第10話 出発
あの日――ライザーから呼ばれてから七年の月日が経った。
当時、全員が七歳だった僕たちは、これで十四歳になったということである。
「なんかわくわくするねー」
「フェリアは相変わらず気楽なものね。私の方はプレッシャーを感じてるというのに」
僕、フェリア、メイリスの三人は馬車に揺られながら帰国していた。
ただただ帰国するだけなら、メイリスがプレッシャーなど感じるはずがない。
「今までも何回か変な課題はあったけど、まさかこんな課題を課せられるとは思いもしないよな……」
問題はライザーから課せられた『それ』が原因だった。
☆ ☆ ☆
「はい、お前ら聞けー」
いつものように唐突に現れ、いつものように気怠げな様子で、ライザーは僕らに声をかけてきた。
僕らはその声にまたかといった感じで、それでもちゃんと耳を傾ける。
こんな風に声をかけてくるときは大抵何かしら課題を課せられるからだ。
最初に課題が与えられたのはここに来て三年位経った時だ。
その時の課題は、ここの外に出てギルドという仕事受け入れ場みたいなところに行って、依頼を受けてこいというものだった。
僕ら以外の人ともちゃんと話せるようにしておかないと困るからなと、引きこもり気味のライザーにそんな風に言われて、微妙な空気になってしまったのは今でも覚えている。
そんな感じで課題を唐突に課せられること四年。僕たちの中で慣れると同時に、またかという雰囲気が漂ってしまうのも仕方のないことだろう。
「それで今回は何をさせられるんだ?」
「そんな刺々しい言い返しするなよ。これでもいろいろ考えてお前らに物事をやらせてるんだからな」
「やらせてる、って時点で私たちがこうなるのも無理ないでしょ……」
「ま、お前らがどう思おうが俺としては関係ないからどうでもいいんだけどな」
まあ、確かにライザーの課す課題は僕らのためになっていたし、メイリスもそれが解ってるからそこまで強くは言っていない。だから、ライザーも特に気にした様子を見せることなく、ぶっきらぼうにそんな言い返しができるのだろう。
「それで、一体私たちは何をすればいいんですか?」
おずおずといった感じで話の筋を戻すフェリア。
「今回は長期的に活動してもらうことになる。やることは魔法学園に行って、そこでトップを取って来いってところだな。成績的にというよりは魔法使いの強さ的に」
魔法学園か。それが意味することって、
「それってあの国にまた戻るってことか?」
「まあ、そういうことになるな。と、そんな気負わなくても大丈夫だぞ? ただ単に歳の近い学園のトップをサラッとぶっ飛ばしてくればいい」
長期的に活動することになりそうな事なのに、サラッと倒してくればいいって言ってくるってなんか矛盾してる気がするんだが。
「ただ学園のトップを倒すだけなら別に長期じゃなくてもできる気がするのだけど」
同じポイントが気になったのか、メイリスがライザーに向けてそこのところを聞いてくれる。
「あー。確かに個人的に倒すだけなら、多分現地ついて一日でも行けるかもな」
いろいろと含みのある言い方だったので、どういうこと? とばかりに三者同様に首を傾げて続きを促す。
「その学園のシステム的な問題だ。詳しくはあっちに着いて、現地の奴に聞いた方がいいだろう」
ライザーは説明がめんどくさくなったのか、そこあたりは適当に流されてしまった。
「とりあえず入学の準備とか手続きとかはほとんど済んでるから、お前らは長期的に生活していくうえで必要そうなものを適当に見繕っておけ。三日後にはここを出発してもらうからな」
勝手に決められてしまい、手続き等も勝手にされているのはいつものこと。
みんなそれぞれ仕方がないとばかりに返事を返すのだった。
☆ ☆ ☆
事の経緯としてこんな感じである。
なんともいい加減な感じではあるが、これはこれでいつも通りのことでもあるので慣れたと言えば慣れた。
「はぁ……」
だからと言って、何も思うところがないっていうことはないので、ため息くらいは零しても仕方ないと思ってほしい。
「そんな風に何回もため息なんてついてないで、少しはどうやったら効率よくこの課題をこなせるか考えなさいよ」
「効率を考えるのは学園について、説明を聞いてからの方がいいでしょ。ライザーが言ったことを含めて考えるならね。あのライザーがわざわざ説明を省くっていうのはそう言うことなんだろ」
「うっ。それを言われると何も言えないわね……」
僕の言い分に納得してくれたようで何より。ため息が何回も出るのは、いきなり課題を押し付けられたことも確かに含まれているが、今言ったようにライザーがわざわざ説明を省いた理由を考えているからだ。
あれは説明するのが面倒くさいという理由も確かに含まれているだろうが、僕たちが反発する可能性が大であり、それを聞くのも面倒くさいと思ったからだと予測している。
つまりは、僕たちが反発するようなことをしてこい、ということだ
再び、ため息をついてしまっていると、横からちょんちょんと肩を叩かれる。
そっちを向けばフェリアの顔が目の前に迫ってきていて驚くが、耳を貸してと言われれば素直に聞くしかない。
「メイリスちゃんはそんな風にため息ついてるレイのことを見てられないだけだよ。そういうことに関してはメイリスちゃん不器用だから」
言われてみれば、僕はこの馬車に乗ってからずっとため息ばかりついているかもしれない。
自分の前にいるメイリスを見れば、むーっとした表情を見せている。
確かに、ずっとため息をついている奴と同じ馬車に乗り続けるなんて、普通に嫌だよな。
フェリアの方をもう一度向けば、メイリスちゃんももっと素直に言えばいいのに、とでも言いたそうにくすりと笑みを浮かべる。
それを見て、今までの僕の行動自体を責めてこないことに申し訳なさを感じながらも、フェリアに笑みを返した。
「なによ、そんな風に二人で笑いあって」
「なんでもないよ」
さっきよりも気が楽になった僕は、馬車に揺られながら流れゆく景色に目を向けた。