第十回 クリスマスに追いつめられる父親
クリスマスに追いつめられる父親
天真のご指名で誰かと一緒に寝ることにはひと悶着ありはしたが、真麻に説教されてからは家以外では宗達の親バカは今のところは発動しなくなった。
現在、休み時間。
宗は今、学校で悩んでいた。
「あと一か月でクリスマス・・・」
そう。クリスマスだ。
宗はクリスマスにどうやって天真を楽しませようかと悩んでいた。
「パーティーは当然として、問題はプレゼントだ」
天真の欲しいものが全く分からない宗。
そもそも初めて会ってから半年も経っていないのだ。
この問題に悩むのも仕方のないことなのかもしれない。
「なんだなんだ、宗。もしかして好きな人でもできたのか?」
「それホント⁉」
浩太と秋乃が宗の悩んでいるところにやってきた。
ちなみに、秋乃は好きな人が自分かもしれないという根拠のない期待と、違うかもしれない、他の誰かかもしれないという不安の気持ちが混じった感じである。
「違うよ。まあ、家族にクリスマスプレゼントするんだけど、何がいいか悩んでいて」
「な~んだ、つまんねーの。お前と恋バナできるかもって期待したんだけどな」
浩太はブーブーつまんないと言っているが、その陰で秋乃が誰の目から見ても分かるくらいにホッとしていた。
「一体、どんなものをプレゼントしたら喜んでくれるのか分からなくて」
「まあ、お前は普段からもらってばっかりであげる側になったことはないからな」
まあ、宗が誰かにプレゼントなどあげたら勘違いする人も出てくるだろうし、大騒ぎになってしまうので仕方ないことだ。
「それで?誰にあげるの?私、真尾君の家族構成知らないから分からないけど、あ
る程度はアドバイスするわよ?」
「ありがと。でも、やっぱり自分だけで何とかしてみるよ」
天真のことを言うわけにはいかないのでこう言うしかない。
しかし、この言葉は宗の本音でもある。
(天真へのプレゼントは俺の気持ちが籠ってないとダメだしな‼)
「真尾君がそう言うならいいんだけど」
(せっかくプレゼント選びと称してデート出来ると思ったのに~!)
本音は隠せても表情が隠せていない秋乃。
その立ち位置から宗には見えていないが、浩太には丸見えであった。
「・・・」
「浩太、どうかした?」
何とも言えない表情をしている浩太。
「いや、何でもない」
「そうか?」
「それより気になったんだけど、宗の家族構成を教えてくれよ。今まで聞いたこと
なかったし」
「え?」
「それ、私も気になる。ねえ、教えてよ」
「う、うん」
浩太と秋乃、特に秋乃の迫力にたじろぎながら頷く宗。
魔界の王子を気圧すとは恋する乙女、恐るべしだ。
「父と母、それに妹が二人の五人家族だよ」
「へぇ~。妹さんは何歳なんだ?」
「小学六年と四年だよ」
「おお!今度紹介してくれよ。お前の妹ってことはかわいいんだろうし」
浩太と秋乃は中学からの友人なので宗の小学時代をあまり知らない。なので、妹
の魔夜を見たことがないのだ。
「悪いけど、そういうのはダメなんだよ。そういうの嫌いなんだよ、妹は」
「そっか。まあ、仕方ない。今度家にでも遊びに行かせてくれよ?全然放課後に一
緒に遊んでくれないんだから、お前」
「今は忙しいから難しいけど、落ち着いたら招待するよ」
「おう」
宗と浩太が男の友情を育んでいる。
「わ、私も!」
そこに秋乃が焦った様子で入ってきた。
「私も遊びに行かせて!」
「ああ。いいよ」
「やった!」
「じゃあ、俺はもう少しプレゼントについて考えるから」
「「分かった」」
浩太と秋乃は宗の邪魔をしないように離れた。
「ちょっと!本当に私のいない隙に家に行かないでよ!」
「あ、ああ。それは分かったけど、お前はもう少し表情隠せよ」
「え?」
「めちゃくちゃ表情に出てたぞ」
「そんな馬鹿な」
「ホントだって。そんなに信じられないなら他のみんなに聞いてみろよ」
「みんな、本当に?」
秋乃はその場でクラスメイトのみんなに聞いた。
『『『『『『『『うん』』』』』』』』
教室にいるクラスメイト全員が一斉に頷いた。
「ほらな?」
「そんな馬鹿な」
「それに、宗も教室にいるのにそんなことを大声で聞くなよ」
「あっ!」
焦って宗の方を向くと宗はまだ悩んでいるのか、秋乃の大声に気づいていない。
宗が気付いていないことにホッとする秋乃。
「簡単に言うと、もっと客観的に見てみろってことだ」
「う~~」
秋乃の苦悩は続く。
「気づいてなかったってことは、お前も宗と同じように鈍感だよな」
「うっさい!」
宗と同じと言われて嬉しいような、鈍感と言われて腹が立つような、複雑な心境の秋乃であった。
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次は25日投稿です。