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修学旅行―二日目―(2)

 店を出た彼らは、雪那が興味を持っている異人館へと行った。結局雪那の独断と偏見でべーリック・ホールというイギリス人貿易商の旧邸宅を選んだところからも分かる通り、雪那以外のメンツはどこか気乗りしないような顔だったが、館内を見て回るうちにだんだん楽しくなっていったらしく、気がつけば雪那と春希は他のメンバーとはぐれてしまっていた。

 春希は慌ててメッセージを送りまくる一方、雪那はどこ吹く風で館内を眺めていた。


「立花さんケータイ持ってるよな?連絡しなくていいのか?」


「君が既に連絡しているから私がやる必要はないよ。別に彼らの行動は許容範囲内だし」


「冷たいなぁ。そういや、修学旅行も面倒くさがってたよな。あんま楽しくない?」


「知ってたんだ、そのこと。楽しいも何も、興味がない。何を好き好んで大人数で人口密度の高い所へ行かなくちゃならないんだ?それなら、一人で好きな所へ行った方がずっといいと思う。他にも興味のある異人館がいくつかあったけど、結局この一つしか見に来れなかったし。

あと、私が冷たいって話は昨日も言っただろう?手遅れだって。世の中どうにもならないことなんていくらでもある」


「それで…それでいいのか?それでいいと思ってるのか?」


雪那はふっと笑った。その笑みはどこか悲しげだった。


「あぁ、それでいい。変える気も…」


「春希ぃー!やーっと見つけた!何迷子になってんだよー探し回ったんだぞー」


 突然館内に響き渡ったのは拓海の声。二人が声をした方を振り向くと、そこにははぐれたはずの班のメンバー全員が揃っていた。


「…行こうか。そろそろ時間だし、集合場所に行かないと」


 そう言って歩き出す背中を、春希は追いかけた。


 この後大声を出した拓海が雪那にこっぴどく怒られたのは言うまでもない。



―――――――――――――――



 深夜一時をまわった頃。例のごとく浅い眠りについていた雪那の目を覚まさせたのは、スマートフォンのバイブ音だった。画面に表示された名前は『ハルキ』。


「……はい?」


『あ、立花さん?ごめん、こんな遅くに。話したいことがあるんだけど今大丈夫?部屋の人とか…』


「何か、大丈夫っぽい。私の部屋、誰もいないから。他の部屋に行ったんだろうね。まったく、何やってるんだか」


『あはは、実はこっちも。だから電話できてるんだけど。

 それで話っていうのは、異人館での話の続きなんだ。途中で終わっちゃったし、どうしても気になってさ。あの時、何て言いかけたんだ?』


 少しの間雪那は黙っていたが、一つ息を吐くと話し出した。その声はひどく冷たく、まるで氷のナイフを突きつけているようだった。


「私は、世の中がどうであろうとそれを変える気なんてないし、変える必要もないと思ってる。私を取り巻くこの世界に、私は興味なんてない。

 何故君は、そんなことを聞くんだ?」


『えっと…気になったんだ。昼間はハンパに終わっちゃったし、それに、オレには、立花さんが考えてること分からないし』


「…分からないなら最初から聞かなければいいのに。私が言ったところで理解なんてできないんでしょう?」


『それでも、それでもオレは努力したい。自分ができる精一杯のことをやっていたい。確かに俺には立花さんの言ってることを全部理解するなんてできないよ。でもだからって、最初からあきらめるようなことはしたくないんだ』


 雪那は目を見開いた。春希の言ってることが、しばらく理解できなかった。


「そう…。一つ言っておく。君、そうとうな変わり者だと私は思うぞ。

 それじゃあおやすみ。今日はもう寝なよ?」


『うん。遅くにごめん。話してくれてありがとう。…おやすみ』

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