その37 見られちゃった!
見られちゃった!
●森田卓の視点
「なんでこんなところで弁当食べてるんですか?」
「`;:゛;゛;`(;゜;ж;゜; )ブッ!こ、是枝君、いつからここに?」
僕はそれまで飲んでいたごはん混じりのお茶を思わず吐き出した。
「大丈夫ですか?僕は今来たばっかりですよ。たまに屋上に出てみたくなったもんですから。」
「いやでも。。」
そう、僕は会社の屋上の片隅で、今日も三木さんからもらった手作り弁当を食べている真っ最中。人に見られてはいけない場面なのだ。
うちの会社の屋上なんて、めったに人が来ないはずなのに。だからここを選んだのに。
しかも僕は出入り口から真裏の日の当たらない狭いスペースの中でひっそり食べていたというのに、是枝君がひょっこり現れるとは想定外だった。
「な、なんでわざわざこんな日陰に来たの?」
「陽射しがきついからですよ。今何度だと思います?36.7度ですよ?信じられない暑さじゃないですか。赤道直下でもないのに。」
「まぁ温暖化が進んでるからね(^_^;)是枝君、こんなとこよりエアコンの効いた中の方がいいのに。」
「それは森田さんだって同じと思いますけど?」
「う…それは。。今日はたまたま外で食べる気分だったから。。」
「じゃあ僕もそれと同じ理由です。たまたまここに来たかったんです。」
「あ、そう(⌒-⌒;」
是枝君は不思議そうな顔でマジマジと僕の弁当を覗いていた。
「どうかした?唐揚げか欲しいの?」
「いえ、違いますけど。」
「じゃあこのエビチリシュウマイ?」
「いえ、僕はお腹いっぱいですから。」
「じゃ何?」
「あのー。。森田さんさっき、自分のデスクで別な弁当食べてたんじゃありませんでした?」
「ヘ( ̄ω ̄|||)ヘぎくッ!」
是枝君の言ってることは図星だった。さっきまで僕はゆりかの弁当をデスクで食べていたからだ。
「いやいやいや、半分残して来ただけなんだ。場所を替えようと思って。」
苦しい言い訳の僕。当然突っ込まれるのも無理はない。
「でも弁当箱の種類も形もも全然違いますよね?」
「え?あ、これはその…ほら、僕って早食いで大食いでしょ?」
「知りませんけど。」
「いや実はそうなんだ。だからお代わり分も作ってくれるんだ。」
「へぇ、それはすごいですね。それで弁当が二つあるんだ。」
それでも枝君はまだ不思議そうな顔が解けずに僕から離れない。
「まだ何か?(^_^;)」
「…森田さん、僕にウソは言わなくていいですよ。」
「別にそんな…」
「その弁当はもらったものでしょ?三木綾乃に。」
ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!
僕は一瞬にして自分が顔面蒼白になっていることがわかった。そしてただの一言も是枝君に反論どころか言葉すら出ないでいる。
「森田さん。そんなバケモノを見るような目で僕を見ないで下さい。僕は森田さんの味方ですよ。」
「……えっ?」
「それとも僕が黒崎や白石たちと同じ穴のムジナだと思ってます?」
「いや、そんなことは…」
「なら良かった。彼らは森田さんをからかって楽しんでるだけですからね。」
「はっきり言うね(⌒-⌒;」
「とにかく安心して下さい。できる限りのことは協力しますから。」
「き、協力って…何の?」
「じゃあまたはっきり言わせてもらいますけどね、森田さんは今、何かやっかいなトラブルに巻き込まれてるんじゃないですか?」
是枝君は核心をついてくる。確かに当たっているけどなぜ彼は僕のトラブルがわかるんだろう?思い切って聞いてみた。
「是枝君は僕のどんなトラブルを知ってんの?」
「詳しくは知りませんけど、さっきも言いましたが、三木綾乃から毎日弁当をもらっていること。」
「そ…それで?(⌒-⌒;」
「そのおかげで森田さんが明らかに太ったこと。」
「やっぱわかる?(^□^;A」
「失礼な言い方ですけど一目瞭然です。」
「(´▽`;)アハハ…じゃあきっとまわりの同僚にも気づかれてるってこと?」
僕は苦笑いしてるしかなかった。
「それはどうでしょう?みんな森田さんには関心がないから気づいてるかどうかは…」
「((ノ_ω_)ノバタ。是枝君、ホントに僕の味方になってくれるの?^_^;」
「もちろんです。だからはっきりしておくべきことは言っておかないとと思いまして。」
「な、なるほど。じゃあ他には何か気づいてることある?」
「他にもあるんですか?」
「(゜゜;)ギク!いや、何もないよ。何も」
「なんかありそうですね。他にも女難の相とか。」
「えー?!(◎0◎)どうしてわかるの?」
「やっぱりあったんですね( ̄ー ̄; 」
「あ・・・」
自分でもあきれるほどバカ正直だとつくづく思う瞬間だった。全くこんな瞬間が今までに何十回あっただろう。。(⌒-⌒;」
「で、話を戻しますが、どうなんです?森田さんは三木綾乃をどう思ってるんですか?不倫してもいいと?」
「と、とととととんでもないっ!僕はうちの奥さん一途だよ。この弁当は断りきれなくてもらってるだけで。。」
僕は食べかけの弁当のフタを閉じた。もう食べる気もしない。
「やっと正直に言ってくれましたね。」
「だって変な勘違いされたら大変だからさ。」
「わかりました。信じますよ。だから安心して下さい。」
「じゃあ頼むから僕と是枝君だけの話ということでお願い…」
「もちろんです。このことは奥さんには絶対バレないようにしなければなりません。」
「う、うん。(・・;)」
「だから奥さんに何か勘ぐられることがあったとしても絶対にシラを切るべきです。わかりますか?」
「そ、そうだね…うちのゆりかは勘がいいから。。正直、今でさえ何か探られてるような気がするんだ。」
「それなら尚更です。知らぬ存ぜぬでいいんです。証拠がない以上、推理にすぎませんからね。変に誤解されて火種の元になるのもいやでしょう?」
「だよね。。うん、そう思う。是枝君、恩に着るよ。ありがとう!」
「良かった。何かあったら相談にのりますから気軽に声かけて下さい。」
去ってゆく是枝君を見ながら再び残りの弁当を食べ始める僕。ひとつホッとすると食欲が急に沸いてきたのだ。
「これだから太るんだよなぁ。でも残すのもったいないし。。あぁ、メタボにも気をつけないと。。」
●森田ゆりかの視点
仕事後の買い物中、私のケータイに是枝さんからメールが来た。
結局この前、彼と会ったときに番号とメアドを交換したのだった。
“心苦しいですが、ゆりかさんには正直に言っておこうと思いまして。。
実はご主人、三木綾乃から毎日手作り弁当をもらって食べているようです”
( ̄□ ̄;)!!そ、そんな。。。
私は絶句した。彼の文章はまだ少し続いていた。
“ゆりかさん、くれぐれも僕が教えたことは内緒にして下さい。僕とゆりかさんが顔見知りだということをご主人は全く知りませんし、ご主人と一緒に仕事をしている僕の都合上、恨まれたくないのです”
私はすぐに返信した。
“決して言いませんから安心して下さい。教えて下さって感謝しています”
買い物中だった私は、一気に今夜の献立を考える気力を失ってしまった。今日はもう何も作る気になれない。
ちょうど私は、目の前に陳列されている特売のカップラーメンに気づき、おもむろに3個、ショッピングカートに投げ入れていた。
(続く)