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零の領域  作者: ziure
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第2話 迷いと決意

「強くなりたきゃ俺のところに来い、か……」


 思うのは先ほど出会った男のこと。

 飄々としていて、言動も物腰も怪しいところが多かった。

 だがあいつは、僕のことを一人の人間として、ちゃんとした人間として見ていたように思えた。

 他国の人間も自国の人間も統一してこの国に来ると僕みたいな奴は惨めな目で見られる。

 生まれ持った才能がものをいう国。

 この世界でのこの国の認識はそんな感じだ。

 一定のラインを超えていないものはすぐさまひどい仕打ちを受ける。

 それを受け入れるのが当たり前で、やる者もやられる者も通じてそういう風に思っている。

 ただやられることを受け入れられたからと言って、上に立っている奴らに屈服する事まで受け入れられるわけではない。

 ムカつくことはムカつくし反抗もしてやりたい。

 だが僕には反抗するための力はない。

 奴らの攻撃を受け止めることはできても、やり返すことができないのだ。

 すべては自身の呪うべき才能の無さが原因。

 魔法を使うための領域が〇だから。

 

「くそっ」


 そして繰り返されるのはあの男の言葉。さらにそのときの眼。

 図星と言えば図星だった。

 いくらあいつらが束になって攻撃してきたところで今の僕ならダメージを負うことはない。

 その事実が、僕の心の中での優位性となってなんとかやってこれたことも確かだ。


「強くなりたい」


 もう何度呟いたか分からない言葉。心の奥底から沸き上がる想い。

 きっとあの紙をもって念じればあの男が来るのだろう。


 チラリとその紙に目が行くがどうしても迷ってしまう。

 まず第一にあいつが言っていることが本当だとは限らない。

 そしてそれが本当だとしても、僕の隣ですやすやと眠っているこいつ――フェリア=フェアリーまで連れて行ってくれる保証がないということだ。


「そんなのは……たぶん言い訳だな」


 ただ僕自身怖がっている節があるのだろう。

 あいつの見透かすような眼や得体の知らない感じを。

 

 あいつの得体の知れなさを恐れて逃げるか、それとも普通とは違うということだけで信じるか。


「……どうしたの?」

「……起こしちゃったか」


 独り言がさすがにうるさかったのかフェリアが起きてしまったようだ。

 ちょっと申し訳ない気分になりながらもどこかホッとしている自分がいることに気付く。

 きっと彼女の存在は僕にとって大切なものに変わってきているのだろう。


「もしもさ、僕が近いうちにどこか別のところに行くって言ったらどうする?」

「……? どこに行くの?」

「まだ良く分かんない。遠くかもしれないし近くかもしれない」

「そっか。なら旅立つ準備をしなきゃだね」


 ……どうやら彼女の脳内では一緒に行くことは前もって決まっているようだった。

 

「あのな」

「行くよ、私は。私だって強くなりたいもん」

 

 さすがに口をポカンと開けて唖然としてしまった。


「お前、寝たふりしてたのかよ」

「……うとうとしてたら、延々と独り言が聞こえてくるんだもん」


 正直に言わなくてもめちゃくちゃ恥ずかしかった。

 たぶん、今自分の顔を見たらきっと真っ赤になってしまっているのだろう。

 ありがたいことに時間帯が夜ということもあり、たぶんそこまで見えてはいないはずであるが。


「だから、私も行くよ」


 僕がそんな風に先ほどまでの独り言を悔いていると、有無を言わせない、決意が込められた言葉がフェリアから投げかけられる。


「別に俺としては構わんよ」

「「っっ!!」」


 いつ、どのタイミングで現れたのか、窓枠の端に背中を預け座る男が一人そこにはいた。

 見間違いようもない、あの時の男である。

 あまりにも突然現れたので、反射的に寝転がっているフェリアとの間に入り、いつでも攻撃が来ていいように身構える。


「あれ? 呼ばれたと思ったから来たんだけど……お呼びじゃなかった?」


 僕の行動とは対照的に、男は相変わらず飄々としていて、おっかしいなーとばかりに呟き、僕らの行動を見極めようとしていた。


「あんたを呼んだつもりは確かになかった。けどさっき言ったことは本当か?」

「さっき言ったこと? ああ、そこの彼女を連れて行ってもいいかどうかってこと? それなら構わんよ」

「僕だけじゃなくていいのか?」

「別に構わんよ。俺が実際に視てみて使えそうなら何人だろうと構わんさ。むしろそういう人材は多いに越したことはないしね。ああ、ちなみにもう一人俺のところに来るからそこんとこよろしくね。ちなみに女の子、かっこ、かわいい」


 何を思い出しているのかニマーっとした表情でうんうんと頷く目の前の男。

 はっきり言って気味が悪くてしょうがない。

 

 それはそれとして。

 フェリアも連れて行っていいんだったら、僕としては迷う必要はないのかもしれない。

 フェリアに視線を送れば、うんと小さく頷いてくれる。


「それなら、僕らも連れて行ってくれ」

「りょーかい、りょーかい。そういうことなら今日はもう遅いし寝な。準備とかあるだろうし、明日の朝に迎えに来るから」


 それじゃあなとそれだけを言い残して、男はどこかへ消えていった。


「これでよかったのか?」

「いいと思おうよ。このまま何もしなかったらきっと私たちは使うだけ使われる存在になっちゃうんだから。それなら博打でも何でもいいから、ここから連れ去られたほうがいくらかましな気がするもん」

「フェリアがそういうなら本当にもう迷う必要はないか」

 

 こういう風にやってると、改めてフェリアのほうが意志が強いなって思わされる。

 僕はどうしても迷ってしまうから。


「それじゃ、明日に備えてもう寝ようか」

「うん、おやすみ、レイ」

「おやすみ、フェリア」


 そうして今日という一日は終わりを告げた。



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