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不眠欲  作者: 柚檸檬2号
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「諒くん、大丈夫?」「は、はい!大丈夫です!!」

俺が歌の練習に熱中していると、外から日差しが入ってきて、小鳥たちがさえずる。

「もう、朝か。今日はやけに早く感じたな。」

俺の気が引き締まってきたからなのか、練習時間が短く感じる。『時間が足りない』なんて言い訳が出来ない俺はその重圧プレッシャーもあるのかもしれない。そんなことを考えながら時計を見ると5時30分を少し過ぎていた。

「飯でも作るか?」

「今日は私が作りましょうか?」

なんで朝っぱらがお前の顔を拝まなきゃいけねーんだよ。

「それは私が観察者で貴方が被験者だからですよ?」

毎回思うけどお前は何を観察していて、お前はなんのデータが欲しんだよ。なんでもできる悪魔には何も必要はないだろう?

「そんなことはありませんよ。悪魔も人間同様に知識欲はつきませんから。そして、実験内容を言ってしまったら実験の意味がないでしょ?」

コノヤロー、ニコニコしやがって・・・、まあ、メシに関しては作ってもらおうかな。

「分かりました。えい!」

あっ!久々すぎてコイツのメシの作り方がとてもあっけないことを忘れてた。

その時、凪颯が部屋から出てきた。

「水でもいるか?」

俺はコップに水をいれて差し出した。

「ありがとう。」

凪颯はそのコップを両手で受け取って一口飲んだ。

「ご飯もあるから食っちゃえ。すぐに第8支店に戻るだろ?」

「ううん。今日も第5支店で仕事しなきゃ。言ってなかったけど、資料をある程度まとめて第8支店に持っていかないと・・・。」

「じゃあ、俺も手伝おうか?一人だと日が暮れちゃうだろ。」

「うん、時間があったらでいいから。」

「なら、飯を食ってさっさと行くぞ。混んでる電車は嫌いなんだ。」

そう言って、俺と凪颯はご飯を食った。

『―----カエッ――――テ――キテ――』

俺はその時アイツとは違う声を聞いた。

「凪颯、今何か言ったか?」

「何も言ってないけど?」

「そうか、じゃあただの空耳か。」

俺はその時はぐらかしたが、明らかに空耳ではないのは確かだった。

ご飯を食べてから俺はいつも通りスーツを着た。

「ねえ翔。ワイシャツって余りある?」

「余り?俺のサイズで大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫。」

そう言って凪颯は服を着て出てきたが袖をまくっていた。

「じゃあ、行くぞ。」

俺が最初に靴を履いて、少ししてから凪颯が出てきた。俺が前を歩いていると不意に右手を掴んできた。

「なんだよ!」

「いいじゃん!小学校のときはいっつもこうして登校してたんだから。」

「もう、お前だっていい大人だろ!昨日と言い、今日と言い、昔のことを・・・。」

「昨日、私昔のこと話したっけ?」

「はぁ?覚えてねーの?なんか小3の時におんぶしてもらったのなんのって・・・。」

その瞬間、凪颯の顔が赤くなった。

「わ、私その後なんか言った?」

「別に何も言ってねーけど、何か困ることでもあんのか?」

「う、ううん。特にないよ。」

流石に今の反応は心理学をやっていない俺でも分かるわ。

その後も凪颯は手を離さなかった。たまに見るご近所さんの視線が少し怖い。俺は平然と挨拶するけどご近所さんはいつもよりも笑顔で返してくる。なんとか、駅まで着いたがそれでも俺の手を離さない。

