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その46 仕掛人

仕掛人


「まず…私はこれから浴衣のまま森田さんの部屋に行きます。」

「うん。それで?」

「森田さんが奥さんの部屋から戻って来るのを待ちます。」

「それから?」

「私は森田さんの姿を見ると、今まで以上にたまらなく好きになって、自制心を押さえきれなくなります。」

「そうだね。そしてどうするんだっけ?」

「森田さんに抱いてもらうように懇願します。」

「それで断られたら?」

「私はとても悲しくなって…泣いてしまいます。」

「そして?」

「私は、せめて一緒に添い寝だけでもさせて欲しいと訴えます。」

「よろしい。ちゃんとおさらいができましたね。」

「はい。。。」

「いいですか綾乃さん。これはあなたの意志による行動です。誰にも指示されたものではありません。わかりますね?」

「はい。。私の意志で森田さんに会いに行きます。」

「あなたは僕の名前を口にすることはできないようになっています。でも僕から出す指示には素直に従うようにもなっています。」

「はい。。」

「そしてもちろん、僕との会話を人に話すことはあり得ないことです。なぜなら、僕の指示は、あなたの自身の意志だからです。」

「私の意志。。」

「いいでしょう。では綾乃さん、僕がカウントを数えたらゆっくりと目を開けて下さい。さぁ、今夜のあなたは森田卓に会いたくて仕方ありませんよ。」

「ええ。。」

 是枝これえだと三木綾乃は外の暗闇の中で話を終えた。

といっても、一方的に是枝の催眠術による暗示を綾乃に施しただけのこと。話し合いと呼べるものではない。

 森田卓とゆりか夫婦が宴会場から去ってほどなくしてから、この二人もこの場に抜け出して来たのである。


 そもそも森田卓に三木綾乃を近づけるのは造作もないことだった。

 人に強力な暗示をかける催眠術も今や是枝のお家芸。

 かつてゆりかが通院していたクリニック。そのカウンセラーからの直伝なのだ。

 綾乃自身も自分が暗示にかかっていることなど認識はしていない。

 これまで少し時間をかけ過ぎたかもしれないが、全てはこの慰安旅行を利用するためにやって来たこと。

 是枝は、自分の元から立ち去って行く三木綾乃の後姿を見ながら、にわかにほくそ笑んだ。

「( ̄ー ̄ )フフ…これでよしと!あとは俺が時が来るまで待機してるだけだ。」


 是枝と森田卓は同室だった。そう仕組んだのも、部屋割り担当の是枝自身。

 この係りになるために、あらかじめ部長には根回しをしておいたのだ。

 是枝は確信していた。森田の性格からして、たとえゆりかの部屋で寝ることになろうとも、一度は必ず自室に戻って自分に報告すると。

 そしてそのときが計画の最大のヤマ場になるのだ。


「森田卓・・お前にゆりかさんは不釣合いなんだよ。ミスマッチにも程がある。」

                (続く)


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