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修学旅行―三日目―(2)

 この日の行動はディズニーランドと同じ班だった。本当にそのはずだった。しかし、智恵と沙織がトイレに忘れ物をしたとかで来た道を戻り、しばらくして雪那の元に来たのは何故か春希だった。


「あれ?立花さんどうしたんだ?他の二人は?」


 雪那は少しの間目を見開いてからくすりと笑った。


「あぁ、なるほどね。謀られたか。後できちんと言っておかないと…。

 話に乗る君も君だと思うけど、こうなった以上彼らの手のひらで踊ってあげないとダメかな。どこに行こうか?」


「は?どういうことだよ?拓海と昌人がトイレに忘れ物したからオレが先に歩いてきただけだけど」


「ふぅん」


 疑いの含んだ声を出して雪那は智恵にメッセージを送ると、思いのほかあっさりと答えが返ってきた。


「なんだ、君もハメられた側なんだ。ほら、〈サプライズだよ~こっからは二人で行動してね!〉だって。

 それでもう一度聞くけど、どこ行きたい?」


「じゃあ、おみやげ館行こうよ。これから行く予定だったんだ」


 その言葉は本当だったらしく、案内マップを広げることなく歩き出した春希を追いかけ、その隣を雪那は歩いていった。


「あのさ、今朝のこと。ペンションを出る前のこと。子供好きなのか?」


「いや、そういうわけじゃないんだけど。ただ、泣いてたから。子供が泣いたときほど面倒なことはないと思ってる。泣かれるくらいだったら笑ってくれてる方がマシだね。

 何故子供好きだと思ったの?」


「だって、わざわざ泣いてる子供の所に行くなんて普通しないと思うんだ。立花さんがそうしたってことは、そうとうな子供好きか、あるいはあの子に何か思い入れでもあったのかと思ったんだけど…」


「残念だが、両方とも違うね。子供は別に好きじゃないし、ほんの少し遊んでやっただけの子に思い入れなんてない」


 うぅん、と唸って考え込んだ春希だったが、ほどなくして答えが見つかった。


「じゃあ、立花さんは根が優しいのか」


「は、はぁ!?何言ってくれちゃってんの!?頭に花でも咲いてんじゃない!?」


 春希はもちろん周りにいた人もぎょっとするほど大きな声で言ったと思いきや、雪那はばつの悪そうな顔をして早足で歩いていってしまったので、春希は思わず雪那の肩を掴んで言った。


「花でも何でも咲いてていいけどさ、オレはやっぱり立花さんが優しいからだと思う。立花さんが何を言ったって、子供には分かるものなのかもしれない。どうしたって伝わらない人もいるだろうけど、分かってくれる人だって世の中いるんじゃねぇの?その分かってくれる人が立花さんにとっては子供たちなんだと思うよ。オレもその分かる立場にいたいし、そのための努力をしていたい」


「……ほんと、馬鹿みたい」


 ぼそりとつぶやいてから雪那はくるりと春希の方を振り向き、彼の目を真っ直ぐに見た。


「でも、そういう馬鹿さは、嫌いじゃないかも」


 そう言って肩に置かれた春希の手を取って歩き出した雪那の顔は、嬉しそうな、楽しそうな、それでいて少し困ったような顔に見えた。春希は初めて、彼女が。


(綺麗だ…)


 その刹那、世界はまばゆく輝いた。



―――――――――――――――



 帰りの新幹線の中、眠っている智恵の横で、雪那は手の中にあるものをじっと見つめていた。それは、春希から贈られた青い鳥のストラップだった。雪那は断ったのだが、春希がせっかくだからと言って買ってくれたものである。


(どこにつけておこう…?)


「自分用のお土産?せーちゃんそういうのあまり買わないのに、珍しいねぇ」


 突然話しかけられて一瞬びくっとしたが、すぐに調子を取り戻して答えた。


「いや、贈り物だよ。君たちが仕組んでくれたおかげでね。先生に見つからなかったからよかったけど、あんまりおかしなことしないようにね?」


「えぇ!沢口君にもらったの!

 へぇー?ふぅーん?そーう?」


「…とっても意味深な言葉と顔だね。まったく、何をしたいんだか…」


「これだからせーちゃんと一緒にいるのは飽きないんだよー」


 こうして、雪那は家に帰り着くまでひたすら首をかしげることになった。

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