「いつになったら離すんだ?」

「じゃあ、いつまでに離して欲しい?」

凪颯は笑顔で俺に尋ねてきた。

「・・・お前の好きなようにしろ。」

そう言うと凪颯はさっきより少しだけ強く握り締めた。

電車に乗っても手は離さなかった。電車に人がほとんど乗ってなくて助かったわ。

「翔は今でも女性には敬語なの?」

「唐突だな。まあ、そうだけど・・・。」

「そっか。」

「何なんだよ。そんなこと急に確認して。」

「特に深い意味はないよ。」

凪颯はそう言いながら外の風景を見た。

「確か、こんな時期だったよね?桜の木が緑で覆われてきてたのを覚えてる。」

「何が?」

「Song star、オーディションだよ。」

「あ、ああそうだな。もう3年前か。懐かしいわ。」

その瞬間、凪颯は俺の顔を見た。

「・・・佐和田 翔、正直に言いなさい!」

「はぁ?なんのことだよ。」

「出るんでしょ?オーディション。」

「な、なんで知ってんだよ!。このことは鹿野先輩と梨紗さん以外は知らねーハズなのに。」

「あっ、その驚き方は本当ってことなんだ。」

しまった。俺としたことがカマをかけられるなんて・・・

「うわっ、失礼ながらダサいですよ。」

うるせー、知られたところで・・・

「今回のオーディション、見に行くから。」

「はぁ?」

「見に行くの!折角、またオーディション受けるんだし、見たいじゃん。」

「仕事は?」

「日曜でしょ?基本的にはないから大丈夫。」

「マジか~、なんで今回こんなに人が来るんだ。」

俺は思わず上を向いた。その瞬間右手を引っ張られた。

「ほら、翔。降りるよ。」

「わーかってるよ。」

凪颯と俺は結局、会社に着くまで手を繋いだままだった。

「仕事やるんだからもう手を離せよ。」

「はーい。」

凪颯は手を離した。そして、二人で資料の仕分けを始めた。



「凪颯。8時になったから一回顔出してくるから。」

「分かった。」

俺は第2資料室から出た。

『モ―――モドリ――タイ。』

またか。何なんだこの声は、全く聞いた覚えがない。今回は周りを見回して確認したが誰もいなかった。

俺がいつもの部屋に入ると鹿野先輩が作業をしていた。

「鹿野先輩、なんでわざわざこんな早く来るんですか?独り身ならともかく、葉菜さんやお子さんはいいんですか?」

「ん?佐和田、勘違いしていないか?うちにはまだ子供はいないぞ。」

「えっ、確か・・・。」

あれ?確かに子供はいたはずなんだけど、名前とか顔が思い出せない。見たような記憶はあるんだけどな。

「あっ、鹿野って言っても、うちの親戚でした。」

「だろーな。まあ、もうそろそろ欲しいけどな。」

鹿野先輩は笑顔で答えた。

「それよりも今日は飲み会だぞ。楽しみだな~。」

「そうですね。なんだかんだ言って第5支店の多くの人で飲み会って初ですよね?」

「そうだな。今までそんな暇がなかったからな。」

その時、

第2資料室から大きな物音がした。

「今の音、デカかったなー。」

俺はその言葉を聞いてハッとした。

「なっ、凪颯!」

そっからは全力ダッシュをした。幸い、早い時間帯だったから人は全くいなかった。

息を切らしながら勢いよく扉を開けると、棚が5、6個倒れていた。ちょうど最後に凪颯が整理しているのを見たところだった。

「凪颯!大丈夫か!?返事をしろッ!」

俺は一心不乱に棚を退けようとしたが、思った以上に重くて動かない。

「クソッ、なんで動かねーんだよ!」

その時、俺を呼ぶ声がした。振り返ると凪颯がいた。

「そんなのを一人で起こすことなんて無理でしょ。」

