その4 恩人・美智代登場
恩人・美智代登場
●森田ゆりかの視点
仕事からの帰宅途中、私の携帯に卓さんからメールが来た。
“ごめんなさい。今日残業だから遅くなります。”
彼のメールはいつも丁寧語。そして何かにつけ謝るクセがついている。
性格上、どうしようもないことなのかもしれないけど、少しくらいのぶっきらぼうさがあってもいいと思うのは私だけなのかな?
家路に向かう路線バスの中で私は返信をする。
“どのくらい遅くなるの?いずみと先に夕飯食べてるよ?”
間もなくして彼から返信が来る。
“いつもより2時間遅くなるくらいです。先に食べてて下さい。”
(;-_-) =3 フゥ・・確かに彼は優しいけど、私に遠慮し過ぎてストレスが溜まってそうな気もするんだけど。。
それとも私がリーダーシップ執りすぎるからかな?彼をもっと前面に押し出してあげれば変わってくれるかな?
そんなことを思いめぐらせながら私はバスから下車すると、夕飯の買出しのために近所のスーパーマーケットに立ち寄った。
とりあえず、家の冷蔵庫に不足している野菜の補充分とお買得品の品定め。
ちょうどその時、店内ではタイムサービスが始まって、おばさま主婦連合がコーナーにどどっと詰め寄り、押しも押されぬ状態の中で必死に豚バラのブロックを手に入れようとしている。
私はそういうのが苦手。あのパワーの波の中には入ってゆけない。品物をGETした人を遠目で少しうらやましく思いながら、私は他の通路へ移動した。
すると突然、私の視線の死角方向からショッピングカートの中にいきなりボンと豚バラが1パック飛び込んで来た。驚いて振り向く私。
「美智代!!」
「ゆりかお久しぶり。元気?」
「うん。元気だよ。ホントひさしぶりね。この店よく来るの?」
「まあね。この近くに引っ越して来たの。彼と一緒じゃ前のアパートは手狭でね。」
そういえば美智代は半年ほど前から同棲を始めたことをメールで知らされていた。
「二人だけなのに手狭だったの?」
「ほら、あのアパート壁が超うすいしさ、寝室の壁の向こうは隣の家の茶の間じゃない?私声大きいし。」
「ちょ・・ちょっと美智代、こんなとこで何言ってんのよ!(^□^;A」
私がまわりをチラッと見渡すと、そばで買い物をしている主婦が数人クスクス笑っていた。
「アハハ。アタシとしたことがww」
「いえ、それが美智代よw」
「そのうちゆりかんちに遊びに行くね。豚バラはお近づきの印にどうぞ。」
「うん。ありがとう。さすが美智代ね。あのタイムサービスの中に紛れ込んでたなんて。」
「ええ。奪い取って来たわよ。なんせ彼、今プーだし生活かかってるもん。」
「じゃあこれ返そうか?」
「いいのいいの。いずみちゃんに食べさせてあげて。それとあのチンチクリンにもw」
「相変わらず彼の名前言ってくれないのね(^_^;)」
「ごめん。なんかこの方が言いやすいの。」
「 (o^-^o) ウフッ。それは大目に見るけどね。美智代のおかげで彼と縁りを戻せたご恩は一生忘れないわ。」
「それが良かったんだかどうだかわからないけど、今のゆりかが幸せなら正解だったわけね。」
「ええ。おかげさまで。」
「もう例のクリニックには行ってないんでしょ?」
「もうこりごり。いい先生だったんだけどね。」
「それ聞いて安心したわ。まだ催眠術にかかってるんだったら大変だもんw」
「安心して。これは今の私だから。」
「アタシはどうなるかわかんないけど、成り行きに任せるわ。」
「美智代なら大丈夫よ。」
「修羅場に慣れてるからね。」
「そういう意味じゃなくて・・」
「わかってるよ。アタシは平気!じゃあ今度、絶対遊びに行くからね。」
「私も遊びに行くかも。」
「うちには来ないで。ヤバイんだ。」
「散らかってるのなんて気にしないよ。」
「それもあるんだけど、うちの彼、昼夜見境なく襲って来るのよ。こないだも宅急便来たとき、アタシ息あがっちゃってて・・」
「Σ|l( ̄▽ ̄;)||そ、その話はもうおしまい!わかった。行かないからw」
「ごめんねぇ。」
美智代と話すといつも刺激的だ。でもいざというときに機転が利く尊敬すべき友達。
彼女も幸せになって欲しいな。。
そう思いながら私は100g10円の豚ロースをホクホク顔で眺めていた。
私が卓さんの異変に気づくのはもう少し先のこと。。。
(続く)