★彼らの日常
イデアーレ国の辺境にある街、ズマーニャ。その街にある森の奥に、一軒の屋敷があった。
貴族の屋敷にしては小さく、庶民の家にしては大きすぎる屋敷。外装は質素ではあるが綺麗である。内装も外装同様、質素だが綺麗だ。飾らない素朴な美しさというのが良いかもしれない。
その屋敷の寝室には、天蓋つきのベッドが一つ。カーテンの内側には、二人が向かい合わせになって眠っていた。キングサイズのベッドは二人で寝ても十分余裕がある。
一人は赤い髪をした青年。全体的に細く綺麗な整った顔をしているが、体つきからして男で間違いないだろう。
もう一人は金色の髪の少女。小柄で、顔立ちは綺麗というよりは可愛らしいと言った方がよいだろう。
この二人に血のつながりはないが、兄妹のように仲が良い。
青年――クロードはカーテン越しに差し込まれる太陽の光の眩しさで目が覚める。開かれた瞳は碧い。起き上がると赤い髪がふわりと舞う。
「ユリア、起きて」
クロードは少女――ユリアをゆさゆさと揺らす。
「……クロード」
ユリアは眠そうに眼をこすりながら起き上がった。彼女の瞳は左右で色が違う。左はクロードと同じ蒼色、右は赤色だ。ユリアは数回目をぱちぱちさせて、意識を完全に覚醒させる。
「おはよう、クロード!」
ユリアはクロードに抱きつく。最初のころは驚いていたが、これはもはや朝の日課となっていて今では驚くこともない。
「おはよう」
クロードはユリアの背に腕を回す。一分くらい経つとユリアは満足してクロードから離れる。
着替えるためクロードはベッドから降り、クローゼットを開けて衣服を取り出す。ユリアの分はカーテンの隙間から差し出し、自分はその場で着替える。
クロードは白いワイシャツと黒いズボンというシンプルな服を身につける。そして、手に取った黒い紐で肩よりも長い赤髪を後頭部のあたりで結ぶ。
髪を結び終えると、窓の外に視線を移す。窓の外は、見える範囲では木しかない。この屋敷は森の奥にあるので、木しか見えなくて当然だが。
「クロード!」
ユリアの声を聞き、視線を窓から外す。ベッドから出てきたユリアは淡い水色のワンピースを着ている。
「今日は街の方に行ってみるか?」
「うん」
クロードの問いにユリアは元気よく返事をする。本当は外には極力出たくはないのだが彼女が喜ぶならまあ少しくらい良いかと思いながら、クロードはユリアの手を引いて寝室を出ていく。
彼らの一日が始まる。これからあんなことが起こるとは、このときクロードは思ってもいなかった。