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修学旅行―二日目―(1)

 A.M.5:13


 枕元に置かれた時計を見て、雪那はため息をついた。旅行やキャンプで自分のものではない布団で寝るといつもこうなのだ。どうやら、『自分の枕でないとよく眠れない』性質らしい。寝付きは悪く、眠りもひどく浅いし、起床時間よりもずいぶん早く起きてしまう。同室の二人はすぐに寝たと思ったらしいが、実際には目をつむったまま長いこと眠れずにいたのだった。


 目が覚めてしまったので身支度を済ませてスマートフォンを確認すると、クラスのグループトークの着信に紛れて春希からのメッセージが入っていた。


〈六時十五分にラインの電話入れて起こして!オレの部屋のヤツら全員朝弱くて起きられないかもしんないから!〉


(朝が弱いというよりも夜更かししすぎたって言った方が正しいんじゃないか?)


 そう思いながら、雪那は苦笑した。



―――――――――――――――



「ねみぃ…全っ然起きれなかった…」


 そう春希がつぶやいたのは電車の中。彼らは他の班と比べるとずいぶんのんびりと朝食をとってホテルを出発した。


「私、何回も電話かけたよね?」


「あぁ…。起きたら昌人にすっげぇ文句言われた。二十三件も不在着信入ってたから」


 結局春希は着信では起きられず、何度もなるコールに耐えかねた昌人が代わりに出たのだった。


 一行はまず東京スカイツリーに向かった。早い時間に行ったのが良かったらしく―それでも人は大勢いたのだが―それなりに景色を楽しみ、その後は土産物を扱う店をいくつか見て回り、沙織のリクエストでムーミンハウスカフェを訪れた。食事は横浜でとる予定だったのでグッズ売り場のスペースしか行かなかったが、それでも店内には至るところにムーミンの世界が描かれており、それだけでも十分楽しむことができた。


「よっし!食うぞー!」


 そして今彼らがいるのは横浜中華街。春希たち男子メンバーが一番行きたがった場所である。あちこちの店を冷やかす男子たちを見失わないようにしながらも、雪那たちも中華まんやら串ものやらを買い食いしていった。


「揚げシュウマイ串三つ下さーい」


「はい、九百円ねー」


 半分ほど食べた肉まんを沙織に預け、智恵はまた何かを買っている様子だった。


「相変わらずだけど、ちーちゃんはよく食べるよね」


「ねー。てゆうか、今回は一本じゃないみたいだけど…」


「はい、二人とも。揚げシュウマイだよー。何かあんまり食べてないみたいだったから。あたしの奢りー」


 智恵はそう言うが、雪那も沙織も十分買い食いをしている。智恵が食べる量が尋常ではないのだ。


「ちーちゃんを基準にされても…。でもシュウマイはもらうよ。ありがとね」


「あぁ!いいなーそれ!ね、岩崎さん、それどこで買った?」


「あっちのお店だよー」


それを聞いた昌人も小走りで買いに行った。



 その後も中華街の中をブラブラと見て回り、一行は何軒か目の土産物屋に入った。


「お、春希見てみろよ」


「何だ?」


 そう言われて振り返ると、昌人が謎のお面を着けているところを拓海がゲラゲラと笑っているところだった。


「マジかよ、割と似合ってんじゃねえか」


「嘘だろー?つーかこのお面何か臭い」


「うっわ、本当だ」


 その様子を、少し離れたところで他の三人は笑いながら見ていた。



 朱雀門から善隣門のあたりまであちこち歩き、休憩がてらに中華料理店へ入った頃には、誰もご飯ものや麺ものを注文できないほど買い食いしていたため、点心やデザートばかりがテーブルに並ぶことになった。


「けっこう食べたねぇ。杏仁豆腐さっぱりしてておいしー。せーちゃん、そっちの蒸しケーキはどう?」


「ふんわりしてるしお茶との相性も良くておいしいよ。少し交換する?」


「うん!」


(こうしてると、そこらへんの女子と変わらねぇんだな…)


 春希は心の中でこっそりと思った。最初話した後、『変な人、本ばっかりで友達が少なさそうな人』と思っていたが、しばらく過ごしてみると友達は少ないどころか本を読みながらも大抵の休み時間は男女関係なく―女子の方が多めではあるが―色々な人と話しているし、学級委員をやっていて教師からの信頼も篤い。だがやはり変わったところがあり、つかみどころがない。


 しばらくそうしてぼんやりしていたため、目の前の小籠包が昌人に食べられたことには最後まで気がつかなかった。


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