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その30 言えないどうし

言えないどうし


●森田ゆりかの視点


父親参観から5日経った今も、いずみは卓さんと話をしていない。

あの日の夜、卓さんはいずみが大好きないちごロールケーキを買ってきてくれて、少しは機嫌が良くなりかけたのは確か。

 でも卓さんはかなり酔っていたせいもあって、ケーキの箱を持ったまま上着を脱ごうとする意味不明な行動にでた。

 当然そでを外したとたんにケーキの箱が床に落ちる。それに気づいてビックリした卓さんは、体のバランスを崩してよろめき、片足立ちになった。

 転ばないようになんとか踏ん張って体勢を戻したのだけど、宙に浮いた片足が着地した場所は、ものの見事にロールケーキの箱の上だった。

 

 “グチヤッ!!”


「あ!Σ|ll( ̄▽ ̄;)||l」

 卓さんが思わず叫んで棒立ちになっていたとき、ケーキの取り皿を準備してやって来たいずみが目の前にいた。

「もうっ!卓くんのドジッ!!酔っ払い!」

 いずみはそのまま反転して部屋に閉じこもった。

 卓さんは鍵のかけられた部屋のドアの前で何度も謝った。午前中の授業参観に教室で起こしたドジも含めて謝った。

 いつもの私なら、ここで卓さんのフォローをしてあげるのだけど、今回はできなかった。是枝これえださんの“あの話”をお昼に聞いてから、私自身も彼に疑念が生まれていたからだ。

 この5日間、私は卓さんに確かめられないでいる。聞くのが怖い自分がいる。いつから私はこんな臆病者になったんだろう?

 今まで何度も傷ついてきた。精神的にもどん底を味わった。病院やカウンセリングにも行った。そしてやっと掴んだ幸せ。

 この1年半、本当に充実した楽しい生活をおくってきたのに…

 是枝さんの話なんて信用したくない。そうよ。証拠もないんだし、人の話を鵜呑みにして深く考える必要なんてないはず…

 そう自分に言い聞かせても、モヤモヤした気持ちが晴れないのは否めなかった。


 ●森田卓の視点


 5日前のまりもさんと三木さんとの掛け持ちデートはゆりかにバレなくて済んだ。

 気持ち的には胸を撫で下ろしていたけど、やっぱり後ろめたくてあと味が悪い。

と言って事実すべてを打ち明けることもできない。こんなこと話したらゆりかはきっとショックを受けるに違いない。

 結局、ゆりかにウソをついてもらったお金も使わなかった。まりもさんとのカップル喫茶では彼女が清算していてくれたし、三木さんと食事したの和食のお店でも、彼女が支払うと言ってきかなかったので、僕がそれをかたくなに遮る理由もなかったからだ。

かと言って、余ったお金をそっくりゆりかに返金するのも不自然だ。心苦しいけど、僕のポケットマネーにするしかない。

“ごめんねゆりか…”

 僕は家事をしている彼女の後姿を見ながら心で詫びた。

 それにしても今だに続いている弁当攻撃。毎日お昼に三木さんとゆりかの手作り弁当を二つ食べているから太った気がする。いや、確実に太った。昨日からベルトの穴がひとつ分移動した。


「卓さん、明日の土曜日は何か予定ある?」

 夕飯の片付けを終えたゆりかが僕に尋ねる。

「いや、別にないよ。どうして?」

「あのね、3人で遊園地に行きたいなぁと思って。」

「??ゆりかが行きたいの?」

「違うわよ。卓さん、このままいずみといつまで口きかないつもり?」

「僕はそんなつもりはないんだけど、いずみが口きいてくれないからさ…」

「だからよ。いずみともっと楽しい時間を過ごせばきっと機嫌直してくれるわ。」

「うん。。そうだね。わかった。そんじゃ明日みんなで行こうか!」

「決まりね。良かった。」

「いずみは行くって言ってくれるかな?部屋から出てこないけど…」

「大丈夫よ。いずみは遊園地大好きだもん。私が伝えておくから。」

「うん。頼むよ。。」

 僕は自分の力不足を痛感していた。9歳の女の子の心を傷つけてしまった。なんとか挽回したい気持ちでいっぱいだ。


 そんな時、1本の電話がかかってきた。ゆりかがすぐに受話器を取って応答する。

「もしもし森田ですけど…あ!パパ?久しぶり。どうしたの?・・・え?明日?」

 どうやら電話の相手はゆりかパパのようだ。会社では取締役員の幹部で時期社長とも目されている人。

「明日はちょっと…家族で遊園地に行こうと思ってるの。・・・Σ('◇'*エェッ!?ホントに?じゃママは?・・・あぁ、ママは無理なのね…」

 会話の内容からなんとなく不安を覚えた。電話を終えたゆりかは僕の方に振り返って言った。

「明日パパが来るって。」

「( ̄□ ̄;)!お父さんが!?じゃ遊園地は中止…?」

「いいえ、一緒に遊園地に来るって^_^;」

「(ノ _ _)ノコケッ!!ありゃ」

「ママは婦人会のお茶会があるから来れないみたい。」

「Σ|ll( ̄▽ ̄;)||lお父さんだけって…なんか怖いなぁ。。」

「パパはそんなに鬼のように見える?」

「僕に対しては表情がいつも険しい気がするんだけど…そもそも結婚だって渋々許してくれたわけだし(⌒-⌒;」

「でも逆に考えれば、パパと仲良くなれるチャンスよ。いずみとも元通りになれば明日は一石二鳥だわ。」

「ま、まぁ確かにそう考えればそうだけど。。」

「私もいるから大丈夫よ。ね!明日は楽しみましょ!」

「う、うん。。」

 あぁ…困った。僕はまた何かやらかしてしまう気がする。。( ̄ー ̄; ヒヤリ

                (続く)


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