「な、なんだよ~。てっきり、下敷きになったのかと思ったじゃねーか。」

俺は腰が抜け、その場に座り込んだ。

「翔、大丈夫?」

「大丈夫だよ。俺はお前程弱くねーよ。」

「何それー?まるで私が弱虫みたいな感じじゃん。」

「間違ってはいねーだろ。」

俺はズボンのホコリを払いながら立った。

「じゃあ、俺はまた行くから。気をつけて仕事しろよ。」

第2資料室を出ようとしたその時

「・・・翔!」

「どうした?」

「ありがと・・・、心配してくれて。」

凪颯は下を向きながら、小さな声で言った。

「お前みたいなやつ、ほっておけねーよ。」

そう言って今度は第2資料室から出た。その時、アクアが俺の左に現れた。

「まだまだそう言う事、言えるんですね。」

当たり前だろ。アイツが1人になった時は俺が知らないか心配する時のどっちかしかねーからな。

「仲がいいですねー。それよりも仕事に戻りましょう。みんながもう来てましたよ。」

俺は急いで職場に戻った。



俺は仕事が午前に終わり、最近は第4支店用のソフトを作っている。意外とソフト作りって細かいから時間がかかる。まあ、時間は沢山あるんだけど。

「佐和田先輩、俺の作った資料の確認をお願いします。」

俺は制作作業を一旦止める。今回の資料あるな~。

「確認するから少し待ってて。終わり次第報告します。」

「分かりました。」

そう言って勢いよく振り返った。すると、梨奈さんとぶつかり、紙の資料が宙を舞った。

「いったーい!」

梨奈さんは尻もちをついた。

「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」

「うん。一応ね。諒君、これからは気をつけるんだよ。」

そう言って、梨奈さんは鎌田かまた りょうの差し出した手を借りて立ち上がった。

周りの人達で資料を拾い始めた。その時、諒が口を開いた。

「でも、梨奈先輩、名前で呼ぶのは止めてくれませんか?」

「諒君だって私のことを名前で呼んでるじゃん?」

「それは・・・。」

「梨奈、それ以上からかっちゃ駄目だよ。諒くんが困っちゃってるじゃん。」

「いいじゃん。私、諒君の困ってる顔キライじゃないよ。」

満面の笑みで梨奈さんが言った。Sなんだな。いや、ドSだ。俺はそう確信した。

「諒くん、困った事があったらいつでも相談してね。」

「分かりました。」

諒は一年目の新人でとても勢いがとてもあるんだけどなー。言い換えれば落ち着きがないんだよ。ただ嫌いなタイプではない。勿論、嫌いなタイプは神田みたいな人、邦明さんじゃない方の。

資料を拾い終わって各自が席に戻った。俺は資料の確認をし始めた。でも、諒は仕事は一番覚えるのが早かった。俺が教え始めてから確実にトップクラスになった。

『デキ―――マシタ――センパ――――――イ』

まただよ。なんかの病気か?何にしても気持ち悪い。明日病院に行こうかな?

「そんなことはないと思いますよ?」

そうだよな、どうせお前の仕業に決まってるもんな。

「なんでもかんでも僕を疑うのは止めてください。」

非科学的なことは全てお前の仕業だろ?

「そりゃ、いきなりモノが出てきたり、未来予知などはまだ分かります。しかし、幻聴はまだ科学的でしょ?」

じゃあ、一体何なんだよ。

「分かりかねます。さっきも言いましたけど、まだ、悪魔も全知全能じゃありませんから。」

そう言ってアクアが消えていった。アクアとの会話中にも資料を見ていたから確認作業も終盤だった。特にミスはなかったな。本当に落ち着きさえあれば完璧だったのに・・・。まあ、欠点がない人間も怖くて堪ったもんじゃないけどな。

