第十四回 護衛するクラスメイト お見舞い編
護衛するクラスメイト お見舞い編
フォーメーションは簡単にして簡潔。
宗の周りを浩太と数名の男子で囲い、さらにその周りを数名の女子で囲う。
まあ、囲うと言ってもガッチリではなく緩くだが。
そして残りのクラスメイト達は陰での見張りと障害の排除に動く。
どこで訓練したの?って感じの動きで次々に撃退していく様はもし傍から見るとしたら正直ドン引きだ。
そうこうしていると秋乃の家に着いた。上品な雰囲気の高層マンションだ。
「大人数だと迷惑だから真尾君と朝霧君、行ってきなよ」
宗を直接護衛していたクラスメイトの女子の一人が言う。
「う、うん。分かった」
宗はぎこちなく頷くが、内心では(クラスのほぼ全員で来てるのに・・・。何し
に来たんだ?)と思っていた。
「おい。宗は分かるけどなんで俺も一緒なんだよ」
「だって、真尾君だけに行かせたら秋乃ちゃんテンパるでしょ?」
「あー、確かに。なるほどね。俺はフォロー要員ってわけか」
宗が女子と話している横で浩太と他に一緒について来ていた女子がこそこそと話
をしている。
「それじゃインターホン押すか」
浩太がそう言うとそのままインターホンを押した。
『はい』
出たのは秋乃。
ちなみに宗は女子たちにインターホンのカメラに映らないように隠れさせられていた。
カメラから女子の壁によって隠された宗はこの行動に若干引き気味。
「おっす。今日、あったことを伝えるのとプリントを持ってきたぞ」
『そう。なんであんたが来たのかは分からないけど。まあ、いいわ。入っていいわ
よ』
秋乃はそう言うとインターホンを切った。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
そう言って宗を送り出す。
「それじゃ行くか」
そう言って浩太が宗を促した。
「「いってらっしゃ~い」」
ニコニコ、否、ニヨニヨしながら手を振って見送る女子たち。
宗は浩太と一緒にエレベーターに乗って秋乃の家がある階まで行く。
・・・
「ここだな」
ドアの前に立って浩太が再びインターホンを押す。
すると数秒後にすぐに繋がった。
『来たのね。鍵は空いてるからそのまま入って来ていいわよ』
「おう。入らせてもらうわ」
ちなみに宗はカメラに映らないようにしゃがみこまされていた。
この扱いに釈然としない感じの宗。
インターホンはすでに切れているようだった。
「おじゃましま~す」
「しま~す」
浩太、宗と続いて部屋に入っていく。
「秋乃さ~ん。どこですか~?」
浩太は若干気まずそうだ。
「ここ~」
奥の部屋から秋乃の声が聞こえきた。
「なあ」
「なんだ?」
「なんでお前、そんなに勝手知ったるって感じなの?」
宗がそう言うと浩太は少し気まずそうに言う。
「今日、一緒に来た平川と木多見と俺は秋乃と幼馴染なんだよ。この時間帯は秋乃
の親も仕事でいないから秋乃一人なんだ。だからまあ、気まずさはあるけどそんなに家のこと気にすることはねーぞ?」
ちなみに、平川が宗に話しかけていた子で木多見が浩太と話していた子である。
「あ~、そっか。ありがと。でも、浩太は色々大変なんだな~」
宗は同情した。
流石に女子三人に男子一人はキツ過ぎる。
「そのことに関してはあまり聞かないでくれ」
「お、おう」
「それじゃ、入るか」
ドアをノックして浩太が「入るぞ~」と声をかけてから部屋に入る。
そしてそのままベッドの横に座る。
宗は部屋に入ると秋乃が寝ているベッドの枕の隣に電話の子機があることに気づいた。
