魔を従える剣(つるぎ)
(...と、いうことで戦闘の説明を終わりますね!そろそろ下等悪魔や魔物が集まってくると思うので早速戦ってみましょうか!あ、今更ですが貴方のお名前は何ですか?名前が分からないと武器が出ませんよ?)
ジュリーから戦闘の説明を聞いた俺は静かに頷く。
魔人の身体能力のおかげなのかなんとなくだが周囲に何かの気配があるのがわかる。
少しずつだが近づいてくる。
俺は頭の中で武器をイメージする。
(俺の一番使いたい武器...槍...は違うな、剣...そうだ剣でいこう!名前は...)
「剣よ、創造主であるヴェルクの名において命令する。顕現せよ!”従魔の剣 オーバーロード”!」
俺が唱えると空中に黒い柄に蒼色に光る刃の剣が浮かんでいる。
俺はそれを掴むと軽く素振りをする。
羽のように軽く手に馴染む。まるで何年も使い込んできたような感覚だ。
素振りを続けているとまたジュリーが話してきた。
(なかなか活かした名前と武器ですねえ惚れちゃいそうです!と冗談はここまでにして武器の能力の確認方法を教えますね!武器を見つめて能力を教えてもらってください!もうすぐ敵が来ますよ!グッドラックですよー!)
まあ武器名で何となくわかるが一応確認するか。
(能力を教えろオーバーロード)
また頭の中に声が聞こえてきた。ジュリーとは別の声だ。
(了解しました、マイマスター。私の能力は従魔、言葉通り魔物を従える能力です。魔物を力ずく又は説得して従わせます。力ずくの場合だと従魔の力を全て発揮できないのです注意してください。従魔は剣の中に入れて飼うことができます。飼える数は無制限ですが召喚し共に戦えるのは三匹までです。そしてマスターは召喚する従魔以外の従魔の能力を一匹だけ使用できます。あと敵を斬ると名前がわかります。私の能力の説明は以上です)
淡々とした口調でオーバーロードは説明した。
今は従魔がいないから俺だけの力で戦うしかない。
そう思っていたらジュリーがまた話してきた。
(仕方ない、やってみるか)
剣から意識を外すといつの間にか周りに魔物や悪魔が集まってきていた。
俺がよほど美味そうなのか涎を垂らしている奴までいる。
魔物達の中に数匹だけ黒い狼のような魔物が混じっている。
集まっている奴らの中では一番強そうな見た目をしている。
(最初の従魔はあいつらのうちの一匹にするか)
俺が考えていたら猿のような魔物が飛びかかり手に持っている棍棒を振り回した。
見た目は小さいが皮がはち切れんばかりの筋肉をしているため食らえばただではすまないだろう。
だが俺には猿の動きがなぜか遅く見えた。おそらく魔人の身体能力だろう。
俺は冷静に棍棒を回避したあと猿の頭に剣を振り下ろした。
猿の頭がばっくり割れ一撃で沈黙した。
(識別、名前、デビルミュスクル、登録完了)
オーバーロードは事務的に言った。
俺はその後も特に危なげもなく魔物や悪魔をなぎ払っていった。
エルダーゴブリン、デッドトゥレント、ギガントゾンビ、レッサーデビル等の魔物を倒していった。
三匹の狼達はその様子を黙って見守っていた。怯えている様子はない。
「さて、やろうか!」
そう言うと二匹の狼が左右に走り出した。
取りかこんで隙を窺いながら戦うつもりだろう。
こいつらは強い、多分一斉に来たら負ける、まずは数を減らす!
俺は左右に散った狼達を無視し正面にいる狼に向かって走る。予想以上にスピードがありあっという間に狼に肉薄した。
「ガゥ?!」
狼も予想外だったのかびっくりしたような声を出した。構わず剣を横薙ぎに振るうと狼の体を真っ二つにした。
返り血で体が朱色に染まる。
振り返ると狼達はビクッとしたあと天高く咆哮をあげた。すると周りが突然闇の霧に包まれた。
こんな隠し玉あったのか?!
俺は慌てて剣を構え直して周りを警戒したが何も起こらない。
霧が晴れるとそこには先ほどの狼達よりふた回りは大きい狼が佇んでいた。
目は紅く輝き毛は漆黒の色をしている。
「お前がリーダーか、気に入った。お前を従魔にする」
リーダー狼は「ガウッ」と小さな声で鳴いた。すると二匹の狼は後ろに下がっていく。一対一で戦いたいらしい。
俺は足に力を込め一気に駆け出した。
「なっ!?」
駆け出した瞬間にはリーダー狼は俺の目の前にいた。
俺よりもスピードがはるかに早いようだ。リーダー狼はそのまま突進してきた。
面食らった俺はまともに突進を受け吹き飛ばされ魔物達の死骸に突っ込んだ。
「ガハッ!!」
強い。吹っ飛んでいる間に意識が飛んでた。
俺は素早く立ち上がる。
リーダー狼は余裕があるのかこちらをじっと見つめたまま動いていない。
フラフラする。ダメージが大きすぎるようだ。
やばいな...足が震えるし手に力が入らない。魔法とか使えねえかなあ...そうか?!魔法使えばいいんじゃん!魔人だし使えるよね?ていうかそれに賭けるしかなさそう...もう剣なんか振るえねえよ...。
呼吸を整えると頭の中で魔法をイメージする。
俺が使うなら...炎だな、そうだな...蒼炎だ。
イメージしていると俺が魔法を使うのを察したのかリーダー狼が巨大な顎を開けて走ってきた。
くっ!間に合え!!
「消滅の蒼炎≪イレーズブルーフレイム≫!!」
唱えた瞬間俺の目の前が蒼い炎に包まれた。
体が余計だるくなってきた。
頼む!倒れてくれ!もう何もできん...。
蒼色の炎はリーダー狼や魔物達の死骸ごと燃やしている。
しばらくすると炎が消えていった。
死骸は一つ残らず灰になっている。
よく見るとリーダー狼が倒れている。元々狼達は黒い毛皮のため分かりづらかった。
俺は満身創痍の体に鞭打ってリーダー狼に近づいていった。
リーダー狼は俺が近くによると少しだけ目を開けて俺を見た。
正直生きているのが信じられないがこれはチャンスだ。
「ゼェ...ゼェ...つ、強いなお前、よかったら俺の、仲間になってくれないか...?」
リーダー狼はふーっとゆっくり息を吐き出して目を閉じた。
ああ駄目か...まあ仲間を殺したもんな、仕方ないか。
諦めかけた時「ガウッ...」と小さな声でリーダー狼が鳴いた。その瞬間リーダー狼の体は光の粒子となって剣の中に吸収されていった。
お、おお?や、やった...のか?ようやく一匹目だ!
俺はその場に倒れこんでしまった。
焦げ臭い匂いが辺りに充満しているが俺の心はとても満足して寝てしまった。