自覚
(『約束』って、何のことだろう…?)
そのことばかりが気になっているうちに日々はあっという間に過ぎ去り、中津國高校の推薦入試を受けた。ペーパーテストは何事もなく、残るは面接のみ。
「受験番号と出身中学校、名前をお願いします」
「一一二八番、豊原中学校出身の、沢口春希です」
「本校の志望理由は何ですか?」
「僕が持つ力に合った学力であることと、学校の施設が充実していること…」
(あぁ、そうか…。『約束』って、そういうことだったんだ…)
「…そして、僕の大切な人と、この中津國高校へ一緒に通うと約束したからです」
(あ、これを言ったのはまずかったかな…。でも、気がついたら喋っていた。それなのに、立花さんはオレの目の前から消えてしまった。〈信じてほしい〉と手紙には書かれていたけど、もう約束を果たすことなどできないんじゃないか?もしかして、自分に叶えられないことをオレに託したってことなんじゃ…)
その後いくつかの質問が続き、それにも難なく答えたつもりだったが、春希は自分が何を言ったのか、よく覚えていなかった。
そして、あとは結果を待つのみとなった。
――――――――――
二月十四日。世間はバレンタインデームードで色めき立つ中、春希は布団をかぶって何をするでもなくじっとしていた。この日は休日ではない。本来なら学校へ行かなければならないのだが、春希にはどうしても行くことができなかった。
入試がある日まで平気で学校に通えていたのは、それまで『約束』が何なのかに気がつけていなかったからと結論づけた。合格通知を見たとき胸の中に広がった虚しさを、喜びよりも先に、そして深く感じた春希は、雪那がいない学校を休むようになった。イヤフォンを着けて音楽を聞くことで、雪那の声が聴こえない耳を塞いだ。雪那の姿を見ることができない目を覆った。雪那に想いを伝えることができない口を閉じた。
不覚にも面接のときに雪那が言っていた『約束』に気がついた春希は、そこから雪那への想いも自覚した。
(オレは、立花さんのことが好き、だったんだ…)
思い返せば、四月から冬休みに入る前まで、様々なことがあった。修学旅行のときにはプレゼントまで贈っている。あのときはただ友達の罠に引っかかった人同士としか思っていなかったが、無意識に好意を感じていたからかもしれない。
そもそも班の人が雪那の班の人と共謀して二人きりにしたところからして、周りにはそういう風に見えていたということではないか?
彼女の核心に触れるような話を聞いたときも、不思議と否定する気にはなれなかった。とんでもなく後ろ向きで非常識な話だったのに。
それに、あのような話はただ気が向いてしたわけではないだろうから、きっと彼女は、体育祭のときには多少の自覚があったはずだ。しかも、春希は修学旅行以来たびたび「理解する努力をしていたい」と言っていた。ただの友達にそんなことは言わないだろう。
(もっと早く、彼女が引っ越す前にこのことに気がついていれば…)
この想いを伝えることもできただろうに。
すべてが、もう遅かった。




