その3 嫉妬渦巻く社内
嫉妬渦巻く社内
●森田卓の視点
「あれ?森田。自慢の愛妻弁当はどうしたんだ?」
思った通り、早速同僚から茶々が入った。
僕は今日から社員食堂で日替わり定食を食べている。
この1年半続いたゆりかちゃん・・いや、ゆりか手作りの弁当が終わったからだ。
と言ってもケンカして彼女がやめたいと言ったわけではなくて、僕が遠慮したからだ。
なぜならお互い共働きなのに、特に朝の弱い彼女が今まで毎朝早起きして弁当作りなんて、だんだん気の毒に思えて来たからだ。
僕はこれまで彼女に自分のドジで負担ばかりかけて来たし、こんな性格ではドジは治りそうもない。
だから彼女に何のお返しもしていない。せめて朝はバタバタさせずに、もう少し時間のゆとりを持たせてあげようと思ったのだ。
そのことを同僚の黒崎君に言うと予想外の返答。
「バッカだなぁ森田。だったらお前が弁当作ってやったらいいだろが。」
「Σ('◇'*エェッ!?僕が?・・そ、そんなこと考えもしなかった。(^_^;)」
「アホか。できなくても考えるくらいしろよ。」」
「でも僕、カップめんしか得意じゃないし。」
「それ得意って言わねぇし。」
「でも・・ゆりかちゃ・・ゆりかにそれで納得してもらったからいんだ。」
「じゃあ嫁さんの昼メシはどうしてんだ?」
「向こうにも社食があるって言ってたから。」
「ふぅん。でも喜んで作ってもらってるうちは遠慮することないと思うけどな。」
「そうかなぁ。。」
「ヘタするとお前の浮気疑惑の原因になるぞ。」
「( ̄□ ̄;)!!えっ?そうなの?」
僕は一瞬ドキッとした。
「(≧∇≦)ぶぁっはっはっ!!バカだなお前も。森田と不倫する女なんているわけねぇじゃん。お前が今の嫁さんもらったのだって奇跡なのによ。」
結構な言われようだが、事実だから仕方がない。(-_-;)
ゆりかちゃ・・いや、ゆりかと結婚してから職場では、ずっと世界の7不思議のように言われ続けている。
男の嫉妬とでも言うのだろうか、何かにつけて同僚たちは、
「珍しいもの好きな嫁さんなんだな。」とか
「そんなんじゃ嫁さんに逃げられるぞ!」とか
「嫁さんのことばっか考えて仕事してんじゃねぇぞ!」などど言われ続け、
“世界一不釣合いな新婚さん”のレッテルを貼られていた。
こんな奴ら結婚式に呼ばなきゃよかったよホントに。。
黒崎君にからかわれた後も、社食を食べに来た同じ部署の田嶋君や白石君たちから茶々が入った。
「お?森田がここでメシ食ってるぞ。どした?とうとう夫婦間に亀裂が入ったか?やっぱりなぁ。そうだと思ったんだ。」
「いや、違うってば。僕が作らなくていいって言ったんだよ。」
「(・。・) ほー、そうか。嫁のご機嫌取りか。」
田嶋君がしつこく絡んでくる。
「もうどうにでも受け取っていいから僕に構わないでくれる?メシくらい静かに食べたいんで。」
「俺たちはにぎやかにメシ食った方が楽しいんだけどな。なぁ白石。」
「そうだぞ森田。コミュニケーションは大事なんだぞ。」
「。。。。」僕は返事をしなかった。
「まぁお前たち夫婦も時間の問題だと思うけどな。あと1年ってとこかな。」
「俺は半年に賭ける!」
「お、いくら賭ける?白石。」
せっかくの焼きたて塩さば定食が味もそっけもなくなってしまった。
これから毎日こんな奴らと一緒にここで食べなきゃなんないのか?
仕事中はあまり私語をしないから我慢できるけど、こんなランチタイムならまっぴらごめんだ。明日から近くの弁当屋で買って外で食べよう。
僕はほぼ丸呑み状態でごはんをかき込んだ。早くこの場所から逃げたかったからだ。
でもそれが災いして、思いっきりのどにつかえてむせてしまった。
ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ!う・・ゲホッ!ゲホッ!
ごはんを口に入れたままむせたので、かなり噴出してしまった。
しかもタイミングの悪いことに、ちょうど僕の正面に自分のお膳を運んで来た是枝君の顔にモロぶっかけ状態。。
「あぁっ!ご、ごめん。ゲホッ!是枝君・・大丈夫?」
「( ̄ー ̄; いや、大丈夫じゃないけどね。。」
後ろからウケまくる田嶋君と白石君。
「ぎゃはははは(_ _ )ミ☆ バンバン。やっぱり森田だ!」
(;´д`)トホホ・・これだから僕はダメなんだな。。
その時、ごはん粒だらけの顔を拭き取った是枝君が僕に小声で言った。
「気にしなくていいから。森田君もあんな田嶋たちの言葉に耳を貸すんじゃない。」
「え?う、うん。。」
是枝君はつい最近、他の部署から移動して来たばかりの人だった。年齢も僕よりひとつ上の30歳。おとなしめで真面目な人という印象がある。
「森田君、僕もね、田嶋たちは大嫌いなんだ。人をコケにする奴らは軽蔑するよ。」
「是枝君。。」
なんか嬉しかった。こんな些細なことだけど、この職場にひとり仲間ができたような気がした。
それから是枝君は立ち上がって、田嶋君たちへ向って言い放った。
「君たちは森田君に嫉妬してるだけだろ?」
「なんだと?!」田嶋君が怒り出す。
「僕は彼の結婚式に出てないから、どんな奥さんかは知らないけど、超美人なことは社内の噂でも有名だ。だからって森田君に嫉妬するのは男としてみっともないことなんじゃないかな?」
「嫉妬なんぞしてるかよ!」
「じゃあなぜいつも彼の奥さんを話題のおかずにして彼をバカにしてるんだ?」
「そ、そりゃ。。」
「結局さ、君たちは未だに独身。まぁ僕もだけど。とにかく君たちは森田君に負けたんだよ。合コンによく行くそうだけど、彼女を仕留めたのは森田君だけじゃないか。」
「森田はまぐれだ。」白石君が苦々しく言う。
「まぐれでも事実は事実だろ。森田君の良い所はわかる人にはわかるってことさ。」
「いくら森田の内面が良くたって、その前に外見でキャンセルされるのが森田だったんだ。それなのに。。」
「それなのに?ほら、嫉妬してることが今その言葉で証明されたじゃないか。」
「チクショウ・・是枝め。お前が森田に味方したって何もいいことないんだからな!」
「僕は誰の味方でもないさ。正論を言ってるだけだよ。」
「かっこつけやがって。。森田はいずれ嫁さんに捨てられるさ。そして二度とモテるはずがないんだっ!」
そう田嶋が言い放つと、二人は何も言わずに静かに定食を食べ始めた。
「是枝君・・なんかごめん。。僕がもっと強かったらいいのに。」
「僕だって強かぁないよ。今だって実はかなりの勇気だったんだ(⌒-⌒;」
「でも言えるだけすごいや。。」
僕は彼を尊敬の眼差しで見ていた。
この時の僕はまだ何も知らなかった。。
僕の平穏なプライベートが、緻密な陰謀の渦に巻き込まれてゆくなんて。。
(続く)