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不眠欲  作者: 柚檸檬2号
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「どうも、悪魔です。」「はぁ!?」

「おーい、佐和田。この仕事をやってくれないか?」

「わかりました。」

残業とか憂鬱でしかない。俺の仕事は終わってるのになんで部長のやつをやるんだよ。

もう時間は11時を回っている。誰だよ『仕事は一日八時間』なんて言った奴。

「悪いな、手伝わせちゃって。」

「いやいや、鹿野先輩のせいじゃないのでいいですって。」

鹿野先輩は同じ大学でひとつ上の先輩である。

「それにしても、神田部長ひどいですよ。終わったと思った時にまた仕事を入れるんですから。」

「まあ、会社ってもんはそう言う所だから、終わったら飲もうぜ。」

「僕はいいですけど、奥さんはいいんですか?こんだけ遅くなると何かと不便じゃありません?」

「大丈夫、もう連絡は入れているから。なんか今日はやな予感がしたんだ。」

鹿野先輩は三年前に結婚した。

「頑張ろうぜ、佐和田。」

「はーい。」

俺と鹿野先輩は黙々と仕事を続けた。気がついたら日をまたいでいた。

「先輩、0時回っちゃいましたね。」

「おお、マジか。でも、後はこれを打ち込むだけ。」

淡々とやっていたので結構スピードは早かった。

「うちってもしかしてブラックですか?」

「そうならないように残業が当番制なんだろ。きっと。」

「はぁ~、都合がいいですね。この分の給料なんて雀の涙ほどしか出ないのに…。」

「しょうがないな。よし、仕事終わり。」

鹿野先輩はノートパソコンを閉じた。

「全く残業が2時間半ってどんな神経してんだよ。」

「まあ、いいじゃないかここら辺だと給料もいいんだし。せっかくだからカラオケでも行くか。」

「お、鹿野先輩から誘ってくれるなんて珍しいですね。」

「どうせ『ストレスが溜まったのでカラオケに行きましょう。』的なことを言うんだろ?」

「流石に心理学を専攻してただけありますね。」

「そう言うお前こそ工学科だけはあるな。俺より仕事は多いはずだったのに早く終わるなんて。」

「まあ、いいじゃないですか。早く行きましょう?」



俺は歌手志望だった。勿論、簡単じゃないことはわかっていたがよりによって最終選考で落ちるとは…

運が無かったとしか言いようがない。なぜなら、受かったのは今や期待の新星で一気に売れ始め、三年たっても人気が落ちる気配がない。

「佐和田から歌っていいぞ。」

「アザース!じゃあ、最初はコレで。」

「佐和田ってロック系の歌も知ってたんだ。」

「音楽に関しての情報は結構持っているつもりです。」

ストレス解消にはやっぱり咆哮シャウトでしょ。俺は一曲目から飛ばしていった。

「…やっぱりうまいな。プロみたいだな。」

「会社に入るまでは歌の事しか考えてなかったですから。」

「後ろでドラムをやっていた時はお前の歌声で会場は満席だったな。」

「僕一人の力じゃないですよ。音楽は…」

「『音をみんなで楽しんで完成する』だろ?」

「はい。」

「今でも、プロになる夢は諦めていないのか?」

「まあ、なれるならなりたいですけどね。先輩はどうなんですか?」

「俺はもう駄目だよ。家族を養う身だからね。自分勝手なことを言ってる暇はないよ。」

俺は正直、夢を諦める事なんかできない。でもやらなきゃいけない事が沢山あって、時間がない。

「まあ、売れない奴がいるから、売れる奴がいるんだろう。」

そう言って鹿野先輩は歌い始めた。



「お疲れ様でした。」

「お疲れ、気をつけろよ。」

俺はいつもの帰り道で帰った。

「やべぇ、DVDの容量大丈夫かな。結構アニメ溜まってるし…。そもそも、睡眠がなければ一日あたり6時間も増えるのに。」

「そうですよね~。睡眠なんかしたくないですよね。」

「そうなんだよ。大体、睡m…。」

おい、俺よ。冷静に考えろ。今日はひとりで帰ってきているはず。しかも、今まで聞いたことがない声だったぞ。俺の記憶能力は超人レベルだぞ。この声は誰だ?俺は振り返った。

