その49 覚悟の上で
覚悟の上で
●森田ゆりかの視点
“何!?何なの?この目の前にある光景は!?”
私の頭の中が真っ白になった。
呆然と立ち尽くす私。
さっき是枝さんから届いた信じがたいメール。
“今、三木綾乃と森田さんが部屋に一緒にいるようです。その目で確かめますか?ショックを受けるかもしれないので、無理には薦めませんが”
まさかまさかの事態。私は三木綾乃という女性とはどんな人なのか、遠めからでも一度は確認しておきたいがためにこの旅館に来ただけ。
“それなのに…同じ旅館に私もいるのに、何でこんなことが起きるの?”
そんな場面なんて見たくもない。でも黙認してこの部屋で1人苦しみもがいてるなんてもっとイヤ!
私は更なるショックを覚悟で是枝さんに返信した。
“すぐに彼の部屋行きます”
部屋に近づくに連れて高鳴る胸の鼓動。
心臓が口から飛び出るくらいという表現の意味がわかる気がした。
部屋の前に着くと、是枝さんがドアの外に立っていた。
「余計なメールだったかもしれませんね。申し訳ありません。」
「いいんですそんなこと。でも是枝さんは卓さんと同室なのになぜこんなことに?」
「いや、僕は部長にマージャンに誘われてたんで、朝まで部屋には戻るつもりはなかったんです。たぶん、三木綾乃もそのことには気づいてたのかもしれません。」
「そう。。」
「僕がちょっとトイレで抜け出して、廊下に出たとき、彼女がこの部屋の方に歩いて行く後姿を見まして、こっそり跡をつけたらやはり。。」
「・・・・」
「僕はゆりかさんに連絡するかどうか悩みました。一旦は部長の元に戻りましたが、気になって仕方ないので、30分くらいしてから口実を作って三木の部屋を尋ねてみたんです。」
「・・・・」
「が、案の定いませんでした。同室の子に聞いても部屋には一度も戻って来てはいないと。。」
もうここまで聞けば、卓さんと三木綾乃はこの中にいるのに疑いはない。
「僕がドアを開けましょうか?」
「・・・いいえ、私が開けます。」
こうして私の目に飛び込んで来た光景が今のこの現状。
地べたの畳に男女二人が重なっている。男は紛れもなく卓さん。
恥ずかしげもなく、部屋は煌煌と明かりが点いたまま。
彼は仰向けで、その上に浴衣のほどけた女がまたがり、ドアに背を向け積極的に…
私は声を出すことさえできないでいる。
無我夢中なのか、私と是枝さんが入って来ても気づかないバカ女。
先に気づいたのは卓さん。私を見るや彼の目は大きく見開いて、表情が一瞬にして青ざめた。
「あっ!ゆりか…」
卓さんはすぐに女を払いのけて起き上がった。
「違うんだよこれは…これはその…」
説明に困っている卓さんに、払いのけられた女がまた彼の足元にしがみつく。
その表情には驚きや仰天などみじんも感じられず、ただ彼だけを見ていた。
「ちょっと三木さんてば…」
彼が口走った言葉で三木綾乃だということが確認された。
それにしてもなんだろう?この女。
私がいるのになぜ平気でこんなことを?それともわざと?
まるで夢遊病者。目がうつろでよどんでいるように見える。
もうこの場にはいられない。こんなところで説明も聞きたくない。
私はこの場を駆け抜けるように後にした。
こみ上げる涙で目がかすむ中、やっとのことで部屋に戻るなり大声で泣いた。
もうこれは決定的。。
信じてたのに・・・
信じてあげたかったのに・・・
(続く)