その34 相談相手
相談相手
「是枝さん、3番回線にお電話です。非通知で。」
「誰から?」
「知人だと言ってます。出ればわかりますと。女性です。」
「え?……わかりました。出てみます。」
仕事も昼休みになろうとしていた矢先、是枝は突然の個人的電話に少し戸惑いながらも自分のデスクの前に配置されている受話器を取った。
「もしもし、お電話代わりました。是枝ですが。」
「突然ですみません。私、森田ゆりかです。」
「ゆり…!!」
是枝はすぐに口をつぐんだ。自分の斜め前のデスクには森田卓が座っているのだ。
「あの…主人には内緒にして下さい。そばにいるんでしょう?」
「ええ、僕のすぐそばに(^_^;)」
「三木綾乃という人も近くの席なんですか?」
「え?あぁ…いえ、彼女は少し離れた席です。」
「そうですか…あの、失礼ですけど是枝さん、先日私宛に郵便物を送りました?」
「は?いえ何も。…どうかしましたか?」
「じゃあ是枝さんではないんですね…」
「何か事情がおありですね。僕で良かったら話をうかがいますよ?」
「今はまだ仕事中なので…私はもうすぐお昼休みですけど是枝さんはどうですか?」
「僕も正午から1時間そうですよ。」
「じゃあそのとき携帯でお話していただけますか?」
「ええ、それは構いませんけど…会って話はできませんか?」
「それはちょっと…そちらと距離がありますし、昼休み時間だけでは足りませんもの。」
「そうですか…わかりました。じゃあ番号を教えていただけたら僕からかけましょうか?」
「いえ…是枝さんに通話料でご迷惑をかけますから私の方からで。。」
「( ̄m ̄o)プ そんなのパケ放題だから平気ですよ。意外とこまかいんですね。」
「あ…うちはパケ放題じゃないものでつい…(; ^ ー^)」
「でしたら尚更僕から電話した方がいいでしょう。僕に番号を知られたくないのなら別ですが…」
「それも少しはあるんですけど…」
是枝は思った。“なんだ、結局本音はここか”
「僕を警戒するわりに会社に電話してくるあなたも不思議ですね。」
「警戒だなんてそんな…失礼なこと言って気を悪くされたのならごめんなさい。」
不意に皮肉をからめてしまった自分の言動に“まずい”と気づいた是枝は、急ぎ言葉を訂正する。
「いえいえ、いいんです。僕の方こそ余計なことを言いました。せっかく勇気を出して僕にかけて来てくれたのに。」
「私…どうしても確かめたくて…私の携帯番号おしえますので。」
ここから是枝は小声で囁くように話す。
「あの…やっぱり会って話しませんか?ご主人にも関わる大事ことでしょう?」
と是枝は、そばでデスクに向って仕事をしている森田卓の背中をチラ見しながらゆりかに問いかける。
「ええ、そうなんですけど…でも時間が…」
「昼じゃなくても仕事が終わってからの方が時間がとれませんか?」
「そう…ですね。どこか目立たない所で少しの時間なら…」
「もちろんです。ではそうしましょう!」
「はい。」
こうして待ち合わせを決めた是枝とゆりか。
だが、このことが森田卓とゆりかの結婚生活の崩壊に拍車をかけることになる。
(続く)