引っ越し
来たる十二月二十三日。冬休み中の中学校での手続きも終わり、立花家の荷物が入った段ボールが続々とトラックに積み込まれる間、雪那はがらんとした自分の部屋でスマートフォンにぶら下がるストラップをぼんやりと眺めていた。
青い鳥のストラップ。それは、修学旅行のときに春希から贈られたものだった。誕生日でも何でもない日に物を贈られたことがほとんどなかった雪那にとって思い出深いものだが、学校につけていく気にはなれず、かといってしまっておくのももったいない気がして、結局スマートフォンのストラップというところで落ち着いた。
(だけど、これも外しておくべきだろう)
いくら二人で中津國高校を目指すと約束したところで、本当に再会できるかどうかなど分からない。しかし、それを信じるはず。でも、それでも。
「雪那ーもう出るぞー」
「はーい」
コートのポケットにスマートフォンを突っ込み、もう何もない家を振り返らずに出て行き、車に乗り込んだ。そこでまたスマートフォンを取り出し、今度はラインを開いて自分のアカウントを消した。
(これで、誰とも連絡を取れなくなった。もちろん春希も、私に連絡することはできない。だからせめてもの思い出に、このストラップだけはつけたままにしておこう。ただの思い出の品として。
…そうやって、私はこのストラップを着けたままにしておくことを正当化しているのかもしれない。)
そう思って、また青い鳥を眺めた。どこにでもありそうな小洒落た雰囲気のストラップ。だが、「これはどう?」と言ってこのストラップを見せられたとき、一瞬どきりとした。雪那は鳥が好きだからだ。もちろんそんなことは言ったことがない。それなのに、鳥だった。理由を尋ねると、彼は言った。
「鳥って、立花さんっぽいと思ったから。こう、優しくて、でも人に媚びないサラッとした感じで、あとはそう、自由。自由さが良く似てるかなー」
と。よくそんなに言えたものだと最初は思ったが、的を射た言葉でもあった。
(そんな彼なら、あの発言で何かあると勘付いたかもしれない。反応は微妙だったけど。手紙、ちゃんと彼の手に渡ってほしいな。それで、二人で中高に受かりたい。もう一度、彼の傍に行きたい)
車が動き出した。
(…ありがとう、楽しかった。私はそのことを胸を張って認められる。こんなに嬉しくなったのはいつ振りだろう?君も、春希もそう思ってくれるだろうか)
心の中で、雪那はそっとつぶやいた。春希には届かない、この美しい言葉を。




