第二十三回 条件
今回はちょっと短めです。
これは宗たちが人間界に行くことに対してフェルドマが出した交換条件の話である。
謁見の間での真麻の宣言の後。
魔王である真麻を部下たちが人間界に行かないように全力で阻止しようと躍起になっていた。
確かに謁見の間でフェルドマが休暇扱いにして人間界行きに同意したが、行かせないでいいのならそっちの方がいいに決まっている。
魔王城で働いている者たちは色んな手を使って魔界に引き留めようと頑張っていた。
貴族の小競り合いから色仕掛けまでそれはもう色々だ。
しかし、どれ一つ取っても長期間の拘束をすることは叶わなかった。
むしろ、人間界に行きたいがために普段よりも何倍も早い早さで公務をこなしていった。
色仕掛けなど、サキュバスにやらせたにも関わらず、あまり効果はなかった。
いくら魔王である真麻でも男であるので最初は引っかかったのだが、サキュバスの目的が自分を魔界から人間界に行かせないためだと分かるとすぐに真面目な顔になり、「我はこの程度のことで揺るぎはしない」と言ってのけた。
その顔はだらしなくなっていたので何の説得力もなかったが…。
これでは魔界に引き留めることはほぼ不可能だと考えた部下たちはフェルドマに相談した。
どうにか留まって貰えないかをフェルドマからも進言して欲しいと部下たちは懇願した。
それを受けたフェルドマはある策を考えついたのだ。
それが魔王に出された条件である。
ある程度のことは真麻本人に聞いていたフェルドマは条件を出したのだ。
『家族になる者にはしっかり正体を教え、受け入れられておくこと』
細かい条件は他にもあったが、これをクリアしないと始まらない。
これをクリア出来ない場合は記憶を消して、魔界に戻ってくるようにという条件だ。
これを言い渡された魔王は最初はもの凄い嫌がった。
当然だろう。
つまりは好きな人に忘れ去られてしまうということなのだから。
しかし、フェルドマの至極当たり前のことで簡単に説得されてしまう。
それは、受け入れられなかったら嫌われるどころか、恐怖されてしまうからだ。
自分だけならいいが、真麻は自分の子供たちも連れて行くつもりなのだ。
自分たちの新しい母親になるかもしれない者に、ましてや、自分の好きな人が自分の子供たちに酷いことを言ったり、したりするかもしれない。
そんなことは許容出来なかった。
そして真麻はフェルドマの条件を呑んだ。
最初は魔術で好きな人───つまり悠美───を視ているだけだったので、知らなかったのだが、真麻はとんでもないミスを犯してしまっていたのだ。
見た目が若々しかった悠美は独身だと思っていたのだ。
生活の様子を視ていたが、彼氏や夫などがいないことはすでに知っていた。
だから、安心して家の中を覗かなかったのだ。
覗くこと自体がプライバシー的にアウトなのだが、人間でない真麻には関係のないことである。
しかし、人間界に視察も兼ねて訪れたとき、悠美に接触したときに判明したのだ。
彼女には子供がいるということを。
真麻は動揺した。
悠美を好きという気持ちは変わってなどいないのだが、やはり子供がいるということは大きい。
そして、子供がいることによってフェルドマから出された条件の難易度が上がっているということに気がついた。
(ヤバい。どうやって正体を明かせばいいんだ!?)
その苦悩は悠美と交際をスタートしても続いた。
悠美はまだ明かす場面があるだろう。
しかし、親の彼氏がいきなり二人で話そうと言ってきたら怪しさしか感じないだろう。
向こうはお年頃なのだ。
しかし、このとき真麻は単純なことを忘れていた。
真麻も悠美に正体を明かしてから気づいた。
(悠美さんに正体を明かすときに一緒に明かせば良かったんじゃね?)
しかし、時すでに遅し。
言い出すタイミングを失ってしまっていた。
その後はもうご存じの通り。
宗に泣きつき、結局保留のままとなっているのであった。
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