第五回 学校へ行こう 兄・中学校編
学校へ行こう(兄・中学校編)
会議で決まったことを実行に移しながら夏休みは過ぎていった。
そして迎えた新学期。
「それじゃ、行ってきます。」
「パパ?どこにいくの?てんまもつれてって」
「昨日言っただろう?パパはこれから学校に行かなきゃいけないんだ。」
「ママたちも?」
「ああ。だからおじいちゃんとおばあちゃんと一緒にパパたちの帰りを待っててく
れるか?」
そう言う宗に今にも泣きそうな天真は抱き着く。
「う~。い、イヤだけどが、がまんする。だからはやくかえってきてね」
「ああ。出来るだけ早く帰るからな。もし我慢できなかったらおじいちゃんに言う
んだぞ。パパが会いに帰ってくるから」
「うん。でも、てんまがまんする。パパ、たいへんだもんね」
「おお。偉いぞ!じゃあ、行ってくるな」
「うん」
宗は天真をぎゅっと抱きしめてから家を出た。
ちなみに、宗の通う中学校は玲美たちの通う小学校より少し遠いため玲美たちよ
り早めに出る。
少しばかり歩いたところで宗は不安になってくる。
「やっぱり不安だな。これはしばらくの間、父さんの秘策に頼るしかないな」
宗はやっぱり親バカだった。
・・・
宗が中学に到着すると周りがザワザワと騒ぎ出した。
校門をくぐるとそのザワザワがより一層増す。
「入学式の時からそうだけど、どうしてみんな俺を見てそんなにヒソヒソと何かを
話すんだろ。何かあるなら直接俺に言えばいいのに」
この男、前の回で魔夜に言われたことに考えが至っていないようだ。
「おーい!宗。おはようさん」
宗がみんなの反応にため息をついていると後ろから声が聞こえてきた。
宗が振り向くとそこには宗といつも一緒にいる友達の朝霧浩太と倉西秋乃がこち
らに走って来ていた。
「おはよう。浩太、秋乃」
「おはよ。真尾君」
秋乃がそう返す。
「あれ、真尾君どうかしたの?」
「え?」
秋乃がいきなりそんなことを聞いてきた。宗もいきなりのことでびっくりしてい
る。
「いや、なんか心配事でもあるのかなーと思って」
「そうなのか?宗」
「あ、ああ。ちょっと家でね」
それ以上は事情が事情だけに友達とはいえ、言えない事柄だった。
(まさか、この休みの間に父親になったなんて言えない。それにしても、浩太は分
からなかったのに、秋乃はよく分かったなー)
宗がそう考えている間、秋乃は別のことを考えていた。
(真尾君のことで私が気づかないわけない。あれは、何かに相当心を割いているわ
ね。あ。も、もしかして、す、好きな人がで、出来てしまった?)
このセリフからも大体想像できるように秋乃は宗に好意を示している。
百面相する秋乃は宗に言う。
「何かあったなら相談に乗るよ?」
秋乃がそう言って宗に事情を聞き出そうとしているが、宗もそうはいかないとば
かりに言う。
「いや、相談するまでのことじゃないから気にしなくてもいいよ」
「そう?」(くっ。ガードが堅い)
「うん。もし相談するようなことになったら頼むよ」
「ええ。もちろん」
「?」
その宗と秋乃の掛け合いをすぐ隣で聞いていた浩太はサッパリ理解していない様
子で見ている。
と、そこでちょうど予鈴が鳴り響く。
「やべっ。急ごうぜ」
浩太が宗と秋乃に焦りながら言った。
「そうだね。さすがに新学期早々に遅刻は嫌だし」
「ええ。行きましょう」
宗達は自分たちの教室に急いだ。
・・・
授業を受け、昼休みになった。
宗は昼食を浩太と秋乃の三人で食べていた。
「真尾君。やっぱり様子がおかしいわよ?」
「ああ。俺でも気づいた。確かにおかしい」
秋乃と浩太は心配そうな表情で宗に様子を伺う。
「そ、そうかな?」
「うん。なんかうちのお父さんがたまにそんな感じになってた」
「ち、ちなみになんで秋乃のお父さんはどうして今みたいな感じになってたの?」
宗は純粋に気になった。
「なんか、私が男子の家に遊びに行くって言ったら今の真尾君みたいになってた
わ。浩太の家に真尾君と行っただけなのに。大げさなのよ。まあ、何回か繰り返し
ていたらそのうち落ち着いたけど」
つまり、宗は我が子?である天真が心配で仕方ないのだ。
「宗。本当に大丈夫か?」
浩太も宗の身を案じてくれている。
「ま、まあ慣れれば元に戻るよ。秋乃のお父さんもそうだったんだし」
まだ見ぬ秋乃のお父さんに共感しながらうんうんと頷く宗。
「ほら、もうすぐ昼休み終わっちゃうし、早く食べよ」
宗が食べることを促したので二人も渋々ながら従う。
しかし、
「「気になる」」
ごまかし切れはしなかった。
「落ち着いたら話すよ。それまでは勘弁して」
「分かったわ。でも、ちゃんと教えてよ?」
「うん」
そういうことで宗の天真に対する親バカは浩太と秋乃からスルーしてもらうこと
に。まあ、全部の事情は話せるわけがない。
(そもそも、玲美ちゃんにも俺達のこと全部話していないんだから。二人に話すの
は大分先になるだろうな・・・)
始業式ともろもろの説明だけなので宗達は昼食後帰宅となる。
宗は帰りのホームルームが終わると待ってましたと言わんばかりの速さで帰る準
備を終わらせ、猛スピードで教室の外に出る。
「ちょっ⁉宗!」
浩太がそんな宗を見て驚いていた。
「ごめん!先に帰るよ!」
宗はそう言い残すとダッシュで帰っていった。
「本当にあいつに何があったんだ?」
浩太は憮然と呟いた。
「私が知りたいわよ」
秋乃がその呟きに答えるように言った。
・・・
「ただいま!」
宗は少し魔族の力すら使いながら家に到着した。
「天真ちゃん。パパが帰ってきたわよ」
奥から悠美の声がする。
それからドタバタとした音が聞こえたと思ったら次の瞬間、天真が宗に突進して
きた。
「パパ‼おかえり~」
天真の嬉しそうな顔が宗に向けられる。
「うん、ただいま」
宗もそれに笑顔で返した。
読んでくれて感謝です。
次は20日投稿です。