自分と答え合わせ
それから彼女の新しい家族が迎えに来るまで、僕たちは一言も喋らなかった。ただ恥ずかしかっただけかもしれないのだけど、でも、僕たちはどうせ文通をするのだし、特に別れの言葉は必要なかったのだ。
歌歩が施設を出ていって一日経った頃、早速手紙が僕の元へ届いた。手紙にはこう書かれていた。
「早速書いてみました。手紙を書くのは初めてなので、少し緊張します。私たちはお互いのことを知らなければ文通を続けていくのは難しいと思うので、まず自己紹介をしましょう」
この後も文は続いていた。血液型はB型、誕生日は7月の15日、趣味は音楽を聴くこと、読書、などなど。とにかく歌歩という人間の紹介がつらつらと書かれていた。僕はゆっくりと時間をかけてそれを読んだ。
「こんにちは。僕も手紙を書くのは初めてで何を書いていいのかわかりません。なので歌歩と同じように自己紹介をしようと思います。つまらないかもしれないけど、それはごめんね」
僕も同じように書いた。血液型、誕生日、趣味。僕も音楽を聴くこと、読書は大好きだった。気が合うかもしれないな、と考えた僕は間違っていなかった。文通をしていくに連れ、僕と歌歩には共通点がいくつもあった。
「この間もテレビでやっていたのですが、最近の若者はこういった手紙を書かずにメールで済ましてしまうそうです。なんだか寂しいですね」
「僕もそのテレビを見ました。やはり書くのは面倒くさいのだと思います。メールならすぐに届くし切手みたいなのもいらない。だからメールは便利なのですね。僕もたまに使いますが、あなたとのやりとりの方が楽しいです」
「嬉しいことを言ってくれますね、ありがとう。私も、陸玖くんとのこの手紙のやりとりは楽しいです。来週から私は旅行に行くので手紙は返せません。代わりに、帰ってきたらお土産と一緒に手紙を送ります。楽しみにしていてね」
等々。僕たちは至極真面目に手紙を交わしあった。内容は世間話であったり、自分の身の回りのことだったり、と違えど僕たちは考え方が似ていた。まるで生き別れた双子のように一致したのだ。これには僕も、歌歩も驚いた。
「まるで、自分と答え合わせをしているようですね」
歌歩はそのことをこう例えた。これは、僕にもしっくりくる表現だった。自分と答え合わせ、その通りだった。