どうやらこれにインターホンが繋がっているらしく、ここからチャイムに出たようだ。
この事実を知り、カメラの前でひたすら姿を隠された意味がなかったことを悟り、内心に留めたが、ゲンナリした。
「おっす。大丈夫か?」
「そんなにひどい風邪じゃないから大丈夫よ。それよりなんであんただけなの?他
のみ・・・んな・・・・・・・は⁉」
秋乃が話しかけている途中に宗が浩太と一緒にいることに気がついて驚く秋乃。
宗は秋乃に挨拶をしながら座る。
「お邪魔してます。ホントに大丈夫か?」
「うぇ⁉う、ううう、うん‼全然‼この通りピンピンしてるよ!」
風邪で頭が働いていない上に宗が来たことによりさらにテンパるする秋乃。
まさに、「秋乃はこんらんしている」だ。
「落ち着け」
そんな秋乃を見て流石にかわいそうになった浩太は秋乃に声をかけた。
「わ、わわわ、わかってるわ」
「声、裏返ってるぞ」
「うっさい!」
宗はそんな二人のやり取りを見て楽しそうに笑っていた。
「お見舞いに来たんだよ。マンションの外には他のみんなもいるんだけど、流石に
大人数だと迷惑かなって思って代表で俺と浩太だけで来たんだ」
「そ、そうなんだ。わざわざありがとね」
「うん」
なんとか気持ちを落ち着けて冷静に話す秋乃。
しかし、心の中では叫んでいた。
(やっったー‼クリスマスに真尾君が私の家にいるなんて・・・。ありがとう、神
様‼)
そして、その秋乃の姿を見た浩太はというと。
(絶対歓喜してるよ。あの表情で分からないのは宗ぐらいなもんだよ)
そう。秋乃の顔は完全に笑顔。
嬉しそうな笑顔になってしまっている。
ちなみに、宗の鈍感具合は王子生活があるが故なのだ。今まで社交の場でお世辞を言われ続けたが故なのである。
まあ、お世辞だと思っているのは宗のみで、大体は全員、全部本当のことを言って褒めていたのだが。
まあ、こんな感じで宗は分かりやすいことに感じては大体スルーする性格になってしまったのだ。
「はい。これがプリントね」
宗がカバンから出したプリントを秋乃に渡す。
「ありがと。これ、机に置いといて」
宗にお礼を言うと、そのまま浩太にプリントを差し出す。
浩太はそれに仕方がないといった表情ではあったが、従順に従っていた。
(浩太・・・。もう体に染み込んでいるんだな。かわいそうに・・・)
宗は憐憫のまなざしで浩太を見つめる。
そんな宗に浩太は気づかずに普段と同じ様子で言う。
「宗。そろそろお暇しようぜ。俺達がいたらこいつも休めないだろうし」
「おお。そうだな」
(ちぃ。余計なことを。まだ来たばっかりなのに!)
心の声が聞こえるはずもないが、秋乃がそう思った瞬間、浩太がこっちを見て震
えた。どうやら表情にまで出ていたようだ。
宗は浩太の言葉に同意し、立ち上がった。
しかし、宗はここでつい秋乃の頭を撫でてしまった。
「ふぇ⁉」
突然のことに驚く秋乃。
熱で赤くなっていた顔がさらに赤くなっていた。
「あっ!ごめん。つい妹にするようにしてしまった」
「うううう、ううん‼全然気にしないよ!むしろバッチコイだよ!」
ちなみに宗がこのようにしてしまったのは、いつも熱で寝込む魔夜にしてやって
いたからである。
「顔が赤くなっているし、今日はもう帰るよ。それじゃあね」
そう言って宗は部屋から出て行った。
「行っちゃった」
ボーっとした様子で宗が出て行ったドアを見つめる秋乃。
「あのー。まだ俺がいるんだけど」
自分の世界に入ってしまった秋乃に控えめに訴える浩太。
だが、結局聞いてくれず、存在を無視された浩太は泣く泣く宗を追いかけて帰った。
読んでくれて感謝です。
次は22日に投稿です。