「どうも、みなさんの希望を叶える悪魔です。」

なんなんだこいつ、巨大な鎌を背負い黒いフード、不審者の典型的な例じゃん。それ以前に鎌って・・・、銃刀法違反だろ。

「悪魔かぁ、面白いな。」

取り敢えず煽ってみるか。

「ほほぉ、貴方は珍しいお方ですね。常人だったら一目散に逃げてしまいます。」

ん?俺は今試されているのか?もしくは煽られていることに気づいてないのか?

「俺に何の用事?」

「その言葉はこちらのセリフです。悪魔を呼ぶ程困ってらっしゃるんでしょ?」

何なんだコイツ、まず第一に本当に悪魔かよ。そうだとしても早く帰りたいし・・・

「あの~、帰りたいその気持ちは分かりますが『心の声』は聞こえてますからね?」

あ~、じゃあ喋る必要はないね。

「まあ、そのことは置いておきましょう。僕が悪魔だって言う証明が欲しいですか?」

「証明できるのか?『悪魔』って漠然としすぎて証明できないだろ?」

そう言うと悪魔は手帳を見せてきた。

「これが『悪魔手帳』です。」

「・・・はぁ!?それが証明かよ。俺には全くと言っていいほどわからないんだが。」

「なら、大通りに出ましょう。それなら、分かるはずです。」

なるほど、俺以外には見えないって原理か。そして、大通りに出た。

「…あの~、悪魔さん?周りからとても冷たい目線を感じます。」

「気のせいじゃありません?」

気のせいではない。明らかに周りの人の目線は悪魔の方にいっている。その時、警官が来た。

「ちょっと、そこの黒いフードの人いいですか?」

やっぱり見えてんじゃん。大通りに出た意味はなんだったんだ。

「背中に背負っているものは何?」

うあー、しかも鎌の存在にも気づいてるし、本当に銃刀法違反で逮捕じゃん。その時、悪魔はさっきの手帳を見せた。すると、警官の様子が明らかに変わった。

「失礼いたしました。なんて言ってもここの夜は物騒なので職質をよくかけるんです。」

「そうですか。僕たちも気をつけます。」

「ご協力をいただきありがとうございます。」

そう言って警官が去っていった。

「ほら、悪魔でしょ?本当なら消えることもできますけど、貴方が期待していたのでやめました。」

悪魔が笑顔で言った。

「止めるなよ。」

「まあ、いいじゃないですか。今日はもう遅いので家に帰りましょう。」

「そうだな。悪魔に会えてよかったよ。」

「何言ってるんですか?僕は今日、貴方の家に泊まるんです。」

「・・・え?」



「いやー、人間の部屋って広いですね。うわ、ベッドまであるんですね。」

「ってか、本当についてくるのかよ。」

悪魔が俺の部屋を徘徊している。

「そんなに俺の部屋が面白いか?」

「それはもう、今まで人の部屋に泊まったことは勿論、入ったことも無かったので…。」

「なんでよりによって俺の部屋に泊まるんだよ。」

「まあ、ご褒美みたいなものですね。悪魔のランクによって人に干渉してもいいレベルが決まるんです。」

俺はそんなことがあるのかと思いながら聞いていた。

「僕はシルバーなので対象者と同居してもいいんです。」

「じゃあ、一番上の階級は何が許されているんだ?」

「う~ん、生憎僕は知らないので何とも言えないですね。」

そう言って悪魔は悪魔手帳を見せてシルバーであることを見せた。

その時、僕はふとある事を思い出し、手帳を見回した。

「ところでお前の名前はなんて言うんだ?」

「私の名前ですか。私の名前は『アクア』といいます。」

そう言ってニコニコしながら言った。

「直感だけど嘘だろ?」

「はい、ウソです。」

ウゼェェェェェ!こいつは一体何なんだ。

「悪魔です。」

「知ってるよ!」