「諒、特に問題ないからこのまま受け取るよ。」

「ありがとうございます!」

そのまま次の仕事に入った。本当にアグレッシブで助かる。俺には余りないものだから冷たい職場にならなくて済む。

「おーい、佐和田。ここに入れる資料は第2資料室か?」

「確かそうです。鹿野先輩すみません。一番面倒なことを任せてしまって・・・。」

「大丈夫、大丈夫。結局は誰かがこの仕事をやらないと作業が遅れちまうからな。」

「ありがとうございます。僕もソフトが完成次第そっちに移ります。」

「まあ、そっちはそっちでゆっくりやってくれ。第4支店は今も大変だろうから。」

俺はソフト制作を再開した。完成までは一週間はかかりそうだった。



梨奈さんが俺に声をかけてきた。

「佐和田さん。今日のところはこの辺にしてそろそろ行きましょう?」

ふと俺が顔を上げるとみんなが行く準備をしていた。

「行くぞ、佐和田。」

「分かりました。」

俺の身支度が終わったとき、凪颯がいることを思い出した。

「そういえば凪颯は・・・。」

「一緒に行くよ!」

凪颯が部屋に入ってきて言った。

「折角なので誘っておきました。多い方が盛り上がりますし。」

「俺は大丈夫だけど、お前は二日連続で大丈夫なのか?」

実際、俺は三日連続だった。酒とかには意外と強いんだよなー。

「大丈夫だよ!早く行こう!」

そう言って凪颯は俺の手を掴んだ。

「ちょ、お前はいいかもしれねーけど、みんなの前なんだからやめろって!」

「凪颯ちゃんとぐらいはいいじゃねーか、佐和田。元々、お前はあまり女性と接しないんだから。」

鹿野先輩、そこは俺をフォローして欲しかった。

「そうだよ!もしかして翔、照れてるの?」

「んなわけあるか!」

「じゃあ、いいでしょ?」

「潮海さんと佐和田さんって仲いいんですね。そのまま、ゴールインなんて・・・。」

「梨奈さん、それはありませんから。」

「でもお似合いだと思いますけどね?」

その時、凪颯は俺の手を離した。

「そうだね。みんなの前だから今日は止めておこうか。」

「お、おう。分かってくれればいいよ。」

ふう、助かった。梨奈さんに言及される事はないだろう。

「じゃあ、行きましょうか。駅の近くにあるところの居酒屋です。」

俺たちは居酒屋に向かった。

「佐和田先輩って飲み会とか来るんですね。」

話しかけてきたのは諒だった。

「てっきり僕は『僕はそういうのはパスです。』とか言うのかと思っていました。」

「諒から見て俺はどう見えるんだよ。」

「うおっ!敬語以外も使えるんですね。まあ、そうですね。一言で言ってしまえば『the 仕事人間』かと思っていました。」

「ほう。」

「でも、本当はみんなの事を見ていて自己表現が後回しになっているのかなと・・・。」

なんだ。落ち着きがないだけじゃないんだな。俺は諒の事をを見くびっていたのかもしれない。

「って思っただけです。全て勘です!」

前言撤回。やっぱり、そそっかしいわ。ただ、本当に勘だとすれば鋭すぎる。

そして、諒が小声で聞いてきた。

「実際、先輩と潮海先輩ってどんな関係ですか?」

「ただの幼馴染だよ。」

「そうですか。僕にはそう見えませんでした。」

「なら、どう見えたんだよ。」

「恋人かと・・・。」

「勘か?」

「勘です!確信があったら先輩には聞きませんよ。」

「諒くん、佐和田さん、何の話をしてるんですか?」

後ろから梨紗さんが声をかけてきた。

「あ、梨紗先輩。梨紗先輩は佐和田先輩と潮海先輩の関係について話してたところです。」

「確かに仲はいいですよね。でも、佐和田さんが『ただの幼馴染』って言うのであれば、そうでいいんじゃないかな?」

やっと、俺をフォローしてくれる人が出てきた。

「う~ん、それもそうですね。」

「諒くんは好きな人いないの?」

「ぼ、僕ですか!?僕は・・・。」

諒の顔がみるみる赤くなっていく。いるんだな。少し反撃するか。

「まさか、仕事場にはいないよな。」

これで動揺したら、この後とても面白くなるけどな~。

「そ、それは・・・。」

ピュアだな~。そう思っている瞬間、諒の足元がふらついた。その先は梨紗さんだった。

「諒くん、大丈夫?」

諒は梨紗さんに支えられていた。

「ん、は、はい!だ、大丈夫です!」

諒は少し蹌踉よろめきながらもひとりで立った。

「みんなー!着きましたよー!ここが会場の『汝恋なこい』でーす!」

俺たちは店の中に入ると、誰もいなかった。

「梨奈さん。今日は他のお客さんはいないんですか?」

「今日は貸切にしました。折角の初第5支店会ですからね。奮発しました。」

「割り勘なんだから奮発って事でもないでしょ?」

鹿野先輩はすかさずにツッコミをいれた。ん?汝恋には確かアイツがいたはず・・・。

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