した。輸送艦「おおすみ」のウェルドックから、エア・クッション(LCAC)型揚陸艇によって陸上自衛隊の車輌が次々と陸揚げされている。


「なんと巨大な船なのだ!」

「これがニホンの軍艦・・・」

「見ろ!船から鉄の怪物が次々港に降りて来ているぞ!」

「あれは鉄の羽虫か?」

「これらすべてが我が国の味方となるらしいぞ!」


 海岸に現れた異国の艦隊を一目見ようと、首都市民が野次馬となって集まっていた。ロバーニアの地に降り立つ10式戦車や89式戦闘装甲車、また、護衛艦から飛び立ち、空を飛行する哨戒ヘリコプター「シーホーク(SH-60K)」を、彼らは驚きと感激の目で見ている。




首都オーバメン 王の宮


 国王アメキハと宰相のアトトは、丘の上にある王宮のテラスから港の様子を見つめていた。


「これはなんとも荘厳な・・・」


「ニホン国の説明によると、あれら全ては魔法や魔物の類では無く、全てが機械仕掛けによるものとの事です。・・・正に“謎の国”ですな」


 未知の国からやって来た軍団を目の当たりにして、2人は唖然とした表情を浮かべていた。


「・・・ああ、だが大分希望が沸いて来た! 連合の方はどうだ、何カ国くらい集まりそうだ?」


 日本軍の異様な姿を目にして、希望の光を感じていたアメキハは、アトトに兵力の集まり具合について尋ねた。日本から派遣された自衛隊の上陸に前後して、極東海洋諸国連合に属する各国の軍勢もこの国に集まっていたのである。


「現在、12カ国がこの戦いへの参戦を表明し、そのほとんどの兵士が既に到着しております。ですが・・・知らせによると、此方へ向かっているアルティーア帝国軍によって、『アネジア王国』は既に落とされたとの事です・・・」


「・・・」


 アトトの報告から、同盟国の1つが既に犠牲になってしまったことを知り、アメキハは心を痛める。


「・・・帝国軍を追い遣った暁には、すぐに援軍を派遣せねばな。それと・・・集結した12カ国にはニホン軍の邪魔をしないように十分に伝えておけ、血気盛んな連中ばかりだからな」


 アメキハはそう伝えると、冬の寒風を避ける為に部屋の中へ戻って行った。


・・・


<ロバーニア王国支援艦隊>

司令 鈴木実海将補/少将(第1護衛隊群司令)

副司令 大久保利和一等海佐/大佐(第6護衛隊司令)


護衛艦「きりしま」「たかなみ」「おおなみ」「てるづき」「いずも」「まや」「しらぬい」「いかづち」

航空母艦「あかぎ」

輸送艦「おおすみ」


〜〜〜〜〜


12月25日 極東洋 ロバーニア島北西部の海岸


 来たるアルティーア帝国軍に備え、連合の盟主であるロバーニア王の要請を受けて集まっていた極東海洋諸国連合の各国の水軍が、首都オーバメンから島を挟んで反対側に当たる北西部の海岸に集結していた。

 今回、ロバーニアに集結した極東連合28カ国中12カ国の総兵力は、全長20mほどの軍船が478隻で、兵数は42,200名である。対して帝国が派遣してきた総兵力は、50m超級の帆走軍艦が324隻、そして兵数68,000名であり、第三国の誰もがこのとき、極東連合の大敗を疑っていなかった。

 そんな極東連合の小舟の軍団の端に、場違いな150m超級の護衛艦8隻が並んでいる様子は、何ともいえないシュールさを醸し出していた。また極東連合軍が集結している北西部沖に面した海岸には、F-35Cを搭載した航空母艦「あかぎ」が停泊している。


 そして今、首都の港に残っている輸送艦の「おおすみ」を除く9隻の艦長たちは、旗艦「あかぎ」に乗る指揮官と共に、無線通信を用いて作戦会議をしていた。




旗艦「あかぎ」 艦橋


 全長273メートル、自衛隊が保有する艦の中で最大の大きさを誇るこの艦「あかぎ」は、戦後初の航空機の離発着を主目的とした護衛艦であり、一般的な分類としては正規空母に属している艦である。

 日本が空母を所有することとなった背景には、「日中尖閣諸島沖軍事衝突」と「東亜戦争」がある。差し迫った脅威を前にして武力を求めた日本は、2021年に憲法9条の改正を達成し、2023年までには3隻の強襲揚陸艦と15機の「F−35B戦闘機」まで持つまでになった。

 しかし本題の「あかぎ」については、建造中の2024年3月に東亜戦争が終結を迎えてしまい、対中国戦投入という当初の最大目的を失ってしまうという事態に見舞われ、建造中の「あかぎ」は、かつて計画のみに終わり、太平洋戦争で日の目を見ることがなかった幻の超大和型戦艦になぞらえて「平成の紀伊」と揶揄された。

 建造中止も持ち上げられたが、すでに8割方完成していたためその後も建造を続行し、東亜戦争終結から10ヶ月後の2025年1月に就役したのである。また「あかぎ」とは1年遅れで建造を開始していた、もう1隻の戦闘機搭載型護衛艦は未だ建設途中であり、現在は作業凍結中である。


「現在、アルティーア帝国軍は北西方面より接近中と思われている。敵には“竜騎”とかいう航空戦力があるらしい・・・」


 今回、支援軍司令の職を任されている鈴木実海将補/少将は、各艦の艦長と繋がった無線機に向かって、戦闘計画の概要について説明していた。


「この竜騎については主に空母航空団で、必要になればイージスで対処する。海の敵艦隊については、艦砲射撃で問題無いだろう。だが、艦砲射撃の前に・・・帆走軍艦に艦対艦ミサイルが問題無く作動するかどうか、実験をしておく。『きりしま』はハープーンを1基準備しておいてね」


『了解しました!』


 「きりしま」の艦長を務める六谷修平(ろくたに しゅうへい)一等海佐/大佐は、無線越しに返答を伝える。

 そして2時間後、ついに各護衛艦の対水上レーダーに艦船の群れが現れた。これから始まる戦いは、後にこの世界に語り次がれる謎の国「日本国」に纏わる武勇伝の“序章”として語られることとなる。

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