第三回 子育てといきなりぶつかる壁
更新頻度を一週間ごとにと決めました。
よろしくお願いします。
子育てといきなりぶつかる壁
とは言っても、タイトルにあるようなガチ育児ではない。
なんだかんだでパパは中学生一年生。ママは小学六年生なのだ。
大人じゃなければ対処できないことは真麻と悠美に任せるしかない。
それで、宗と玲美がすることは大体は天真と一緒に寝ること、遊ぶことなどで育児を行っている。
さすがに中学も卒業していない子供に育児全てを任せることは真麻と悠美といえども出来ない。
まあ、宗は次期魔王として英才教育を受けてはいるので大丈夫そうではあるのだが。
そのことを宗が真麻に言うと、
「それは結局は机の上でのことだろ。実際に経験したわけではない。さすがに危なっかしいだろ」
と言われたので宗も納得した。
そんなこんなで任せられた育児を宗、玲美は魔夜の手伝いを受けながら始めた。
初めはよかったのだ。初めは・・・。
しかし、数日が過ぎると早速問題が浮上した。
「「「めっちゃ疲れる」」」
そう。
三人で一人を相手しているのに天真は一向に疲れを見せずに遊びまわっているのだ。
しかし、宗達はもうゲッソリしている。
体力では宗達の方が上だ。
しかし、天真の周りに気を配っていなければならない三人は初めての子育てともなって、かなり疲労していた。
簡単に言えば、精神的に疲れるのだ。
「子育てがこんなにも大変だったなんて・・・」
宗は夕暮れ時、庭の縁側に座って呟いた。
天真は今、悠美が面倒を見ている。
宗の呟きに同じく縁側でつぶれている玲美と魔夜が同意する。
「自分も小さい頃に面倒見るのが大変だったんだなって考えると親の偉大さがよくわかるよ」
玲美も疲れているのか、それとも子育てを通して宗と魔夜に慣れたのか、普通に話すように最近はなってきた。
「それにしてもお母さん、さすがだなー」
魔夜は庭で天真と一緒に遊んでいる悠美を眺めながら言う。
「私たち、あれだけでもすでに疲れが出始めてたのに。全然そんな様子がない」
「お母さん、子どもが好きだから。苦にならないんだと思う」
玲美がそう教えてくれる。
「なんだぁ?三人もいてもう疲れたのか」
真麻がそう言って宗達に声をかける。
「一日目でギブアップしたくせに偉そうに言うなよ」
宗が毒を吐く。
「い、いや。俺もお前らと同じように子育て初心者だから」
真麻がその言葉に狼狽する。
「でも、さすがに大人の余裕を見せてほしかったよねー。まさか私たちよりも先にギブアップするとは思わなかったもん」
宗に続いて魔夜も毒を吐く。
「あ、あはは」
玲美も同意見なのか真麻のフォローはしない。
ここには味方がいないとみると真麻はそそくさと悠美のところに行ってしまった。
「おじいちゃーん!」
天真がいることをすっかり忘れていた真麻。
「ぎゃああああ」
天真にタックルをくらってしまう。
「俺を倒しても第二、第三の俺が・・あら・・・われ・・る・だろ・・う・・」
子供に瞬殺される魔王。
テンプレなことを言いながら真麻は崩れ落ちていく。
「あんなかっこ悪い魔王、いやだわー」
「私もだよ」
「わ、私もゲームとかにあれは出てきて欲しくない、かな」
宗、魔夜、玲美はそれぞれ自分の思ったことを素直に言う。
宗と魔夜はあれが魔王で本当にいいのか?という意味で。玲美は言葉通りの意味で。
小さな子供にやられる魔王。確かにこの文面だけでも情けなくなってくるのは気
のせいではないはず。
真麻が天真から逃げるように宗達のところまで帰ってきた。
「俺、もしかしてこの家でのヒエラルキー最下層なの?」
今更気づく真麻。
「今更だよ、父さん」
「俺、魔界で一番偉いのに。・・・・・ぐすん・・」
真麻は小さな声で呟いたので宗達には聞こえていない。
否、真麻の心からの気持ちは誰にも届くことはなかった。
「でも、まあお前らの疲れた様子を見ているとさすがに色々と考えないといけないな」
「なにを?」
「お前ら毎日これを続けていけるのか?」
そう言われて宗達は今日までの子育てを思い返す。
「「「無理」」」
「だよなー」
真麻がそう言いながら三人の隣に座る。
「今は悠美さんが天真を見てくれてはいるけど、基本的には宗にべったりだろ?もうすぐ夏休みも終わって学校も始まるし。そのことも考えなきゃいけない」
なんだかんだで真麻も宗達の親。
宗達の考えが及んでいないところまでしっかりと考えていたようだ。
「初日で子育てギブアップしたから暇だったんだろ」
「おう!なんか仲間はずれ感ハンパなかった」
しっかりと考えていたわけではなく、暇だから考えていただけのようだ。
「とにかく、このことはいずれは考えなきゃいけないことだ。今のうちに済ませて
おいた方がいいだろ」
「そうだね」
魔夜が同意する。
「じゃあ、天真が眠ったらまた家族会議だな」
「まあ、あの様子だとまだ眠たくはなさそうだけど」
真麻の言葉に魔夜が苦笑いしながら言います。
