第11話 学園
特に何が起こることもなく、無事に目的地である魔法学園に辿り着き、僕たち三人は馬車から降りる。
「相変わらず、ここはでかいわね」
メイリスが目の前にある建造物を見上げながら、そう言葉をこぼした。
その表情は、何を思っているのか読めない。
少なからず良い感情は抱いていないように思える。
この学園が大きいのは当然のこと。
ここは国の首都であり、その首都で一番大きな魔法学園なのだから。
魔法大国である国の一番大きな魔法学園。
ここのトップはすなわち、同年代であれば国で一番強い魔法使いと言っても過言ではない。
「とりあえず、中に入ろっか」
僕の言葉に、二人は小さく頷き同意を示してくれる。
そうして一歩を踏み出し、この学園――セリスティア学園の門をくぐった。
☆ ☆ ☆
「うわぁ、中も外見に違わずすごいね!」
文字通り目をキラキラさせながら、フェリアは学園内の物を見まわしていた。
「まさしく、お金をかけてますって感じね」
対照的にメイリスは冷めた感情を見せていた。
そういう風になるのも分からなくはない。
なにせ、この国にとって使えない者たち、つまりは才能のない者たちのお金を、税などによって搾り取るようにして生まれたと言っても過言ではないのだから。
メイリスの家事情はきちんと聴いたことはないが、この様子を見ると、才能が認められた血縁ではない家庭の出なのかもしれない。
「ここみたいだ」
そうして立ち止まったのは学園長室と書かれた札が扉の上に掲げられているところだ。
二人の様子を窺うようにして顔を見合わせた後、どちらも頷いたことを確認して、扉に向かい合いゆっくりと二回扉を叩く。
コンコン、という小気味の良い音が響き、中から「どうぞ」と声がかかった。
「「「失礼します」」」
扉を開け、無礼にならないよう一礼し中に入る。
そこには整った顔立ちで優しげな笑みが印象的な男の人が机越しに座っていた。
「いらっしゃい、待ってたよ。僕はここで学園長をしているユーキっていいます。話は既に手紙をもらってるから大丈夫だよ。この学園に入りたいんだって? 全く以て問題ないよ。それじゃあさっそく、学園の案内でもしようか」
こちら側から言葉を挟める余裕など全くなくて、伝えることを伝えたとばかりに目の前の男――ユーキさんは立ち上がり僕らの横を通り過ぎると、自室の扉に手をかける。
「ん、どうかした?」
扉を開けたままの姿勢で、急なことに目を白黒させている僕らに対して、ユーキさんは問いかける。
「いや、なんでもないです」
その問いかけにハッとして、出来るだけ何事もなかったかのようにそう応えるのが精一杯だった。
きっとこういう性分なんだろうなと思いこみながら、僕らは学園長室を後にして、ユーキさんの後ろについていく。
「いやー、それにしても遠くからわざわざこの学園に来てくれるなんて感激ものだな。昔はそうでもなかったのに気付けば大きくなって、この国で一番有名な学園にまでなったからね」
歩き始めてすぐに、ユーキさんはすぐに口を開き始めた。
会ってすぐにこういう判断をするのは良くないかもしれないが、あまり学園長なんていう堅い役職は向いてないんじゃないかと思ってしまう。
まあ、こっちとしては沈黙で気まずい時間を過ごさなくて済むという点に関してはありがたい。こういう感じの話は聞き流しても問題ないし。
「優秀な生徒が増えるのは僕としてもとっても嬉しいんだよ」
ただそのワードに関してはつい反応してしまった。
ライザーがどういう風にこの人に宛てて手紙を書いたのかは知らないが、この国にとって普通の評価をするならば僕たちは優秀な生徒には当てはまらないはずだ。
「あの――」
「――やっぱりこのワードに反応したね。手紙に書いてある通りである意味安心したよ」
その意味を聞こうと思って問いかけようとすると、ユーキさんは待ってましたとばかりに、僕の言葉を遮った。
「自分たち自身で分かってると思うけど、この国での普通の評価を下すなら、君たちは相当低い評価を与えられるだろうね。普通ならいじめを受けてもおかしくないレベルの評価だろうし、ましてや優秀な生徒って言われるなんてありえない」
才能主義。
才能のみを見て、才能のあるもののみの育成に力を入れ、例外の評価は認めない。
それに基づくならば、言われた通り僕たちの評価は相当低いものになってしまうだろう。
魔法学園に入学することなんてできないくらいの評価に。
「だけどさっき言った通り、読ませてもらった手紙の事実が本当なら、この学園における君たちは優秀な生徒の部類に入る。僕が設立したこの学園はまさしく実力主義を掲げてるからね」
その言葉に驚きを隠せなかった。
同時に、ライザーが言っていた一番強い奴を倒して来いというものに当てはまることも理解することができた。
「まあそんな感じな訳で、学園に入ること自体は問題ないんだ。例えその時点で力がなくても、強くなる志があるなら僕が通すから」
「でも」と続けて、ユーキさんは歩んでいた脚を止めると、こちらを振り返る。
「手紙を見たり、直接君たちのことを視るだけじゃ、本当の君たちの力が分からない。だから今持ってる現状の力を見せてもらいたいんだ」
その先に視線を向ければ、多少どうこうしたりする分には問題なさそうな場所がそこには広がっていた。
「ここはこの学園で魔法の演習をしたり、実戦的な戦闘をしたりするときに使う場所の一つなんだ。ちょっと汚れたりするかもだけど、今から実力見せてもらっても構わないかな?」
つまりはここで力を見せろということ。
「僕は構わないけど……」
「私も別に問題ないわよ?」
「問題ないよー」
僕ら三人の意向を受け取ったユーキさんは、よしと頷くと広場の真ん中へと歩き出した。