その42 プライド・後編
プライド・後編
数秒間の沈黙の後、慎也は薄笑みを浮かべて口を開いた。
「( ̄ー ̄ )フッ 未練?そんなのないさ。」
しかしまりもにはそれが慎也の強がりのようにしか見えなかった。
「ホントに?元カノだったんでしょ?すっごい美人の。」
「…まぁ、美人は美人だがそんなの関係ない。俺はただあの女に思い知らせてやりたいだけだ。」
「元カノをあんなブサイクに奪われたんだもんね。」
「うるさいっ!奪われたんじゃなくて俺が捨てたんだ!森田はその後に現れた男だ。そして生意気にちゃっかりとゆりかを…」
「あのね、それが未練て言うのよ。捨てた女ならその後なんて誰と付き合おうが平気じゃない?」
「・・・・・」
慎也はまりもに自分の過去の汚点を打ち明けてはいなかった。
かつて、確かに一度はゆりかを捨てた。だが慎也は再び彼女とヨリを戻したくて会う約束を取り付けたものの、その時はすでに森田卓の存在があったのだ。
しかもその森田の目の前で、慎也はゆりかにきっぱりフラれて撃沈してしまったという過去がある。
「とにかく気に入らないんだ!俺よりいい男ならまだしも、よりによってあの森田だぞ!なんであんなブサイクがゆりかと結婚できるんだ?絶対納得できない!」
詳しい事情は聞かなくとも、まりもにはおおよその見当がついていた。こういうときの女の勘は鋭い。
「つまり慎也のプライドが傷つけられたって訳よね。」
「…違う。たとえ捨てた女でもブ男と結婚したら俺が負けた気分になるからな。それだけだ。」
まりもは思った。慎也は強がりを言っているにすぎない。そしてきっと事実を隠している。彼は自分の敗北を完全に認めたからこそ、その悔しさで森田夫婦を陥れようとしているのだ。
「それってやっぱり森田卓に嫉妬してることになるわよね。」
「まりも、さっきから俺にケンカ売ってんのか?」
慎也はベッドから上半身を起こして声を荒げた。だがまりもは至って冷静だった。別に慎也にケンカなど売る気など毛頭ない。
「ちょっと怒らないで聞いて!嫉妬なんて誰でもするものよ。恥なんかじゃないわ。」
「・・・・・」
「じゃあアタシが正直に言うわ。あのね、別に慎也だけが嫉妬したんじゃないの。」
「なに?…どういうことだ?」
「このアタシでさえ嫉妬したのよ。森田の奥さんに。」
まりもはゆっくり起き上がって慎也と肩を並べた。そして慎也に向き直って言った。
「アタシ、森田に聞いたことがあるの。奥さんはアタシよりも綺麗なの?って。」
「ほー(・。・) それで?」
「そしたら即答で奥さんだって答えだったわ。アタシにちっとも遠慮なくね。」
「アハハハ!あの森田がそんなにハッキリと言ったのか?そりゃ珍しい。」
「アタシ、あの時生まれて初めて嫉妬したわ。屈辱感も味わった。見てもいない森田の奥さんにね。」
「確かにゆりかはいい女だった。なかなかあんな女はいないな。」
「だからアタシももっと慎也に貢献しようと思ったの。森田を誘惑するのには慎重を期したし、念には念も入れた。」
その時、まりものその最後の言葉が慎也には妙に引っ掛かった。
「念には念を?」
「ええ。」
「……計画意外のことを何かしたのか?」
「計画の一環としてしたの。森田に目隠ししてから写真を撮って、慎也が送った2,3日後にアタシも奥さんに送ったの。」
「Σ( ̄□ ̄;!!なんだって!!?」
「これでダメ押しになったと思ってたのに、一体あの夫婦どうしてるのかしらね?」
「そうか・・・そうだったのか。。」
「????」
意外な慎也の反応を不思議に思うまりも。彼はため息を数回繰り返し、やがて一呼吸間を置いてから話し出した。
「わからんか?ゆりかたちに反応がないのはそのせいだ。」
「どういうこと?」
「お前のしたことは余計なことだ。森田卓はバカだが、ゆりかはバカじゃない。そんなしつこいことをしたら『罠を仕掛けましたよ』って言ってるも同然じゃないか!」
「そうかしら・・・?」
「あのな、俺の撮った写真はお前たちが一緒に店に入っていく瞬間ばかりだ。つまり第3者が撮ったもの。」
「ええ。」
「それに比べてお前の写真はどうだ?明らかにプレイルームで撮った写真、つまりお前しか撮れない写真だ。その写真をゆりかに送るなんて、お前が仕掛け人だと証明してるもんだ。」
「あ・・・」
「アホが!」
(続く)