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不眠欲  作者: 柚檸檬2号
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「忘れてしまうんですかね?」「さあ、分かりませんね。」「そうですよね。ここでも思い出はたくさんあったので・・・」

アクアが用意したカセットテープからは少しノイズが聞こえてくる。その後から二人の声が聞こえてくる。

『このカセットテープ、本当に壊れていないんすよね。先輩の機械はいつもオンボロだから心配ですよ。』

『僕もそこに関しては否定できないんでね。なんとも言えないんですが、これでも最良の処置だと僕は思っていますよ?別にこんな処置はしなくてもいいんです。あなたがどうしてもしたいって言うからやったんですけどね~。』

『ああー!すみませんでした!ありがたくこの機会を使わせていただきます。でも、なんで俺はひもで縛られてるんすか?』

『僕の気分ですかね~。大体、悪魔なんて縛ったって効果ないですからね。』

俺は笹谷さんのことを見ると真剣な眼差しをしていた。その時、俺が見たのに笹谷さんが気づいた。

「意外と二人、仲が良さそうですね。少し安心しました。」

「・・・そうですね。」

これって、仲がいいって言うのか?

「私、リュウタの話を聞くと他の悪魔とは仲が悪いとか言っていたんです。だから心配していたんです。」

「そうだったんですか。」

『先輩、いつから喋っていいんですか?』

『じゃあ、これから喋ってください。いきますよ?』

『ああ、ちょっと待って。』

『次は何ですか?』

『今、話す内容を確認してるから・・・』

『・・・あなたそんなに几帳面でしたっけ?僕が知っているあなたはぶっつけ本番スタイルを貫き通すような感じでしたけどね。』

『・・・そういう先輩こそこんなに情けをかけるような方ではありませんでしたよ。』

『もういい加減始めましょうか。僕だって暇じゃないんです。』

『そうですね。』

その後、少しの間、カセットテープの雑音だけが流れた。いつから本題に入るかと待っていると深呼吸の音がした。

『えー、実際にこの声がおまえに届くかは分からないけど、一応言いたいことは言っておく。』

笹谷さんは少し前のめりになった。

『ぜーーーーったいに、負けるな!』

音量が急に大きくなって俺も笹谷さんも驚いた。

『おまえはもう昔のおまえじゃない。会ったときに比べて見違えるほど変わった。もう心配することは何もない・・・、だから元に戻っても頑張れ!俺からはそれしか言えないけど・・・、』

