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ハプニング★メモリーズ  作者: 清水裕
九月の話
7/68

謝罪と償い

 始業式のため、授業は昼と同時に終わったが朝のダメージが酷くて俺は動けなかった。

 そんな時、クラスメイトが俺を呼んだ。

「おーい、奈々坂ーお前にお客さんだぞー」

 机にへばり付きながら、俺は感謝の意を告げるようにして片腕を掲げて力なく振った。

「おー、ありがとなー」

「あんまり待たすなよ。こんな可愛い双子をよー。てか、今度紹介しろよ!」

 何か良く分からないことを言いながらクラスメイトは鞄片手に教室を出て行った。

 それを見送りながら俺は立ち上がり、誰が来たのか首を傾げながら入り口へと歩くとそこには――。

「あ……、京ちゃん……」

 恥ずかしそうに俺と目を合わせないようにして癒樹音が立っていた。

 どうやら客は彼女のようだ。やっぱ……、朝のあれだよなぁ……。

「癒樹音、えーーっとその……さっきは……だな……」

「………………………………………………………………………………………………」

 直後、朝の出来事を思い出したのか、癒樹音の顔が物凄く真っ赤になり、ますます俺と目を合わさなくなった。

 同時に俺の脳裏にも朝に焼きついた二つの島……縞が蘇る。

「う、うわっ! その、悪かった。俺が悪かったから! すみませんごめんなさい許してくださいぃーー!!」

 何というかここで謝らなかったらずっとこのままな気がしたために、俺は両手を合わせて真剣に謝る。

 これで駄目だったならば、土下座でも靴でも舐めてやる!!

「え……きょ、京ちゃんっ?! あ、謝らないでっ、その、朝のあれは……事故、だったんだから京ちゃんは、その……悪くないよ」

「いいや! 俺が悪かったー!!」

「う、ううんっ。違うよ、事故だよ事故だったんだよ……!」

「いや、だから俺が――」

「だから事故で――」

 しばらく、俺たちは自分が悪い、事故だったと同じ会話を何周も繰り返した。

 そして、何十周かわからないほどに繰り返したころ……。

「「だからこれは――」」

「……いい加減に、しろーーっ!!」

「うぉ!? り、鈴華……い、居たのか??」

 いきなり目の前に現れた鈴華に俺は驚きの声を上げる。同時に、朝に受けた傷がズキズキ痛む感じがした。

 しかも、何かわからないけど既に機嫌がものすごーく悪い顔してるしっ!?

「『居たのか?』じゃないよ、居たよ最初っからっ!!」

「そ、そうだったのか、気づかなかった」

 たぶん、防衛本能が働いて視覚外に飛ばしていたのだろう。

「知らなかったじゃないよ! それに何? さっきから聞いてたら、おにいちゃんは自分が悪い。だのユキちゃんは事故だのって、とりあえずおにいちゃんが悪いってことでいいじゃん!!」

「で、でも、リンちゃん……」

「でもでも、何でもいいから……早く用件済ませて戻ろうよ」

 どうやら今のこの状況は鈴華はあまり好きではないようだ。

 けれど、彼女の一言で用件を思い出したのか、癒樹音がハッとする。

「あ、そうだったね……。うん」

「用件?」

「あのね、京ちゃん。今日の放課後に、その……本屋まで付き合ってほしいんだけど」

「本屋? どうしてだ?」

「学校で使う教科書を貰いに行くのっ」

「教科書持ってなかったのか?」

 基本的には教科書なんて何処も一緒だと思っているが、地方によって違うってことなのか?

「うん……、前の高校のは持ってるんだけど……その」

「先生に聞いたらボクたちの持ってる教科書の内の何冊かは違うみたいなんだよね」

「だからね、新しい教科書を買いに行くの」

 なるほど、今日中に買いに行かないと明日からの授業は出来なかったりするな。

 だが……。

「何で俺が手伝うことになるんだ?」

 むしろ、お前ら二人だけで言ってきたら良いんじゃないのか? そう思っていると鈴華が仮面の様な笑顔を俺に向けた。

「手伝う理由、最後まで言わせるつもり?」

 うん、ばっちり、朝のことを根に持っているらしい。

 校舎中走り回ってたら顔を覚えられるよな。

 ……それにしても、断ったら後が怖いとしか言いようが無いなこれは。

「はぁ……、お手伝いさせていただきます」

「よろしい、じゃあ行こっか」

 軽く溜息を吐く俺に対し、それを無視して鈴華は満足気に笑い、癒樹音はホッとした安堵の表情だった。

 そうして、俺は机に戻ると鞄を掴み教室をあとにした。



「ふぅ……はぁ……」

 両腕がずっしりと重い……。

 両手に双子用に用意された教科書が入った紙袋を持ちながら俺は歩く。

 両脚も疲れ始め、前に進めなかった……。

 うん、正直甘かった……。あえてもう一度呟くが……甘かった。

 俺の考えが甘かったのだ。

「あの……京ちゃん、大丈夫?」

 心配そうな顔をしながら、癒樹音が俺を見てくる。

「あー……正直、結構キツイ」

 一旦紙袋を地面に置くと、俺は指を解しながら癒樹音に言う。

 グーパーと手を広げたり閉じたりして、痛みが少し和らぐがこれも一時的ですぐにまた痛くなるだろう……。

「………………………」

 癒樹音の隣で気難しそうな顔をした鈴華が俺を見ていた。

 「さっさとしろ」……そう目で訴えかけているように俺は思える。

 だから言ってるだろ、甘く見てたんだと……。

 本屋だから、学校からの帰り道にある商店街の本屋だと思っていた。

 しかし、教科書を取りに行く本屋は家の帰り道とは反対方向にある駅前の本屋だったのだ。

 そして店員が「お待たせしました」と言って事前に学校側から連絡を貰っていたらしく、すぐにお目当ての品である教科書が出された。

 二つの紙袋が出されたまでは良かったのだ……。

 てか、何だよ……このキャンペーンはっ?!

 半ばヤケクソ気味に俺は店員の言葉を思い出す。

『ただいま、新学期キャンペーンで教科書をお買い求めになったお客様に各種ステンシルセットを差し上げております』

 そう言った店員は、笑顔と共に紙袋の中へどんどんと筆記用具セットを入れていったのだった。

 正直な話ただでもらえるというのはラッキーなことだろう。

 ……でもな、あえて言うとすれば、何だよ置物って! てか何!? 何なの、このおっさんが変なポーズ決めた銅で出来た置物は!!

「だから、何だよ! この銅、像ッ! 訳が、分から、ないっ!!」

「えーっと、それは文鎮……みたいだよ」

 苦笑しながら癒樹音が言うが返事をする気力が湧かない。

 愚痴りながらも再び荷物を持ち始めた俺は、一歩一歩前へ前へと足を進ませる。

 そんな俺の鬼気迫る表情にこちらを見ていた癒樹音が少し怯む。

「ほ、ほら、もう少しで家に着くよ! 頑張ろう、京ちゃん!」

 何かありきたりな台詞で励まされた。

 まぁ……、気づけばもう少しで我が家に着くところだった。

 あー、帰ったらマジで休ませろ……、氷が入った水をがぶがぶと飲んでリビングでぐでーッとしてやるからな……。

 そう考えながら、俺は家へと歩いて行くのだった。

きっと、駅前の本屋の色々サービスつけた商売方法だったんでしょうね。

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