その50 サイテーな男
サイテーな男
●森田卓の視点
僕はとんでもないことをしてしまった。
本当にもう取り返しがつかない。
バレなきゃいいやなんて一度も思ったことないのに…
こんなことする気なんて全然なかったのに…
僕の心の油断だ。いや、優柔不断な僕の意志の弱さだ。
はっきりものが言えない僕の性格のせいだ。
いけないと思うことをはっきり断ることさえできない愚かな僕。
全て僕が悪い。僕が100%悪いんだ。
ドジしたときも、いつも反省や後悔ばかりが先に立って、未然に防げないでいる不注意者。
僕はゆりかを裏切ったことになるんだ。
しかも彼女を相当傷つけて。。
「あぁ…どうしたらいい?僕はどうしようもない大バカ者だ!」
僕は頭を抱えてうずくまる。
そばでしばらく静観していた是枝君がそっと言う。
「森田さん、すぐに奥さんの部屋へ行った方がいいですよ。」
もっともな意見だけど、行って僕の口から何が言えるだろう?
呆然と立ち尽くすだけでたぶん何もできない。
謝ってすむ問題でもない。でも謝らないともっと悪い。
「あぁ〜もうっ!!」
このハプニングで僕の頭は混乱するばかり。判断ができない。
でも行くしかない。何を言われても謝るだけだ。言い訳は無意味だ。
「奥さんのところに行っちゃうの?」
不意に三木さんが声を出した。
ショックな僕にこの無神経な質問はさすがにカチンときた。
「君は僕の家庭に絶対迷惑はかけないって言ったじゃないか!それがなんでだよ!」
「ごめんなさい…大丈夫だと思ったのに。。」
「なにがだいじょうび…」
興奮のあまりにこんな場面でかんでしまった。( ̄Д ̄;;
「と、とにかくゆりかのところへ行くよ。」
僕は早足で部屋を出た。
ゆりかはふとんに顔をうずめて泣いていた。
体も丸めて泣きじゃくっていた。
改めて後悔の念が押し寄せる。
僕はなんてことをしたんだ。。
僕にとって最大の伴侶のゆりかを泣かせるなんて。。
僕はサイテーの男だ。
「ごめんねゆりか。。許してくれるとは思ってないけど…本当にごめん。」
「うっうっ・・うっ・・」
たぶん僕の声は聞こえてるとは思うけど、ゆりかはただ泣いているだけだった。
「言い訳はしないよ。でもあんなことする気は全然なかったんだ。」
「それが言い訳じゃない。」
間髪入れず、ゆりかが突っ込みを入れた。
「そうだね。。ごめん。もう何も言わないよ。」
僕はゆりかのすすり泣く声だけを黙って聞いていた。
2、3分程経ったろうか・・
ゆりかがふとんからほんの少しだけ顔をずらして口を開いた。
「・・・あの女の人が好きなの?」
僕は速攻で返事をする。
「いいや、好きじゃない。」
「好きでもない人と寝る人だったの?卓さんて。」
「そうじゃないよ。向こうから急に無理矢理。。」
「そんなの断ればいいだけじゃない!抵抗できないほど腕っ節が強い女なの?」
「いや・・そんなことは。。」
「じゃあ好きだってことでしょ?」
「それだけは違う。僕は三木さんに何の感情も持ってないよ。」
「もういい。一人にして。」
「ここにいるよ。ずっと。」
「私がイヤなの。お願い。出て行って!」
「・・・・・うん。。ごめんね。。本当にごめんね。。」
僕は部屋を出るしかなかった。今はそうするしか。。
(続く)