リュウタの言葉はそこで止まった。でも、すぐに言葉を続けた。

『言えないけど、ずっと、ずーーっと、応援しているからな!』

その後、若干ノイズがこもっているような音になった。

『あなたが言いたいことは言ったんですか?』

あいつの声が明らかに大きくなっていた。

『ありがとうございます。先輩にはほんと頭上がらないです。』

『それなら、僕に手間をかけないようにしてほしいですね。・・・でも本当に良かったんですか?』

『何のことですか?』

『あなただって、なんで笹谷さんの監察が強制終了したか分かっててそれを言っているんですか?』

『それは俺だって分かってますよ。でもあいつには一つでも余計な心配事は増やしたくないんです。』

『私も笹谷さんとはいろいろ話しましたが、データとはまるで違いましたよ。強制終了した今、伝えても良かったんですよ。好きだって事。』

その言葉を聞いたとき、笹谷さんは両手を口に当てた。

『それに、笹谷さんもきっとあなたの事を気にしていましたよ。あの子は自分の感情を隠すのがうまいですから、あなたには分からなかったのでしょう。』

『先輩は読み取ったんですか?』

『いえ、ただ・・・アニメを見過ぎましたね。』

あいつ・・・、分かってて言っているのか?でもさすがの俺でも分かる。だって、隣で笹谷さんが涙を流していたから。

『先輩だってかなり影響されているじゃないですか。』

『あなたも僕もまだまだって事ですよ。それじゃあ、僕はこれを届けに行くのであなたは待っていてくださいね。』

『先輩・・・、本当にありがとうございました。』

カセットテープはここで終わっていた。笹谷さんは泣いていたがハンカチで涙を拭いた。

「泣いていたらまた怒られちゃいますね。」

笹谷さんは俺に向かって精一杯の笑顔を見せていった。



その日の夜、俺と笹谷さんは近くの居酒屋に行った。そこで笹谷さんは昔の自分を払拭するかのように昔のことを話してくれた。

「リュウタって友達だった『竜太』から出てきたんです。私の職場に竜太はいて、いつも私の面倒を見ていてくれました。他人との会話は得意ではないんですが、私は竜太のおかげで仕事の会話もスムーズにいくようになって、私はとても気が楽でした。でも、私は自分の事しか、考えていなくて竜太の負担のことは全く考えていなかったんです。私がいつも通りに仕事場に行くと、竜太がデスクの前で倒れていました。私はすぐに救急車を呼び、竜太と一緒に病院へ行きました。救急車の中で私は自分を責めました。どうして、負担になっていたことに気がつけなかったんだろう。どうして、竜太にばっかり頼んでしまったのだろう。私の頭の中にはどうしてだけで埋まっていきました。そんな中、竜太は救急車の中で意識を取り戻しました。本人は何もないように振る舞っていましたが病院で診察を受けた結果はやっぱり働き過ぎだったそうです。私が病院を立ち去ってから2、3時間後に竜太は病院から出て、仕事場に行こうとした時に・・・トラックにひかれてしまいました。」

笹谷さんはもう一度涙を拭いてから話を続けた。

「幸い、命には別状はなく、本人以外は驚きを隠せませんでした。私はまた自分のせいだと思って、急いで病院へ向かいました。でも、竜太の下半身はほとんど動かせない状況になってしまいました。私が泣いて謝ると竜太はいつも通りの笑顔で私のフォローをしてくれました。でも、今日に限ってはそのことがとても苦しかったです。いつもと同じフォローの仕方のはずなのに私自身がとても情けなく感じたからです。その時に自分の事は全部自分でやって周りも見渡せるようにならないとって思ったんです。」

俺はすぐに言葉を発しようとしたが、それよりも早く笹谷さんが口を開いた。

「ところで佐和田さんはどうするんですか?」

「どうするってソフトの事ですか?それならもう決まっています。」

「そうですか。」

その先の会話でソフトの話はしなかった。



もう少しで12時になりそうな時にまた笹谷さんが口を開いた。

「元に戻ってもここの記憶ってあると思いますか?」

もちろんその事を知っているのは悪魔だけだろう。でも・・・

「たぶん、残ってないかもしれませんね。もしも残っていた人がいたらそのような話をどっかで聞くでしょうから・・・」

「やっぱり、そうですよね。嘘の世界であってもここでの思い出もあったので・・・」

「だから、中途半端にしたんですよ。」

俺と笹谷さんは同時に振り返った。

「いやー、なんとか仕事を終えることができました。」

このタイミングでお前かよ。

「話してくれても大丈夫ですよ。」

「わざわざ、来てくれたんですか?」

笹谷さんは一礼した。

「笹谷さんは本当に大丈夫そうですね。僕もあいつも心配していましたが杞憂だったようです。」

その時、笹谷さんの体全身が透けてきた。

「本当は、僕の担当ではないんですが、あいつがどうしても『俺の代わりにお願いしますよ!』って聞かないものですから・・・」

笹谷さんの体がかすかに光り、徐々に薄くなっていく。

「佐和田さん、元に戻ってもよろしくお願いします。」

今度は俺に一礼して笹谷さんは消えていった。

「貴方もお疲れ様でした。とりあえず、帰りましょうか。話したいことはその後からでも十分時間はありますし。」

俺はアクアと一緒に帰った。



俺とアクアは部屋に戻った。

「じゃあ、質問コーナー!」

何でお前がハイテンション何だよ。

「いいじゃないですか。今くらいは明るくいないと!」

じゃあ、どんどん聞いてっていいんだな?

「もちろんですよ!」

そう言って、アクアはプロレスラーみたいな挑発をしている。

まず始めに、仮想世界についてだけど、『魂を連れてくる』って言ってたけど、それはつまり俺たちは死にかけているのか?それとも夢を見ている感覚なのか?でも、もしも後者だとするならば魂である必要性はあるのか?

「いきなり、この世界の核心を突いてくるいい質問ですね。簡単に言いますと逃げているように聞こえるかもしれませんが、その中間が一番正しいと思いますよ。選択によっては死んでしまうこともありますよ。それがここのルールですから。」

また中途半端な答えだな。結局は俺たち人間には分からないってことか?