「まあ、そんなことはいいじゃないですか。僕が来た本当の意味を覚えています?」

「来た意味?」

「僕は『希望を叶える悪魔』です。」

「はぁ?」

「要するに、願い事を叶えるんです。」

「おい、待てよ。そういうのは悪魔じゃなくて、妖精とかがやるんだろ?」

その言葉に腹を抱えてアクアが笑い出した。そして、少し収まってから喋りだした。

「ちょっと待って下さい。いつの話をしているんですか。今の悪魔はもう何でも出来るんです。」

「何でも?」

「何でもです。」

「なら、風呂を沸かしてくれる?」

「そんなことくらいは数分待てb…」

「何でも出来るんだろ?」

「はあ、分かりました。いきますよ?」

ヤベェ、どのように沸かすんだろう。呪文なのか?それとも鎌を使うのか?

アクアが風呂場に行った。

「えい。」

右手の人差し指を風呂に向けると何のエフェクトもなく、水から湯気が出てきた。

「まさか、お前また俺の心を読んだな。」

「これは違いますよ。もともとエフェクトなんて無いんです。過度の期待されても困ります。」

「悪魔って地味なのか?」

「そうですか?僕、悪魔界の中では結構イケてるほうなんですけどね。」

まあ、顔はまあまあだけど、服装がなぁ…。

「コレで何でも出来ることが分かりましたか?」

「そう言う事にしておこう。」

「じゃあ、やっちゃいますか?」

「何を?」

「とぼけちゃって~、寝るのが嫌なんでしょう?」

「ああ、そんな事言ったっけ。」

「できますよ。どうしますか?」

「じゃあ、やってくれよ。」

アクアがまた人差し指を俺に向けてえい、と言った。

「…かかったのか?」

「まあ、三日間くらい過ごしてくださいよ。そういえば今日は休みですね。」

アクアがボソッと言ったが俺は気にせずにアニメを見始めた。



俺は今まで撮っていたアニメを見た。

「うわ、このシリーズ15話分も溜まってる。」

「アニメってものは面白いですね。」

「おー、お前にもアニメの良さが分かるか。」

「分かりますとも、ただひとついいですか?」

「ん?」

「あなたはいつお眠りになるんですか?」

俺はふと気付いた。もう、午前の4時なのに全く眠くない。寧ろ、冴に冴えている。アクアを見ると微笑んでいた。

「今日はたまたま眠くならないだけだろ?」

「そうかもしれませんね。折角の休日ですし、ご飯は僕が作りましょう。」

「お前ご飯作れんの?」

「悪魔ですから。」



「はあ、15話見終わったー!」

「良かったですね。昼ごはんは何をしますか?」

「そうだなー、うどんがいいな。」

「分かりました。えい。」

うどんが二杯でできた。ホントに何でも出来るんじゃないか?ただ、作ってはない。

「どうぞ、食べて下さい。」

「サンキュー。」

昼ご飯を食べながらアクアと会話を始めた。

「ところでなんで俺の前に現れたんだ?」

「僕の気分です。たまたま、僕の近くに貴方が通ったので。」

「悪魔って適当なんだな。」

「それは褒めてます?」

「褒めてはいないな。どっちかというと馬鹿にしている。」

その後、時が1時間、2時間、そして遂にまた0時を回った。

「眠いですか?」

微笑みながらアクアが俺に聞いた。

「全然、絶好調と同じくらいの気分だね。」

「悪魔は何でも出来るんです。」

得意げにアクアは言った。

「では、もう僕は必要ないですね。」

「え?ああそう言う事になるな。」

「だとしたら僕は一旦退散します。」

「お前、本当に何をしに来たんだよ。願いを叶えるためだけでいいのかよ。」

「それが悪魔の役目ですから。」

その一言でアクアは消えていった。本当にアイツ悪魔だったのか?



