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始業

 満開の時期が過ぎ、桜が散り始めた頃。何の変哲もない地元の公立中学である豊原中学校でも、他校と同じように始業式を迎えた。


 その式の最中、休み明けの眠たげな顔の中に、沢口春希がいた。


 春希はクラス分けにより特に仲の良かった友達とは一人離され、三年A組に振り分けられた。交友関係が浅いわけではないのでそれなりに馬鹿騒ぎはできるが、親友と離れるとどこか寂しいものがある。

 おまけに今年は受験がある。まだやりたいことがあるわけでもないのに、高校を決めなければならない。成績は割と良い方なので進学先の選択肢は多くあるが、かと言って、成績だけで進学先を決めたいとは思っていなかった。


 そんなことを取り止めもなく考えるうちに始業式も無事終わり、一同は教室へと戻っていった。

 

 豊原中学校は葦原小学校の学区内にある。葦原小出身者は、私立受験をしない限り豊原中に進学するため、生徒の約七割が葦原小出身者である。

 春希はそんな葦原小出身であるため知った顔は多く、彼持ち前の性格で交友関係も男女問わず広いため、新しいクラスであってもほとんど知らない人は二、三人程度だった。


 春希が自分の席やクラスメイトを確認すると、小島、佐々木、沢口ときて、その次に早速知らない人がいた。


(タチバナ、ユキナ…)


 どこかで見たことのある名前だと春希は思ったが、どうしてかは分からなかった。ただ、番号順の座席だと春希で丁度一番前の席に戻るため、話す機会は多いだろうとは思った。


 春希が拓海や昌人との雑談を終えて席に戻ると、ユキナは席に座って本を読んでいた。顔を見て春希はすぐにどこで見かけたかを思い出し、それを確認するために声をかけた。


「立花さんって、去年学級委員やってた?」


「そうだけど」


「やっぱり!初めて同じクラスになったよな?オレ、沢口春希。よろしくな」


 ユキナは驚いたように少しだけ目を大きくし、読んでいた本をたたんで机の上においてから言った。


「ご丁寧にどうも。立花雪那です」


「…セツナ?ユキナじゃなくて?」


「よく言われるけど、セツナが正しい読みだよ」


(そうだったのか…)


 最初の会話から相手の名前を間違えてしまい、そこからどう話せばいいのか迷っているうちに、雪那の方から話し始めた。


「何故、私に話しかけたの?」


「え…?何故って…。立花さん、オレのすぐ後ろの席だから授業中ペア組まされること多そうだし、始めて同じクラスになったから自己紹介しとかなきゃと思ったし、ええと、それから…。

 …変わった人、だなって…」


 雪那は何を言うわけでもなく、春希を見ていた。その目は、先ほどよりもわずかに大きく開かれているように見えた。


「あ、えぇと、ごめん…。変わってるっていうのは失礼だったよね。ごめん…」


「何故謝るの?私が変わっているというのは既に知っている。的を射た答えだよ。

 …それにしても、馬鹿正直に応えるなんて思わなかった」


 雪那がそう言い終わったところで担任が教室に入ってきたので、二人の話はそこで止められた。A組の担任となった安岡薫の担当教科は英語で、雪那にとっては三年間同じ担任、春希にとっては初めての担任となる。


 安岡からの話が終わるとすぐ解散となり、春希は他のクラスの友達に会いに行ったが、頭の片隅から雪那が消えることはなかった。

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