「そんな事はありませんよ。大雑把に言うとRPGみたいなものです。僕たちはサポート役でしかありません。」

んじゃ次は俺について聞こうか。笹谷さんの場合、昔の事が原因でここにいたけど、俺も同じ理由なのか?

「僕が笹谷さんに言ったときに一番気にしていた事ですね。確かに、ただ単に死にそうだった人を対象にしている訳ではありません。ある理由があって呼ばれています。しかし、ある理由を告げるか否かは担当悪魔に一任されています。これも一種のサポートです。」

で、お前は?

「教えると思いますか?」

教えないってことだな。まあ、いいよ。お前の言っていることは本当なのかすら怪しいからな。

「そんな事は言わないでくださいよ。ここまで来て嘘をつく理由がありますか?」

無いとは言えないだろ?大体、俺は今アウェーなんだからお前たちの思い通りだろ。

「それは少し違いますよ。僕もアウェーです。ここは、僕が作った訳ではないですから。もっと偉い人です。だから、僕にも情報の限界はありますよ。ただ、裏を返せば今現時点で僕の知っていることは最悪すべて話してもいいんです。でも、話しませんよ。これは貴方のためでもあり、僕のためでもあります。」

それは、俺の今後の成果によってお前のポイントか何かが変わるって事か?

「察しがいいですね。その通りです。特に気にすることはないんですが、貴方の場合は結構頭の回転が速いので言わなくても大丈夫そうなので僕も気が楽です。」

アクアはいつも通りの笑顔を見せながら言った。

「まあ、そのポイントは貴方に何も影響はないので、気にしなくてもいいですよ。」

でも、何で俺はある理由を覚えていないんだ?

「ああ、それは確かに疑問に残りますよね。でも、最初はみんなそうなんです。きっと貴方は笹谷さんの事を見てその事を思ったんでしょうけど、あれはあいつがすぐにその事を言ったからです。本当は貴方もヒントを二つ、三つ与えればすぐに思い出すんです。普通なら・・・」

何だよ。それじゃ俺が普通じゃないみたいな言い方だな。

「普通じゃないですよ。僕は結構ヒント出してますからね。よほどショックな出来事で思い出すのを拒絶しているか、もしくは貴方が鈍感かのどっちかですね。」

俺には全く記憶にないな。

「私にはよく分かりませんが、もしかしたら貴方が聞く謎の声もヒントなのかもしれませんね。まだまだ悪魔も全知全能でないと言うことです。」

結局、大事な事は分からないってことかよ。最後に・・・

「元に戻った時にここでの記憶はあるのかですよね?その質問は楽しみにとっておいてくださいよ。ここの事を結構知っている貴方なのですから頭を使って考えてください。」

俺が少しの間考えていると、アクアが声を発した。

「そういえば、里美さんの事はどうなりました?」

この一言で俺は全くその事を忘れていた。

「・・・もしかして忘れてました?」

・・・わりぃ。完璧に忘れてた。てか、今それを思い出します?

「僕も今ふと思い出したんです。それより答えは出ていますか?」

前回の大雑把とした答えは雲を掴むような感じでしっくりこないんだよな~

「貴方でもそうですか・・・。まあ、明日はとりあえず当てずっぽうで言ってみましょう。もしかしたら、当たるかもしれないですし・・・。」

とことんと楽観視をするんだな。とりあえず、色んな事がもう少しで止まっているから残りの作業をやるわ。

「それでは、僕は戻りますね。」

そう言って、アクアは消えていった。



俺は朝になって食堂に行って見るとそこには里美さんが朝食を作っていた。

「あら、佐和田さんは今日も早いのですね。昨日は遅かったので遅く起きると思っていました。」

いつものように里美さんは笑って見せた。

「昨日はすみませんでした。朝はいつも早いんです。それよりもお話を聞いても良いですか?」

俺が質問をすると里美さんの手が一瞬止まった。

「佐和田さんの中で答えが出たようですね。過去の事はあまり触れてほしくないと言っていたのに、なぜか楽しみにしている自分がいます。私の方こそ是非聞かせてもらってもいいですか?」

里美さんは答えた。

「でも、料理の準備が終わってからですね。途中でやめてしまうと、味が落ちてしまいますから。」

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