「部長、少しいいですか。」

「おう、なんだ?」

「今日の残業も手伝っていいですか?」

「別に構わないが体力は大丈夫か?」

俺はその日から半年間、常人、いや、超人でも気が狂いそうな程仕事をした。

「お、おい。佐和田、いい加減休めよ。」

あんなに意地悪そうな神田がオドオドしている。いい気味だ。しかも連続した残業を上層部に報告すると、給料が元の125%に跳ね上がった。

「大丈夫ですよ。今日の神田部長の仕事は終わりましたから。」

「佐和田、そう言う訳じゃなk…」

「もう帰ってください。」

ついでに言うと、神田部長の仕事をやった事も言ったら、給料が半分カットになったらしい。

「神田部長、佐和田もこう言っていることだし、今日はもう上がって家族サービスでもしたらどうですか?」

鹿野先輩がフォローをしてくれた。

「俺だって給料が半分もカットしたら生活が…」

「なら、残業しますか?部長も残業申請をすれば僕たちくらいの給料は入りますよ。」

「はぁ?」

神田は自分が残業をしたくないから、自分は定時で帰って残りの仕事は部下にやらせていた。

「鹿野先輩、今日の残業はきっとないので無理ですね。なんて言ったって神田部長の仕事はもう無いので…。」

神田は怒り爆発寸前な表情で会社を出て行った。

「皆さん、分からないことがあったら聞いてください。僕がバックアップします。」

「佐和田、よく頑張るな。まるで部長みたいだ。」

「これでストレス無く、仕事ができますしね。」

職場から笑いが起こった。



翌日、まるで社長出勤のように神田が来た。

「神田部長、今日の仕事はもうおw…」

その時、部長の後ろから誰かが出てきた。あっ、社長だ。瀬戸社長だ。やっぱ、何度見てもヤクザにしか見えない。

「どうなさいましたか、瀬戸社長。社長直々に監察ですか?」

鹿野先輩がお茶を出しながら、質問した。俺は仕事を続けた。

「最近ここの業績がうなぎのぼりで興味を持ったんだ。その上、神田が自分勝手な奴がいると聞いたから。まあ後ろのことはついでってやつだ。」

「社長、あそこで仕事をしている佐和田が話にした社員です。」

うわー、そのことかー、社長を召喚するとか反則だろ。絶対勝てないじゃん。

「おい、そこの君。ちょっといいか?」

「ああ、はい。」

俺は神田の右に座っている社長の真ん前に座った。はぁ、転職先はどこだろう。勝ち誇っている顔をしている神田がウザイ。

「君が神田に『自分勝手な奴』と言われている人かな?」

「はあ、おそらくそうだと思われます。」

社長、めっちゃ真顔やん。ヤクザみたいな顔の人が真顔って圧力ありすぎだろ。そう思った瞬間、社長が笑顔になった。

「君、ここの部長にならないか?」

その言葉は職場全体の時間を一瞬止めた。

「しゃ、社長。それはどう言う意味ですか?」

神田が慌てて瀬戸社長に聞いた。

「そのまんまの意味だよ。この佐和田くんがリーダーシップを取るようになってから業績が個人で249%、集団でも173%アップは凄いことだ。君が部長より佐和田くんの方がいいのは誰でもわかるだろう。」

「しかし、まだ入社してかr…」

「不満があるのなら、辞めてもいい。うちでは人事異動はとても慎重にやっている。でも、君の異動はかなりあっさり決まったよ。どういうことか分かるね?」

神田はうなだれた。

「しかし、佐和田くんもあまり自分の思うようにやられても困る。」

「はい、すみませんでした。」

「だから、君にはしっかりここの職員全体を活動させる必要がある。」

「と言いますと?」

「君はもう残業をしなくていい、というか溜まった仕事はもう無いんだろう。ここ数日の仕事の収支がぴったりだ。」

そう言って、瀬戸社長は俺に資料を見せた。ちゃんとした社長やん。ヤクザっぽいけど・・・。

「君なら職員をうまく回すことが出来そうだ。私の方でもなんとか君が暇しないように頑張るから。宜しく頼んだよ。」

微笑みながら瀬戸社長は手を出してきたので、俺は握手した。

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