★侵入者
太陽が昇り、カーテン越しに日の光が差し込む。
「……うっ」
眩しさでユリアは目を覚ます。窓の方を見て、太陽の光が差し込んでいることに気付く。
「あれ? 朝?」
ユリアは目を丸くする。そして自分の行動を振り返る。買い物をして、夕方くらいになった辺りで疲れて眠ってしまい、それから……クロードと話して……
「クロード?」
部屋の中を見渡すがクロードの姿はない。
「どこに……ん? 何か書いてある」
ユリアは机の上に書き置きを発見した。そこには綺麗な字でこう書かれていた。
『少し調べ物があるから出掛ける。明日……いやユリアにとっては今日かな? その夜までには帰る。外には出ない方がいい。心配しなくとも必ず帰ってくる。クロード』
間違えなくこれはクロードの字だ。
「どうして……何も言わずに行っちゃうの」
ユリアの目から涙がこぼれ落ちる。彼女はクロードの後を追おうと寝室を出て、広間に向かった。
広間に辿り着くと、そこには見知らぬ男性が一人。いや、一度だけ見たことがある。昨日、街でクロードとぶつかった人だ。
「えっ、誰」
ユリアは震えた声で言う。ユリアの存在に気付いた男性は彼女に近寄りながら、冷たい声で訊ねる。
「ここにいるんだろ、あのウォレスのヤツが」
逃げなければいけないと分かっているのに、ユリアは足がすくんで逃げられなかった。
「……知らない……ウォレスなんて知らない。ウォレスってなに」
かろうじてユリアはそう口にする。
ユリアの答えに男性は眉をひそめる。
「知らないだと? この国でウォレスを知らないヤツなんていない。それに、貴様はいったい何なんだ? その瞳は」
男性の周りに竜巻のようなものが起き、それはユリアに向かってきた。
「いや、いや、助けて……助けてよ」
そのあとに続いた「クロード」という声は竜巻の音によってかき消された。ユリアは恐怖のあまり目を閉じてしまった。竜巻による衝撃はいつまで経っても来ない。
「なっ、ウソだろ。俺の魔法が消えただと!? いや吸収されたのか!」
これ以上ここにいるのは危険だと感じた男性は慌てて屋敷を立ち去った。
「クロードが、守ってくれた……」
ユリアは自身の両腕に三つずつ付いたブレスレットを見る。そのうちの二つが光り輝いていた。魔力吸収の効果を持つこの二つのブレスレットが先ほどの竜巻を吸収したのだ。ブレスレットは役目を終えたとでもいうかのように光を失い、普通のブレスレットに戻った。
「もうあの人、来ないかな……」
襲われた恐怖で外に出る気力を失ったユリアは崩れ落ちるように膝をつき、床に座り込む。
ユリアは体の震えを抑えようときつく自分自身を抱き締める。それでも震えはなかなか止まらない。
「クロード……お願い、早く帰って来て。ひとりじゃ、怖いよ」
クロードのいない屋敷でただ一人、ユリアは恐怖と闘っていた。