「今日の家族会議は夜遅くになりそうだな」
宗は次の日、寝不足になることを覚悟した。
「まあ、とりあえずは」
「うん。そうだね」
真麻が悠美のところから走ってくるリトルモンスターに目を向けながら呟き、そ
れに宗が同意する。
「あれをどうにかしなきゃな」
「うん。そうだね」
同じセリフだが、先程よりトーンが若干下がっている宗。
「パパー!」
そして宗のおなかに突進する天真。
「ぐはぁ!」
宗に突進した天真はそのまま抱き着く。
そのあまりの攻撃力に宗はその場に崩れ落ちる。天真は宗に抱き着いたままだ。
「パパ?どうしたの?」
天真は不思議そうに宗を見ている。
「い、いや。何でもないよ」
天真にとって宗はこの程度の突進は何ともないと思っているのだろう。
もしくは天真自身がこの突進を突進とは思っていないのかもしれない。
「天真にとって俺は一体どんだけ強者なんだよ」
魔族は強靭な肉体を持っているように思われがちだが、実は肉体の防御力自体は
人間とほぼ変わりないのだ。
身体能力は圧倒的性能を持っているが、それに耐えれる肉体を持っていない。
それを補うものが魔法での肉体強化。
その魔法によって自身の身体能力から体を守っているのだ。
魔族はふとした瞬間に無意識に身体能力を発揮してしまう。
なので、基本的に魔族は肉体強化の魔法を常時使っている。
そうしないと命の危機にもなりかねないから。
なので、魔力探知などされたらすぐに見つかってしまう。
これは魔族の弱点でもあるのだ。
「俺達は基本的には虚弱なんだよ。それこそ天族に比べたらな」
宗はみんなに聞こえないくらいの声で呟く。
先程説明した魔族は体が弱いのとは逆に天族は体がハンパないくらい頑丈なの
だ。
それこそ天族の子どもである天真は宗や魔夜はもちろん、真麻までもがその肉
体の頑丈さには負けてしまうのだ。
まあ、天族の肉体の頑丈さへの対抗策は魔族の魔法で何とかなってしまうもので
もある。
それもあって天族は自分たちを脅かす存在として敵視しているのだ。
だが、今回はそれがうまく働いたのである。
真麻は悠美と玲美に天族対策の一つである衝撃遮断の魔法を使っていた。
これにより、ただの人間である悠美と玲美は天真の突進を何事もなかったようにしているのであった。
ちなみに、宗と魔夜はこの魔法、使えないのだ。
天族との戦争は終わったので覚えるのは後回しにしていいだろうと判断したためである。
真麻はそんな宗と魔夜にこれを機に覚えろと言い、訓練?の一環として魔法をか
けていないのだ。
「そろそろ家の中に入りましょう。もう暗くなってきたし」
宗達が話しているうちに太陽もほとんど沈んでいる。
悠美が頃合いを見計らって宗達に声をかけた。
「それもそうだな。さっさと入ろう」
真麻がそれに首肯し先に家に入っていった。
それに続いて宗達も入った。
その間も天真は宗に抱き着いていた。
・・・
中に入ってすぐに天真を風呂に入れ、夕食。(今日の天真の風呂当番は宗)
「はい。これは天真ちゃんの分ね」
悠美が天真の分の夕食を天真の前に置く。
「ありがとー。おばあちゃん」
まだ割り切れていないのか、悠美はまだ若干複雑そうにしている。
「これでみんなに夕食が行き渡ったな。それじゃ」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
みんなおいしそうに食べて始めた。特に宗、真麻、魔夜はものすごい勢いであ
る。
「やっぱり、女性の手作りはいいなー」
真麻が満面の笑みで言う。
「まあ、今まで基本的に外食だったからな」
宗が昔を思い出すかのように遠い目をしている。
「私も作れないしねー」
魔夜も遠い目をしていた。
まあ、当たり前のことではある。
そもそも、王族が急に自分で料理が出来るわけがない。
他の家事も同じことなのだが、他の家事は失敗しても取り返しがつく。
しかし、料理はそうはいかない。
なので、結局は外食などになってしまうのだ。
それでも王族の宗達にとってはごちそうなのである。
ちゃんとした温かい食事が出てくるし、毒などの心配もしないでいいのだ。
それが女性の手作りならばなおさら。
「な、なんだかちょっと大げさ」
玲美が呆れている。
「毎回毎回言うんだもん」
「作っている側からしたら嬉しいことだけどね。毎日作ったものをこんなに嬉しそ
うに食べてくれるんだもの」
悠美が嬉しそうに言います。
まあ、悠美は宗達の事情を知っているのでそのことに関するフォローでもあるの
だが。
そうこうしているうちにあっという間に食べ終わってしまった。
天真が船をこいでいる。
どうやら眠くなってきたようだ。
「先に宗君の部屋に行って寝ていなさい。後で宗君も天真ちゃんのところに行くか
ら」
悠美のその言葉に天真はコクリと頷き、トコトコ歩いて宗の部屋に行った。
「それじゃ、このまま家族会議を始めるか」
真麻の号令の下に家族会議が始まる。
次は4月6日投稿です。