その54 空虚な独り暮らし
空虚な独り暮らし
●森田卓の視点
カップ麺にお湯を入れた。ゆりかと別居してから毎日こればかり。
でも今日の銘柄はちょっと違う。期間限定の海鮮黒ゴマとんこつラーメンなのだ。
コンビニで最後の1個を手に入れたときはささやかな感動があった。
あとは4分待つだけ。。
ごはんもレトルトのやつ。レンジでチンして暖めるだけ。
まるで2年前の独身時代に戻ってしまったような気がする。
不意に、郵便配達人がポストに郵便物を入れてバイクで走り去る音がした。
ごはんも今レンジにかけたばかりだし、ラーメンができるまでにはまだ時間もある。
僕は玄関のポストから3通の郵便物を抜き取って、カップ麺のある食卓の前へと舞い戻った。
1通は家電店のキャンペーン広告。その次はケータイの請求書。
「請求書なんて見なくていいや…」
僕はラーメンのフタを空けて一口食べようとした瞬間、請求書の下から3通目の封筒の文字が目に入った。
「ゆりかからだっ!」
僕は割箸を置いて、真っ先にこの封筒から優先して中を開ける。
そして取り出した1枚の書類に声を失った。
ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!! り…離婚届!!
恐れていたことが現実になった。離婚・・・僕が離婚。。。
頭の中がグルグル回る。自分でも混乱してるのかよくわかる。
そんな中でも、その下にもう1枚の手書きの便箋があるのに気づいた。紛れもなくゆりかの自筆。
“卓さんへ
あっという間の2年間でしたね。楽しいこともいっぱいありました。
いずみとも仲良くしてくれて本当にありがとうございました。
でもお互いがこれ以上悩み苦しまないためにも、これがベストの形だと思います。
同封した書類に卓さんのサインをして、封筒に書いている住所に返信して下さい。
ゆりか”
僕は口を半開きにしたまま、その場でしばらく固まった。たぶん30分は1mmも動いてないと思う。
頭の中が真っ白になって思考能力がゼロになった。
目の前にある期間限定のカップ麺。運良く買えた最後の1個のささやかな感動など一気に吹っ飛んでしまった。
僕は、のびてゆくラーメンに手もつけずに、ただ漠然とそれを見つめているだけ。
もうカップ麺など食べ物ではなく、置物でしかないように見える。
僕に反論は何もない。ゆりかと別れなきゃならないなんてたまらなく悲しい。
たまらなくせつない。たまらなく悔しい。たまらなく自分が情けない。
たまらなく泣きたい。もう…たまらない。。
僕はゆりかに反論できない。反論できる立場じゃない。
僕はゆりかにそれだけの決意させるほどの行為をしてしまったんだもの。。
でもできるなら別れたくない。いや絶対別れたくない。
思考能力ゼロの今でも、かたくなにそう思っている自分がいる。
なんとかしたい…なんとかしたい。。なんとかしたい!!
僕はどうすればいいんだ?一体僕はどうすればいいんだ?
病的なまでに僕は、同じ言葉を心の中で繰り返すばかりだった。
(続く)